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6.ツンデレは難易度高めであるべき



ふんどし、ふんどしって、ふんどし言いたいだけちゃうんか!とツッコミが入りそうなくらいふんどしって単語を思い浮かべた気がする。こっちに来てから。



異世界生活、今日で3日目です。



和風ふんどしと違って、もっさりした異風ふんどしには腰のところにベルトもしてあった。ふんどし落ちてポロリしないよう、押さえなのかと思って気にしてなかったんだけど。


あれにお金が入ってる。お粥食べたお店でのお勘定のときにわかった。


ちょっと見せてもらったら、内側に薄いホルダーが沢山ついてて、そこに一枚一枚お金が入れてあった。脱落防止のまじないもかかってるとか。


背中側の外には何か差しておけそうなホルダーがあった。ナイフとか差しておけそうな感じだったけど、今は空だった。


ちなみにお宿の朝食もお粥。そうか。スタンダードな朝食なんだな……。






そんなわけで力なく一日が始まった。ごはん重要。やる気減。


今日も冒険者ギルドへ行ってみることになった。


レンハルトの提案だ。昨日の騒ぎのあとで顔を出すのは、正直わたしは気が引けたんだけど。多少はめを外したにせよ、実力を示したんだから、と励まされた。


備品こわさなかったのもよかったみたい。そこ強調された。


周囲に被害を及ぼすことなく獣族を撃ち倒したのは凄い!みたいに。


……そう考えると、まあ、そうなのかなあ……?



とりあえずギルドに着いたところで頭をさげた。



「昨日はお騒がせしてすいませんでしたあああ!!」



出入り口のところで、大声で叫んでから、おもむろに入っていった。


恥かしいってば恥かしいよ。けど、ここって今後の仕事場になるわけだし。責任者が誰かも知らないから、まずそのひとに頭をさげて……も出来ないし。受付のおねーさんとかに謝るのも見当違いっぽいし。



「すいまっせーん。昨日のって、なんか怒られます? 罰則あり?」



受付のおねーさんに聞いてみた。昨日の親切なひとだ。ふわっふわの白金髪をした可愛い顔立ちのおねーさんです。垂れ目で唇ぽったり系の色気もあるタイプ。



「え、ああ……そうねぇ。ギルマスがあなたたちを連れてこいって騒いでたけど……」



略語で話されてもちゃんと翻訳されるチートべんり。


ギルマスことギルドマスター登場ですか。なにフラグですか。いやな予感しかしません。


とはいえ、これは回避はすべきじゃないよな。職場でケンカ沙汰おこしたんだもんね。責任者から叱責をうけるのは当然。


……とほほ。ヘンなのにからまれたばっかりに。



「そうですか。今って……?」


「うふふ。どうせ二日酔いで寝てるのよ。いいわ。昨日のは床が焦げたくらいだから。ほんとはギルド内では私闘禁止よ。おイタはダメダメ」


「はい。すみません。今後は気をつけます」


「反省してるんならいいわよ。細かいのたまっちゃってるから、今日も依頼を請けてねぇ」


「はーい。依頼見てきまーす」



ぺこりして受付を離れる。依頼が表示されてる掲示板へ向かう。



「主。すまん。オレのせいで」


「いやぁ、レンのせいじゃないでしょ。元凶は……」


「魔術師のくせに謝罪を挨拶にして入ってくるとはな。貴様には辱という概念が無いのか?」



元凶キターーー!


って、えっ、昨日の魔術師さん、……よくわたしに話しかけてきたなぁ。


わたしだったら、でっかい灰色オオカミ獣人に床にド突き倒されたりしたら、もう怖くて自分から話し掛けたりできないよ。しかもこんな嫌味言うなんてムリ。


うぅん……けっこう胆力あるタイプなのかもね。あるいは馬鹿かもね。



「まったく情けない限りだな」


「――治してあげないの?」



彼、昨日の三人を連れてるんだけどさ。わたしが気絶させた黒オオカミのひとはまだ明らかに調子悪そうなんだよね。……ああ。わたし酷いことしたんだなぁ。



「だ――誰のせいだと! ぬけぬけとよくも……!」


「主、主。そいつに構ってやることない。行こう」



ヤマネコ獣人が服をつまんで引き止めてる。他の二人やレンハルトに比べると小さいヤマネコさんだけど、魔術師よりは大きい。なのに、服つまむとか、小さい子っぽい仕草でかわいい。


あらためて見たら、この魔術師、黒髪黒眼でわたしとおそろいだ。ロンゲで細面で切れ長の眼。美形の部類だろうけど険のある顔立ちで、常に眉間にシワよってるような印象。


謝っとくか、と頭を下げた。レンハルトさんの暴走はわたしの責任。


みよしさんもよくひとを押し倒しちゃってねぇ。ほぼハスキーなミックス犬だから大きくて、はしゃぎっぷりがパネェのよ。無関係のよそ様には跳びかからないように全力で押さえてたけど、犬好きで構ってくれる人だとつい気もゆるんで……おっと脱線。



