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48.もふもふ派閥は二派ですか?




いや待て。冷静になろう。

たしか言ってたはずだ。極彩色さんが。ハル様はひとりで何でも御出来になるとかなんとか。


ってことはあれだろ? 金ぴかハル様と契約しても彼ひとりしか連れてかないぞ、ってのは了解済みのはず。お手入れの方法だって聞いたんだし。うん、そうだ。ないない。全員ついてくるとか無い。きっと一時的に増えてるだけだ。


しかし一体何の用?


金ぴかたちは我がもの顔でくつろいでいた。居間で。リーフェルト先輩たちと。


リーフェ先輩はさすがに堂に入ったもんだった。竜人族様々の金ぴかと対峙しても気後れすることなく、いっしょにお酒なんぞ嗜まれてる。余裕ですね! なにげに足組んだポーズが画になってます。

先輩の獣僕さんたちは困惑気味だ。万が一の時には主を護って戦う立場だもんね。よく知らない竜人族なんかと同席するのはいやだよねー。しかも4人もいる。3人増えてるどっから来た?


うちの獣僕さんたちは意外と平気そう。テレスはともかく、アルトも大して気にしてないっぽい。うぅん……同じくわたしの獣僕、じゃない、竜僕になった仲だから? それの連れなら気にする必要ないってこと? (ちなみにメルトはとっくにおねむの時間です)


レンハルトとテオドールも、今はあんまり警戒してないなぁ。もう契約しちゃったからかな?


鱗を磨いてたっていう金ぴかは「さあ、魔力をよこせ、さあさあさあ」とばかりに詰めよってこようとした。そこへ極彩色さんが牽制をいれる。できた従者さんだ。彼の主人の交渉術では、わたしの態度を硬化させるだけだとお分かりらしい。



「ハル様、先に皆様の紹介をされた方がよろしいかと」


「ああ、そうであったな」


極彩色さんに言われて初めて思い至るってどうなの。金ぴか、彼らの存在を意識してないんだな。周りにかしずいてるひとがいるのが当たり前なのか。


……そんなヤツを竜僕にして大丈夫か?

だいじょぶくないもんだいある。なんだか天が落ちる心配でもしたくなるよね。



「アサヒナ様。殿下はこの度の即位の式典への参加のため、特使として貴国へ参ぜられました。こちらは随行員の方々です。護衛官として選任されました」


護衛なんているのかなー? この金ぴかに。えらそう且つ強そうなこの金色鱗ぴっかぴっかに。


「ええ、もちろん殿下でしたら、御自分で御自身を護れましょう。が、様式美……と申しますか。上に立つ者が賊などを直接相手にせぬ方がよかろうということで」


「へー」


そういうことか、とわたしが感心している隙に、極彩色さんは3人の竜人族さんたちに断りを入れていた。


『皆様、私めがご紹介申し上げても構いませんか』


『頼みます。我々は貴方ほど公用語ヒュハトスが堪能ではありませんからね』


おおー。竜人族語だ! よね? いつも聞いてるのと違う言葉だったし。

シュシュシューッというか、カカカーッというか。なんとも喉が痛くなりそうな発音だなー。

こんな言葉までわかるなんて言語チートべんり。


公用語ヒュハトスはこの大陸で使われてる言語のひとつ。昔むかしにあった大帝国が自国語を共通語として広めた。反抗的な態度のやつは魔法で無理やり憶えこまされて場合によっちゃ廃人とかあったらしい。こわいこわい。


その大帝国が崩壊する頃にはすっかり各地で定着してた。地図上の線がすっかり様変わりした今現在、何カ国もでつかわれているので公用語ヒュハトスという。言葉のちがう国でも、大きな街だとけっこう通じたりするらしい。英語みたいだね。


しかしこれ、竜人族語もわかると分かられない方がいいのかな? こっちの大陸うろうろしてる竜人族さんって少ないんだよね。誰に習ったんだって話になるか? うーん。そこは隠さず、習得に関しては企業秘密(魔術師的な)って言い張るとか。どうかなぁ。いけるかなぁ。押し通せるかなぁ。



