表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/51

42.これぞ乙女の秘技☆



大会関係者用の裏口から外に出る。入るとき同様、王都ギルドでもらった招待状を提示して。警備員なのか案内係なのか、出入り口にいたひとが「え、もう」と言いかけて慌てて口をつぐんでいた。「もう帰るの」って言いたかったんだろうが、それ「もう負けたの」と同義だよね。相手によっちゃかなりまずいよね。


少し行ったところで魔道具つかってレンハルトたちに連絡。



「あー、疲れた! おうち帰りたい!」



落ち合ってすぐにそう訴えた。せっかくのイベントなのに申し訳ない。

戦闘狂テオドールには試合まだ見ててもいいよと言ったんだけど、見るばかりでは……と物騒な返事だった。通常運転だなオイ。


わたしの試合中、みんなにはリーフェ先輩の獣僕さんたちと一緒に護衛の詰め所にいてもらった。一般・貴賓席ともに魔術師ひとりにつき1人の獣僕さんしか入れないのだ。特別な偉いさんなら複数人の護衛もつくけどね。

護衛の詰め所はリング近くと、観客席の後ろ(最後列)とにあって、皆は後ろの方に居たらしい。リング近くはお偉いさんの護衛用なんだろう。


メルトとアルトはふたりでお留守番してくれてる。

早く帰ってメルたんぎゅーして癒されたい……。


そんで少し昼寝しよう。まだ午前中だが。夜には舞踏会が控えてるし。あぁ、街でお祭ムードを満喫する時間は今日もとれそうにないなー。


わたし的にはそっちがこの旅のメインイベントだよ! 明日以降がたのしみ!




でも今日はぐったり気味。試合中、気合い入れすぎてたのかなー。


昨夜は緊張してよく眠れなかった。もふもふ癒し効果も「ケガとかするかも」って不安には勝てず。


疲れた!と主張したせいでレンハルトに抱っこされて帰ったもんで、アルトに心配されちゃった。怪我でもしたのか、具合でも悪いのかって。


昨日眠れなくて、と説明しながら降りようとしたら、やさしく押し留められた。そのままベッドに連れてって、とレンハルトに言うアルトはいつになく凛々しかった。きりっとする柴わんこ萌ゆる。



「お昼ごはんは少し遅めにするから、それまでひと眠りしてて」



至れり尽くせりすぎる……。ありがとう。ありがとう。



しかし3階のお部屋まで階段を抱っこで上がらせるなんてなぁ。改めてレンハルトには申し訳ない気分。ここまでの道を運ばれてきて、さらには過去散々運んでもらっといて、今さらだろうと自分でも思うけども。階段っていうとさ。バランスとりにくそうで。


もじもそしてたら、金色の眼を細めて笑いかけられました。くっ。イケメンオオカミめ。そのオオカミ顔でどうして「ふっ」てかっこよく微笑めるのか原理を説明したまえ。


おっと、ベッドにおろしがてら、さりげなくそっと頬を撫でるのは反則です……!


ますます笑みを深くして男の色気をただよわせるレンハルトにノックアウトされ、ぱったりと横になった。うん。マントと荷物が邪魔だ。


無精して横になったまま取ろうとしたら、手伝ってくれる小さな手が。なにやらメルトがはりきってる。レンハルトを押しのける勢いで。おとなに任せた方が早いのに自分でやりたいんだよねぇ。


それが済むと定位置とばかりにわたしのお腹にしがみついて一緒に寝る体勢。まだお昼寝には早いんじゃないかな? でも丁度いいか。夕方には身支度はじめないといけないし。


うむ、ぬくぬく。メルトのふわふわなもふもふを堪能――…する間もなく眠りに落ちた。






と思ったら、誰かが安眠妨害を。うぬ。顔なめないで。



「くすぐったいよ、みよしさん」


「誰それ?」



妙にやさしい声で。かえって不安になる声で。


ん!?