「昨日は問答無用に魔術を使ってすみませんでした」



誰かが、たぶん黒髪魔術師が何か言いたそうに息を吸い込んだ。少し待って頭を上げたが、黙ってこちらを睨みつけてる。重ねて謝る。



「キレちゃってやりすぎました。ごめんなさい。……あの、お詫びと言っては何ですが、彼の治療をさせて頂けないですか」



黒オオカミさんを示して告げた。黒髪魔術師の端整な顔に葛藤が浮かぶ。断られるかなと危ぶんだが、最後にはチッと舌打ちして眼を逸らした。



「勝手にしろ」


「ありがとうございます!!」



へっへ。やったね。


気になってたのよー気になってたのよー。こうやって調子悪そうなとこ目の当たりにするとねー。後悔はない(キリッ)ていうのとは別に弱ってる動物を助けたくなる性分で。


寄っていくと、三人一斉に警戒態勢をとられたけど、気にしなーい。


こらこらレンさんや、チミもつられて威嚇してどうする。


こそっと手をにぎる。落ち着けという意味なのがわかったらしく、レンハルトは深い息を吐いて気配を殺した。



「……はい、失礼しますよ」



手をかざそうとしたら、黒オオカミさんがじりっと後退する。主である黒髪魔術師に不安げに視線を向ける。ゴツくってもわんこはわんこじゃのう。



「大丈夫だ、ラウ。こいつが妙な真似をしたら、私が止める」



そう言われて、納得はできないけど覚悟は決めたらしく、黒オオカミさんは耳ぺたり尻尾へたりな状態でアゴをひいた。眼はつぶらずこっちを凝視してるとこがわんこじゃのう。


胸のまんなか辺に手をあてる。よし。


治れーーーー!!


パアァと淡い光がひろがる。黒オオカミさんの胸元から全身をつつむように。


ちょいちょいの時間でハイおしまい。治療完了です。


チートばんざい!



「終わりです。どうですか?」


「……よくなった」



姿勢もよくなった黒オオカミさんは腕を動かして調子を見ている。よしゃよしゃ。心なしか毛艶もよくなった気がする。


電撃のまほーのビリビリ動けませーんって、その場限りのもんかと思ったら、そんなことないんだな。動けなくなるほどのダメージ食らってんだから、当たり前か。今後ちょっと考えないとなー。そこらへん。



「あ。おふたりは? 他の方もまだどこか不調なのでは?」



茶色のワンコさんは主の魔術師の反応をうかがい、ヤマネコさんは軽々しく頷いた。



「ああ、実はねー。腕とか痺れてんの。なに、治してくれるわっけ?」



うっわ、軽薄な喋り方だなー。いや悪印象ってことじゃなくて。


さっき主の黒髪魔術師を止めてたのってこのヒトだよね。服つまんで。あのいじましい感じで見てたから意外。他の獣人にくらべて細身なタイプなのもあって、大人しい性格かと思ってた。



「うん。いやじゃなければね」


「いやくないよー。主がついててくれるし。やってやって」



きゃっきゃと言われて、さっさと癒した。よし。手際よくなってきたぞ。



「うっはあ。あんがとー。オレ、癒しの術だいすきなんだよねー、気もちよくてさあ。ほら、カイト。アンタもやってもらいなよ。痛いとこなくても、スッキリするから!」



仲間のヤマネコくんに手招きされても、茶色のワンコくんは主を気にして動かなかった。それに気づいた黒髪魔術師が「構わん」と低く唸るまで。


彼も、ヤマネコくん同様、軽い感じで治療すればOKだった。



「こんなとこかなー……って、待った!」



肝心なことを忘れてた。



「締めはあなただ!!」



ビシィ!!と少々ケレン味のすぎる勢いで黒髪魔術師を指名した。目と鼻の先に指をつきつけたってわけじゃないのに、わずかにのけぞって避けられた。



「な、なにを言ってる……ッ」


「わたしはこの目でしっかりと見ました! あなたが! うちのレンハルトに! 押し倒されるところを! あ、押し倒されてる最中は見てなかったけど、床に倒れてたよね? あれで背中とか打ったでしょう?」


「っう……うるさいッ! 受身くらい取ったわ!!」


「はいはい、そうでしょうとも。アザになってないならよかったですね。でもさっきそこの彼が言ってた通り、すっきりするだけでもいいじゃないですか。ちょいと治癒されてくださいよ、先輩」



最後の「先輩」を「せ、ん、ぱ、い」くらいに強調して言ってみた。



「……どうしてもと言うなら、させてやらんことも……」



はい! どう考えてもツンデレおいしいですありがとうございます!


あからさまに目を逸らしたり、ほっぺ染めるようなオプションはなかったけどね。変わらずの不機嫌面。よし。


いきなりデレられても困るよね。ぬるすぎる。


やはり真のツンデレは高難易度であるべきと思うのよ。だからこそデレたときの反応が……って、ハッ、いかん! 大学の教授先生にリアル☆ツンデレを発見した♪って萌えトーク炸裂させた千花の持論にすっかり感化されてる!