「アサヒナ様。僭越ながら私めからご紹介させてください」


「あ、はい」


「こちらは筆頭護衛官のカルソミアエラリクティゴ様です」


極彩色さんが翡翠な竜人族さんを優雅にさし示した。羽のついたうるわしの腕で。

この人も名まえ長いんだなー。おぼえられる気がまったくしない。どうしよう。お、そういえば極彩色さんの名まえもまだ聞いてないな。ヴィイ?とかって金ぴかハル様が呼んでた気がする。あとで確認しよっと。


「どうぞティゴとお呼びください」


堪能ではないと言ってた翡翠さんことティゴさんだが、なかなかになめらかな発音だったよ。

他の3人(金ぴか含む)より頭ひとつ背が高い。おいおい、どんだけだ。えらく大きいのに、すらりとスマートな印象。逞しいのにごつごつしくない。ものすごくスタイルがいいってこと?


「よろしくおねが――」


「申し訳ございません、アサヒナ様。ご無礼をお許しください。……アサヒナ様は殿下の主様で御座せられます」


んっ?

頭さげようとしたら、極彩色さんから待ったが入った。

あぁ、殿下様の主様が従者である護衛のひとにへこへこすんな、って?

そんなに厳しくしないといけないもんなのか。名乗っちゃいけないのかなーとは思ってたけどさ。


「んー……。でもハル様は、あ、殿下はわたしの流儀に従うって言ってたし」


ためしに駄々をこねてみたw


「そうでしたね」


小首を傾げる鳳凰。ぬ。仰々しい顔なのにかわいく見えちゃうな。


『何か問題でも?』


『いえ、……アサヒナ様は大層気さくな方のようでして』


極彩色さんの返事に、翡翠なティゴさんはシュシュッと息をもらした。笑ったっぽい。


『君のようにわきまえたニンゲンばかりではないでしょう。悪い意味で言ったのではありませんよ。君についても、彼女についても。そういった人の方がハルにはあってるんじゃないですか』


ほほう。ハルと呼び捨てとな。


『うむ。へつらう主など求めておらぬ』


うるせえな。

――おっと。だめだめ。また口から飛び出したら、レンさんに呆れられちゃうかも。


金ぴかの素でえらそーな口調はどうもわたしの神経を逆撫でするんだよなあ。

わたしは人族だからほんとの逆鱗はないけどさ。金ぴかたちにはあったりして?



「すみません、アサヒナ様。中断してしまいまして」


「いいえぇ。通訳たいへんですよね」


「ありがとうございます」


極彩色さんはこくりと首を縦に振って、上品に一礼した。

次いで、紺碧な竜人族さんに目配せをする。


のっそりと前に出た紺碧さんは、翡翠さんとは対照的なガッチリとした体型だ。まさに重量級。一見すると重過ぎないかと思うくらいの筋肉量だ。でも竜人族だから動きとか素早かったりしそう。


「護衛官のリントルカシュエアレーン様です」


「よろしくお願いします」


これだけおぼえてきました、ってカンジの棒読みだった。言い回しが見た目にあってねえ!


「どうも。こちらこそよろしくお願いします」


ぺこり。頭をさげたら、こくりと小さくうなずいてくれた。やっぱ会釈の仕草は人族と同じだな。


「同じく護衛官のラファンミネクタイラアーキ様です」


紅蓮な竜人族さん。この人もゴツイ系だけど、紺碧さんとはちょっと違うなぁ。なんつーか、フットワークも期待できそうなマッチョだ。かなりガチガチに筋肉ついてんだけど体型的に? 紅蓮って色のせいか、ヤンチャっぽく見えるし。


『おう、よろしく! アサヒナ様!』


「よ、よろしく」


『アァキって呼んでくれ!』


「アキ?」


『……うひゃ!』


ヤンチャはヤンチャでも、本来の意味でのやんちゃ坊主か。

発音ちがうせいで笑われた。名まえは言語チートで乗り切れないから難しいんだよ。


にしても……へーえ。竜人族の屈託ない笑い方ってこんな感じかー。おくちをカパッと開けて、ケケケというか、カカカというか、やや高めの声を立てて。目もきゅっと細めるんだ。ふぅん。思ったより笑顔らしい。皮膚が鱗なドラゴンヘッドじゃ表情筋があっても反映しにくそうだしなぁ。


