作戦、開始出来ず
依頼の報告が終わると、いつも通りのようにリフィさんと世間話に花を咲かせた。
仕事中なのにいいのかとも思うんだけど、
「別段問題は無いわ。」
というので考えるのは止めた。
リフィさんなら、上手いこと誤魔化せそうだし。
話題の中心は、やはりというかフードから顔をヒョコっと出した子猫についてだった。
リフィさんも、子猫の可愛らしさにやられてしまったらしく、頭を撫でさせるとニマニマした笑みを浮かべていた。
ある程度の時間、話をすると、また明日来ることを告げて、ギルドを後にする。
家に帰ると、自分の部屋に直行した。
まだ、この子の存在に、気付かれるわけにはいかないからだ。
部屋の扉を閉めると、フードから抜け出した子猫は私のベッドの上へ。
もう指定席のようだ。
ローブや剣を壁に掛けると、私もベッドに腰をおろす。
軽く子猫を撫でると、ゴロゴロ鳴きながら私の膝の上に乗っかり、丸くなってしまう。
仕方がない。
しばらくの間、そのままにさせておいた。
しかしこの子猫、なんであんな草原にいたんだろう?
魔物に追いかけられるような事になってたし。
確かに、野生の猫というのもいるにはいるが、この子のように、初対面のしかも人間に懐くなんて話聞いたことがない。
それとも飼い猫?
でも、だったら私の所に逃げて来る前に、魔物にやられていそうなものである。
どのくらいの間、逃げ続けていたのかはわからない。
それでも、あれほど俊敏に逃げていたのだ。
この可能性も低いだろうな。
などと、この子について、しばらく考察をしてみるものの、答えが一向に思い浮かばない。
ある程度、いい時間が過ぎたと感じた私は、子猫を膝の上から降ろし、立ち上がる。
そろそろサラさんが夕食の準備を始める頃合いだ。
家に居る以上、食事の準備位は手伝わないと。
主に自分の為に。
台所に向かうと、案の定サラさんが食事の準備をしていた。
今日の献立は、川魚の焼き物と、最近お店の方で試し始めた、この街より北東に位置する国、カーマイル名産の漬物という物。
後はスープ辺りを作ろうかと考えているとのこと。
今日は平和な食事になるかな?
結果、今日の食事は美味しかった。
サラさん特製のスープ意外は・・・
スープを口にした私とお爺ちゃんは、目を合わせると苦笑いだったけど、お兄ちゃんは美味しそうに食べていたのは何時ものことだ。
食事が終わると、いよいよ作戦開始だ。
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
「なんだ?大体予想はついてるが。」
「えっ?」
「猫、拾ってきたんだろ?お前がギルドに向かうのを追っかけて行くのが見えたからな。」
隠してた意味無いし!
たいした作戦じゃないけど、昼間のサラさんとの話が何の意味もないよ。
驚いた表情を浮かべる私に、あらあらと少し困った表情のサラさん。
我関せずといった具合でお茶を啜るお爺ちゃん。
そして、してやったり顔のお兄ちゃんだ。
「それで、その猫ってのは何処にいるんだ?」
そう言うので、連れてこようと居間の扉を開けると、子猫が座って待っていた。
あれ?部屋に居たんじゃなかったっけ?
「ニャー」と鳴きながら、首をかしげる姿がまた可愛らしい。
子猫はそのままトテトテと歩いて、部屋の中へ。
お兄ちゃんの前にまで行く。
「こいつか・・・」
お兄ちゃんが、子猫を抱き上げる。
「じい様、どうする?」
「ふむ、頭がかなり良さそうな猫じゃな。店の仕事に迷惑をかけないのであれば、儂はかまわんぞぃ。」
「だと。サラは、こいつを飼うことに乗り気みたいだしな。ちゃんと面倒見てやれるならいいんじゃないか?」
さらりと話が決まる。
「それで、こいつの名前は決まってるのか?」
「まだだよ。飼っていいって許可でないと、なかなか決められなかったから。」
「そうか。サラは名前何が良いと思う?」
「うーん、そうね・・・可愛ければ良いわ。私、名付けのセンスないし。」
「そうか・・・なら・・・お前の名前はナイトだ。どうもアリスの後を、チョロチョロついて回りたいみたいだしな。どうせなら守ってやれ。」
そう言って、勝手に名前を決めてしまう。
満更でも無さそうに「ニャー」と鳴いて子猫は答えている。
「なんだか嬉しそうね。ナイトちゃん、これからよろしくね。」
サラさんは、『ナイト』という名前に異存は無いようで、お兄ちゃんの方に手を伸ばすと、子猫の頭を撫でる。
気持ち良さそうだ。
「フォフォフォ・・・よい名前をもらったのう。名は体を表すというしの。アリスを頼むぞ。」
その光景を見ながら、お爺ちゃんもこんな具合だ。
まぁ、いいか。
悪い名前じゃないか。
「ナイトか・・・うん、悪くないかも。」
「だろ?」
したり顔のお兄ちゃんが少しウザイ。
「ナイト、おいで。」
私が言うと、お兄ちゃんから降りると、私の膝の上に座り、再び「ニャー」。
「本当に頭良いな。まるでこっちの言葉を理解してるみたいだ。それに可愛いし。」
「それにこんなに小さいのに、とても素軽い動きをするのよ。ただの猫とは思えないわね。それに可愛いし。」
何だろう、もう親バカ発揮している。
ごく短時間で、こんな風になってしまうのなら、二人に子供でもできた日には大変だ。
いずれ来るであろう、その日がちょっと心配になってしまう。
その後、話の中心はナイトについてだった。
ギルドで、リフィさんとの話の中心もだったし、今日は、ナイトの日だね。
猫の話はここらで一先ず終了。
じゃないと先に全然進まぬ・・・
家と冒険者ギルドの往復が続くな。
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