目をこじ開ける。視界が定まる前に口のわきあたりをべろんと舐められた。うぷ。反射的に目を閉じて、また目を開けると、大きな鶯色の瞳が。



「テレス……」


「寝ぼけてるね、主」



そう言って、鼻先をぺろん。ぎゃ。なんだっての。すりすりはともかく、ぺろぺろはされたくないわ。(性的な意味で)じゃなくてもさ!



「ぷ……よしてよー」


「だって呼んでも起きないんだもの」



んふう、と鼻を鳴らしてテレスは、今度は耳もとをさぐりはじめる。少ししめった鼻先で。やめれと手で押し返すが、寝起きで力が入らない。目もしょぼしょぼしてるし。



「こりゃこりゃ……」


「それなぁに、主。聞いたことない言葉だ」


ああ。そう、たまに出ちゃうんだよね、日本語。チー力でも翻訳しきれないらしく。


「あんま意味はない……」


「そうなんだ?」


それはともかく、やめなさいよ。いい加減、身の危険を感じる。メルトがひっついてるこの状況であるわけないけども。小さい手足でテレスをてしてし叩いたり、蹴りけりしたり、まるっきり子猫がじゃれてるの体。


テレスはまったく気にしてない。耳の次は顎の線を舐め出す。ああもう!


言ってもしょうがなさそうなので起きることにした。起こすためにしたんでしょ? 起きたぞ! 渋々とテレスは身を離した。不満そうな顔すんな。


わたしのお腹から膝上に滑り落ちてひっくり返ったメルトは、自分の足や尻尾をつかんで遊び出す。どく気はないのかね、メルトくん。わたしが尻尾をつつくと、なんてことするんだって顔をする。あはは。


笑ったら、むうっと目を細めて、胸に向かってドーンと突撃された。ぐはっ。げほっ。これでも小さいなりに加減してくれてるらしいんだが。



「め、メルト……ドーンしちゃ、ダメ」



ほっぺたつまんで引っ張ると、白くて小さい牙がのぞく。にあ、と鳴くような仕草をして、メルトはコバルトブルーの目でわたしを見上げる。ごめんなさい、ゆるしてくれる?な感じ。


むろん、ゆるす。というか、わたしも謝らないといけないね。



「シッポさわってゴメンね、メルト」



ぺぺん、とメルトは軽快に尻尾を打ち鳴らした。ネコさんの尻尾ぺしぺしは怒りの仕草だけど、この表情からして「いいってことよ」かな?



「ありがとう、メルト」



すりすりと頭を押しつけてくる。くうっ。かわいいのう。



「ほら。お昼だよ、主。メルトはこっちおいで。下へ行こう」



テレスが両手をひろげてメルトを招く。ぴょいんと飛びつくメルト。



「おひる……」


「そう。アルトが用意してくれてる」


「もうそんな時間かー」


「うん。スープにポルスが入ってるってよ」


「え、やった!」



ポルスってのは山芋みたいなもん。でも生で食べるとお腹くだっちゃうから、火を通さないとダメなんだよねー。すりおろしてスープに入れる。ほわっと軽い口当たりのお団子風になって美味しい。


初めて食べた時、お母さんが作ってくれた山芋の団子汁を思い出してしんみりした。一度二度しか食べたことないけども。大和芋を調理してると手がかゆかゆになるからねぇ。でもとても美味しかった思い出の料理。


そんで思わず「和風だしで食べたいなぁ」って呟いたら、アルトが「ワフー?」と聞き返してきて。かわいかったなあ。普段ワンとは言わない柴わんこ獣人だけに。ワフー!