『アァキ』


「あーき?」


『ぐふっ。いいよ、それで! あ、こっちはカッシュ。カッシュ』


「かっしゅ?」


『シュが全然ちげえ!』


またえらくウケていた。どうしろと。


『いいよ、いいよ、それで。な、カッシュ?』


『ああ』


紺碧なカッシュさんの相槌は簡素で重々しかった。

ええと……。


「カッシュ。アーキ。ティゴ」


ふんふん。これでいいなら憶えられそう。


「あ、ごく――あなたのお名まえは?」


気になっていた極彩色さんの名まえを聞いてみた。



「ヴィアアリョーラル」



ひゃっ!


なにいまのなにいまのなにいまのなにいまの!!



「もっかい!」


「ヴィアアリョーラル――です、アサヒナ様」


……おおー……。


超絶いい声だった。

どうなってんの!? 普段の声と、名まえを口にしたときと、全然まったく違うんですけど!?

と、鳥さんだから……?

えっらく心地好く耳に響いた。


「……ありがとう」


「とんでもござません」


やばい。1分くらいでいいから言い続けてくれないかなって思った。


ちょっとー。もー。

わたし毛もふもふ派なのに困るわー。

羽もふもふもいいものですね、とか思っちゃった。


ああでもこの場合、美しさにやられてるわけだから、もふもふとか萌えとかとはちがうなー。

いやいや、いいもの聴かせていただきました。ふへへへへ。



「――ヴィア」


金ぴかがえらっそうに極彩色さんを呼びつける。あんだよもー。余韻ぶち壊しなんだよもー。

しかも、なにさ。ひそひそ話? かんじわるっ。

ってまぁ、あそこはあそこで長年の主従関係っぽいし、いろいろあるのか。


「アサヒナ様、あの……」


ぼへーっと突っ立ってたら、極彩色のヴィアさんがもどってきて。


「殿下のお名前は憶えておられますか」


「へっ? え、ええと……は、ハル様? ――ごめん、長い名まえ一度でおぼえるのはムリぃ」


「さもあらん。貴様ときたら、私の名を憶えるのにどれだけ掛かったことか」


リーフェ先輩からうらみがましいツッコミが。てへへ。


「同じ人族の名ですらそうなのだから、他族の名を憶えるのは至難であろう。必要とあらば、しっかりと教えてやって欲しい」


え、それって、先輩はおぼえられる必要性を感じてなかったってことですか? ツンですか? ついでに「教えてやってほしい」ってデレ付きですか? そういう飴鞭いっしょくたは反応に困るんですけど。


「……にやにやするな」


えへへ。すみません。



「シェスティハロルナディアス」


ほ?

長ったらしい名まえが聞こえて、視線をむければ金ぴかが読めない竜顔でこちらを見ている。

ゆっくりと繰り返した。


「シェスティハロルナディアス」


「しぇすてぃ……はろーな……」


「大分違うな。シェスティハロルナディアス」


「シェスティァロルナギアス?」


「……呼び名を」


「んっ?」


「そなたが呼べる名を」


あだ名をつけろってことかいな?

ハル様でいいと思うんだけど……わざわざ決めろって言うからには別なのがいいのかな?

ちょいと腕組んで考える。あんまり適当っぽく決めると怒られそうだから、格好だけねー。


「んーじゃー……シェス」


「うむ」


金ぴかが頷いた途端、彼の額が輝いた。眉間に相当する場所に小さな金色の石がある。契約の証の。


――うぐっ。

強引な作用を感じて、身を硬くした。

ずるっと魔力が吸い出されていく。ぁ、きもい。ヤなカンジ。自分から譲与するのとは違うんだ。


思わず断ち切ってやろうかとしたとき、金ぴかハル様と目があった。金色猫眼がじっとわたしを見据えている。ほんと目力のあるドラゴンさんだよねー。なにを思ってるのかはわからなかったが、少なくとも威嚇してるわけじゃなさそう。気もちを訴えてる風でもない。ひとを操作するために見ているんじゃない。


急に感情が冷えて、まぁいっかと、例の悪い癖が出た。


どう考えても金ぴかがやってるんだろう、魔力の吸引をさせたいだけさせてみた。

獣族の皆さまにやると、これ、猫にまたたびみたいなことになるけど、竜人族の場合はどうなのかなぁ?

