No.5 闇夜の邂逅 (後編)
No.5 闇夜の邂逅 (後編)
____EAGLE に入隊してから、戦績はそれなりに積み上げた。銃の扱いや、軍隊体術も会得した。運動神経もそれなりにあったので、萩原は寄せ集めの志願兵の中では群を抜いていたのだろう_____上官にも褒められ、近いうちに生活基準の上がる階級までの昇格も決まった。だがこの時萩原は、命を賭ける場において最も怖れるべきモノ______[慢心]という名の死神に憑かれていたことに気づく由もなかった。
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その日、萩原は単騎で3体もの標的を仕留めていた。任務は[human式の群れの撃退]だったが、これまでに経験したことのない好調に自信過剰になり、群れの全滅を試みていた。
_____ここで活躍できれば、更に昇格が望めるかもしれない。それなりどころか裕福に暮らせるかもしれない____________
その直後、萩原の目前に4mもの黒い影がたちふさがった。
_____未確認機だった。human式の4m級はそれまで確認されていなかった_____それだけではない、歩行だけでなく、ローラースケートのような車輪で高速移動を可能とする種が現れたという想定外の事態_____
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次に意識が戻った時、萩原は手足を拘束されていた(ショックなどで暴れるのを防ぐためであった)。萩原が新種(のちにhuman Ⅲ型[hunter]と名付けられた)の凶弾に倒れてから、自分の所属していた隊が自らのミスによって全滅したことを告げられた。それだけでもショックな報せであるが、次の報せで、ようやく拘束されていた本当の理由が明らかになった。
_____急所は外れていたが、出血多量で手遅れだった。適合者だとわかった時からは別だったがね____君を助ける為には仕方が_____
____萩原は、もはや[普通の人間]では無くなっていた_______________________________
[うっ......ぐっ........はっ........]
_____チームα、δ共にほぼ全滅_____
最後の一人だったチームαリーダーは黒い刀に串刺しにされ、何度も吐血しながら呻く。
[急所は外してるからさあ___その状態でもしゃべれるよなぁ_____あとどれだけ隠れてる?え?]
黒野は淡々と尋問する。______が、憎悪の目を見開いたまま彼は息絶えていた________
______そういやあんたにはよく[しつけ]をしてもらったっけな_____________
刀から蹴り抜き、納刀しつつ歩き出すが、不意に左側のほぼ割れた僅かなガラスを突き破り、人影が現れた。
[待てよ_____俺まだ生きてんぞ...]
_____黒野は再び柄に手をかける。
[ふーん。仲間殺されてんのにやけに冷静だな。イジメにでも遭ったか?]
[......................まあな]
______2人が刃物を抜き放つのはほぼ同時だった。
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_____作戦開始から約1時間。追跡班はほぼ全滅の中、闇夜の下、一対一の攻防が繰り広げられる。
______袈裟懸けを体幹を捻って躱し、突き上げを上に逸らし、下段を膝で止める_____
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______先程の直線的な蹴りと防御と攻撃をほぼ同時にこなす攻防一体の動き____恐らく相手は空手の使い手___空手の一部の流派では居合も習得すると聞いたことがある_______それゆえ刀の扱いも長けてるんだろう______相手の打撃は速い上に重い____身体が保たなくならないうちに動きを把握し_______取るッ‼︎
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_____見た所こいつは投げ技か締め技を掛けようと
動いている________このままリーチの長い刀撃と打撃を与え続け_______見切られ襟元まで近づかれる前に___________押し切るッ‼︎
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黒野と萩原の思惑はお互いのそれの盲点を突き合っていた。つまり、どちらが先にへばるか、それとも相手の盲点を貫き通すか______それは[死闘]と呼ぶに相応しい攻防。____気がつけば、持っていた刃物もお互いに弾き上げたのか徒手空拳同士の戦いになっていた__________________黒野が萩原のコンバットを払い、正拳突きを叩き込む。腹を抱えた相手の頭付近はお留守となる_____
______もらったッ‼︎_______
_____確かな手応えがあった。ここぞとばかりに放った踵飛び回し蹴りはこめかみを捉えていた______
____その足が触れてから_____その足を[取る]までの時間_______コンマ0.5秒。
足首を掴み、遠心力で振り回し投げる。
_______黒野は先程の萩原のようにガラスを突き破った____________
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「司令官_____αとの連絡も途絶えました_____」
「あれを放て」
「し、しかし司令官」
「君さあ...娘は何歳だい」
「...2歳です」
「娘の将来...父親にかかってるねえ」
____男は苦虫を噛み潰すような顔でレバーに手をかけた__________
to be continued...........