そのポルス入り野菜スープと、トリのソテーと、甘めのドレッシングのかかった大盛りサラダが今日のお昼ごはん。ドレッシングはいま王都で流行りのお店のを真似たものとか。通いの家政婦アルラニアさんから聞いたアルトが教えてくれた。


アルラニアさんが獣族嫌いじゃなくてよかった。むしろ好意的でメルトのこと「かわいい」って抱っこしてくれたよ。アルトにお料理の見学させてくれないかって言ったら二つ返事だったし。ちょっとは手伝わせてもくれてるらしい。


働き者なアルトはお掃除なんかも手伝わせてほしいって頼んでた。獣族がいると抜け毛でごみ埃が増えるし、と申し出たとか。そういえばね! うちのみんなは毎日お風呂に入ってるからか、そう酷くはないそうなんだけど。


抜け毛か……アルトがごはん作ってても毛が入ってたことってないなー。少なくとも気づいたことなかった。むしろ口から毛をとられたことならある。あれは心臓に悪かった……。


そういや獣族って換毛期あるの? 年とったらハゲたりするの?

(獣かつ人間なわけだし)






舞踏会は武闘大会の後に行われる。試合に時間がかかって予定が押すと開始が遅くなることもあるそうな。今日はおおむね予定通りの進行で、リーフェ先輩たちも夕方には一旦戻ってきた。


武闘大会の時点で先輩は貴賓席にご招待だから既に盛装してた。


仕立てのよさそうな服の地色は深い紺色。華美にならない程度に品よく銀糸の刺繍が入ってる。男性用らしいカッコイイ雰囲気の模様だ。いつもさらさらの黒髪は香油でぴしっとなでつけ、後ろでひとつにまとめていて、整った小顔がさらに小顔に見える。眼福。


王子様かよ!と突っ込んだら、いいやって平静な返事。ぅん?……どうしよう。このひとご学友に王族とかいそうだ。こわい。


でも大丈夫! ギルドで働いてるくらいだし! 先輩は庶民派なはず。うん。


えっとそれで……武闘大会の盛装と舞踏会のそれはまた別ものらしい。


先に見せてもらったが、たしかに舞踏会の服の方がキンキラ度があがっていた。そっちはなんと! 地色が深緑だった! 宝石みたいな! 黒髪黒眼の美形リーフェルト様にはさぞかしお似合いであろう。でもこれ絶対に本人チョイスじゃないよな……。


そんでもって先輩、自分のお着替えのついでにわたしのファッションチェックもしたかったらしい。いや、したくはないのか。義理人情に厚い性格のため、せざるを得ない気もちになったんでしょうな。損なおひとや。



「……借り着にしか見えぬな。しかし失礼にはあたるまい。首飾りは忘れるな。手袋もな」



おかあさんですか?


子どもの頃ハンカチちりがみを持たせてくれたっけ……うっ。涙はアカン。化粧がにじむ。日本のマスカラと違ってとれやすいんだよ。


それにしても、つくづく濃い化粧だ。成人式や友人の結婚式で盛ったことはあったが、ここまでじゃなかった。パーティではこのくらいしないといけないんだって。


それを教えてくれたのはドレスを買ったお店の店員さん。ギルドの紹介で行った。支払いもギルドのツケw


勧められて買ったドレスは蒼色です。青色でも水色でもなく蒼。少しくすんだ曇り空系のあお色。さすがはプロです。わたし、まじめっこ風貌なんで、暖色も鮮やかな色もあまり似合わないんだよね。


同じ黒髪黒眼でもリーフェ先輩みたいな鮮やかなグリーンの服なんてとてもとても……。


だがしかし、たとえ控え目な色のドレスを着てても、まじめ風貌でも、わたしの場合それなりに派手にはなるんだよね。


右腕も左腕も肩までみっちり契約の証の模様が入ってるからさ!

やべwwwタトゥーの女www


試着のとき、これを見た店員さんたちが絶対に肩を出せとアドバイスしてくれてさ。胸がさもしい、もとい、さみしいのですがって言ったら、よせてあげろと秘技を伝授された。


それにより完成した胸元を見てレンハルトが一言。



「……魔法か?」



殴ってやろうかと思いました、ええ。


それを聞いてゲラゲラ笑い出したテレスのことは踏んでやればよかった!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