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廃病院の殺人

 高校時代の同級生、加藤龍生(りゅうき)が俺を訪ねてきた。


 加藤とはクラスも部活も別だったので、そんなに親しい間柄という訳でもなかったのだ。しかし俺の霊感を口コミで聞き付けて助けを求めに来たらしい。


「霊視君、ちょっとこのビデオ見てくれないか」

 ただならぬ様子である。


「どうした? 加藤君、顔色わるいぞ」


 加藤は青白い顔で説明を始めた。

「俺さ、この前四人で廃病院に行ったんだ。肝試し程度の軽い乗りだったんだけどね」


「どこの廃病院に行ったの?」


「群馬。男二人と女二人で行ったんだけど、その内の一人の女の子がいなくなっちゃったんだよ」


「いなくなった?」


 加藤はこくりと頷き話を続けた。

「廃病院の中に入ってからは、男女でペアになり別行動したんだ。確かに怖い雰囲気だったけど、特に何も起こらなくてさ。俺と彼女は手術室に入ったんだよ」


「それで?」

 怨ちゃんが食い入るように身を乗り出した。


「突然、子ども女の子の声がしてさ。びっくりしてビデオカメラを落としたんだよ。びっくりして落としたっていうより、びっくりした時に足を滑らせて転んじゃったんだ」


「転んだ時にビデオも落としたって訳ね」

 怨ちゃんも真剣に聞いている。


「はい。その時頭を打ってしまい十分くらい気絶してたみたいで、気がついたら彼女がいなかったんです。電話しても圏外のアナウンスになってるし……」


「ビデオを落とした後の映像はないってこと?」


「映像は残ってるよ。でも十分間はビデオが転がったままだったから、手術台の下辺りを映してるだけで、何も変化はないよ。俺が起きてスイッチを切るまでの映像が残ってるだけ」


「じゃあ、見てみようか。再生してみて」

 俺は加藤にケーブルを渡し、事務所のテレビに繋いだ。


 加藤が再生ボタンを押すと廃病院が映し出された。

「じゃあ、今からこの廃病院に入りたいと思いまーす」


 加藤の声に続いて三人が明るくカメラに向かって手を振った。

「イエーイ!」


 二人ずつで別れることになり、加藤と彼女は階段を登っていく。


 ナースステーションや病室にも入ったようだ。

「わっ!」と加藤が彼女を驚かせると「きゃー!」と叫び声が響いた。


「もう! 龍生君、そういうのやめてよ!」

「ははっ。ごめん、ごめん」


 肝試しには定番のシーンである。


 そして問題の手術室の扉が開いた。


 加藤が一旦停止ボタンを押して口を開いた。

「もうすぐ女の子の声が聞こえるからよく聞いててね」


 俺も怨ちゃんも無言でこくりと頷いた。


「はふへへーわはひわいひたい」


 確かに女の子の声で、そんな風に聞こえてきた。

 俺は怨ちゃんの顔を覗き込んだ。怨ちゃんなら今の言葉がはっきりと聞こえているはずである。


 怨ちゃんは「聞こえたよ」という表情で俺に目配せをした。


 俺はテレビに目を戻した。


 加藤が驚き足を滑らせた。カメラは床に落ちたまま、手術台の下辺りを映しだしている。


 その時……俺には見えた。


 六歳くらいの髪の長い少女がカメラの前を横切った。

 何かを口ずさんでいるが俺には聞こえなかった。


 その後、テレビに映し出された映像は俺にしか見えていない。加藤と行動を共にしていた彼女は殺されたのだ。


 再生は終わった。俺は加藤を見て話を始める。


「加藤、謎が解けたよ。落ち着いて聞いてくれ」


 加藤はごくりと(つば)を飲み込んだ。


「彼女は……殺された」


 加藤は驚き目を丸くさせている。

「そんな馬鹿な。俺たち以外に誰かいたってことか?」


 俺は首を横に振り、真実を伝えた。


「彼女を殺したのは……お前なんだ」


 真実はこうである。


「お前が気絶した後、女の子がお前に乗り移ったんだよ」


 怨ちゃんが声の説明を加えた。

「加藤さんには、『はふへへーわはひわいひたい』くらいにしか聞こえなかったと思うけど、『はふへへー(たすけてー)わはひわいひたい(わたしは、いきたい)』って言ってたの」


 加藤は震えているが、怨ちゃんは更に続けた。

「その後も、『身体を貸して』って何度も言ってたわ」


「少女に乗り移られたお前は手術用のメスで彼女をメッタ切りしたんだ。そして彼女を抱え、窓から投げた」




 噂によると、その後加藤はノイローゼになり、ビルの上から身を投じてしまったらしい……。

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