……いっか。イミフメイにトリップしてきた異世界だもの。少しでも面白おかしいもの見つけて楽しまなきゃ、この先やってられんわ。



「では失礼します、先輩」



目上あつかいを受けるのはやぶさかではないらしく。黒髪魔術師はえらそうに頷いて治療を受けてくれた。くるしゅうない、とでも言い出しそうな態度で、知らずへらへらしてしまった。



「侘びと言うわりに……。締まらぬ面だな。魔術師なら、もう少しそれらしい顔つきをしろ」


「はあーい。気をつけまーす。せんぱーい」


「……慣れなれしいチビめが」


「いまからでも背が伸びる魔法って知ってます?」


「阿呆か。そんなものあるわけがなかろう。可能なのは変化か、眩惑か。所詮はまやかしよ」


「うーん……それでも絶世の美女になれるなら……」


「なってどうする。女魔術師に言い寄ってくる男など、掃いて捨てるほどおろうに」


「今んとこ掃いたことないですね」


「そうか。……あと五年もすれば多少は……いや。将来さきに望みを託している閑があったら、先ずはその身形をなんとかしろ」


「あー。何とかしたいんですけど、今ちょっと先立つものがなくてぇ。そのうちに」


「はっ。さしずめ研究にでも有り金つっこんで惚けておったのであろう。いくら獣族ロウの獣僕がおるからといって、魔術師の研究費ともなれば膨大。自ら率先して稼がねば到底足らぬに決まっておる。最低限の金勘定も出来んのか、この痴れ者め」



チラと黒髪魔術師は鋭い眼をレンハルトに向けた。そして今さらながらに彼の変化を認識し、うむと頷いた。



「一応、反省したようだな。昨日までの手入れの怠りようといったら、魔術師失格もよいところであったわ。しかも人前で獣僕と馴れ合った会話などしおって……辱を知れ、辱を」



はいはいごめんなさいごめんなさい。なにも知らなかったけどわたしが悪かったんですねごめんなさい。もの知らずな異世界人ですみません。



「どうもすみませんっしたあ!! 先輩!! これからもご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致しますっ!!」



とにかく頭を下げた。へこへこ。


だってこのひと、案外いいひとっていうか、使えそうじゃない? 腹黒思考で申し訳ないけど。仲良くしてもらいたいよ。


会う度に先輩風吹かして色々言ってもらえたら、今後かなり助かるよね。わたしの何がおかしいのかよくわかるし。このひとのお小言、有益な情報満載っぽくない?


わたしもできるだけお返しすれば、水面下で利用するばっかの関係にはならないしさ。もしほんとうに親しくなれれば友だちGETだぜ!


……友だちってのはムリゲー?


でもほら何ごともあたってくだけろって言うじゃないですか。



「先輩。わたし、アサヒナ・ミウと申します。ミウ、が個人名です。よろしくお願いします」


「――ッ、……私はリーフェルト・セプ・ファウンだ」


「りーふぇると、ふぁうん? えっと……」


「リーフェルト・セプ・ファウン。おかしな発音をするな」


「リーフェると、さん?」


「リーフェルトだ! というか、お前、いきなり名まえで呼ぶつもりか!?」


「ふぁ……何でしたっけ?」


「この愚か者め! ひとの名まえも憶えられんのか!」


「あー……すみません。ちょっと記憶が不調でして」


「ああッ!?」


「いえっ、言い訳でなくて! ほんとに記憶が色々足りてないんですっ!」



必死で謝ると、黒髪魔術師リーフェルトさんはじっとこちらを見つめてきた。内心では困惑してるのかもしれない。



「……ファウン」


「ファウん」


「……リーフェでいい」


「リーフェさん。ありがとうございます。コンゴトモヨロシク」



いっやー。ほらほら、いいひといいひとー。リーフェさんってかわゆい響き。リーフェルトだと普通なお名まえなのに。



「先輩、この後はお仕事ですよね? 長々とお引き止めしてしまってすみません。わたしもしっかり稼がないといけませんね。まったくもってリーフェ先輩の仰る通りです」


「うむ。獣僕より身の周りの世話を受けるのは魔術師の特権であるが、それは主としての責を果たした上であるべきよ」



うわー……なにこのひとまともすぎるっ。人にはあんな嫌味言うくせに獣僕に関してだけはまともってっ。なにそれデレですかデレですね獣僕さんたちに対してはデレてんですねっ。


三人とも「さすが我が主」って尊敬のまなざしを送ってるよっ!


えらそうな態度も、ただ高慢なだけでなく、矜持のあらわれのように見えてくるから不思議……。



「ではな。もう行く。手間をとらせおって」


「すみません。それでは、またー」


「……治癒は得意か」


「え? あ、はい。わりと?」


「次は代金を払って受けてやろう。今回のことには礼は言わんぞ」


「それはもちろん。お詫びですから」


「わかっておるならよい。馴れ合いでは手綱はとれぬ。よくよく反省することだ」



そう言い残して、黒髪の魔術師、リーフェ先輩は去っていった。


……ツンデレめ……またかっこよく忠告してったなー。


馴れ合い禁止、ねえ。




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