あ、わたしの方はだいじょぶだろか。まぁ、今日はもう寝るだけだしなー。あぁ、お風呂。お風呂はいらなきゃ……みんなのお手入れしなきゃ……ダメだ魔力あげすぎでおかしくなってる場合じゃないや!


はっとして魔力供給を止めると、金ぴかはぱちくりと目をまたたいた。



「なにいまの?」


「名の契約をからめておこうと思ってな」


「ふーん。って言うと思ってか! この金ぴか! ややこしくすんな!」


「ちょっとちょっと、主……」


他の竜人族さんたちの手前か、テレスさんがなだめてくれるが、勢いは止まらない。


「けいやくかいじょするぅううぅぅーーー!!」


「出来るわけなかろう」


「えっ!?」


「そなた、魔力は十二分過ぎる程あるようだが、如何せん理解が足らん。理を解くだけの知識も技術もなかろう。力業で破壊したとして……廃人と化すは、我か、そなたか」


むぅううううううううう……!


「まぁそう邪慳にするな、主。いまので我は益々そなたが気に入ったぞ。拙いとはいえ、まことによきものであった。素晴らしき純度よ。これだけ与えてケロリとしておるのも頼もしい限り」


などとぬかすだけあって、彼の額には燦然と輝く大粒の石が。くっ。育ってやがる。


ぬうう! 大体ひとが怒ってる最中に、色気を出すのは反則だ!


竜人族さんでも猫にまたたび効果はあるらしく、金ぴかはむふふな状態になっていた。余裕ぶって強引でえらそうな金ぴかが。極彩色さんはかすかに「あちゃあ」な目つきをし、他3名様はもっと露骨に溜め息ついたり、シュシュと笑ったりしていた。


「よきものだ……まことに。待たされた甲斐もあるというもの。契約の血も甘美であったしなあ」


む、む、むうぅううう!


ご機嫌のあらわれなのか、金ぴかの頑丈そうな長い尻尾がゆらめいていた。椅子に座ってるんで先の方だけ。器用だな。例によって印象強い金色猫眼でひとを見据えながら、小さく口をあけて舌を蠢かせる。契約の際にがぶっとしたときの血の味を思い出し堪能……?


な、な、なんか……なんか……!

すごくいやなんですけどいやなんですけどいやなんですけど……!



「レンさん!」


「んっ?」


ちょっと声が跳ねていた。レンハルト、びっくりしたっぽい。


「魔力あげる!」


「ん、それは有難いが……いや。その状態でしない方がいい」


でも、と言いかけて、こらえた。これはよくない。わがままだ。

魔力をとられるのはイヤ。あげるのはいい。

とられた感覚を残したくなくて、レンさんに上げたいっていうのは。


それに、たしかに今ちょっと、魔力あげすぎ&いきなり絆深めすぎで頭おかしい。

テンションあがりすぎて不安定。

これ以上はやめといた方がいいよね。


落ち着けおちつけと頭を撫でられる。ん。なだめてくれるレンハルトの耳こそ落ち着かない。尻尾もだ。そわそわしてる。どうやら随分と困らせてしまったらしい。


……あかん。だめだ。主しっかぁく。



「主のためだ」


「うん」


「いいじゃない、ちょっとくらい」


おや、心の声が駄々もれた? と思ったら、テレスさんだった。


「もう寝かせた方がいいよ。レン、主を部屋に連れてって。ついでにちょっとだけ魔力もらってあげなよ。メルトが先に寝てるけど、主、お酒臭いから。窓際のベッドに寝かせて」


「わかった」


そういえば酔っぱらってたんだっけなー。

その上このテンションでは、お風呂は諦めた方がよさそうだ。


おとなしくレンハルトに抱えられて、上階の部屋へと連れてってもらった。




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