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41.狙い通り!だいたい偶然だけど



控え室に戻ってまた隅っこに座っていると、さっきの審判員のオヒゲさんがやってきた。槍は持ってなかった。挙動に隙のない四十がらみの中年男性と一緒で、王都のギルドの者だと自己紹介されて納得。大会運営関係者だそうな。


そしてこんなようなことを言われた。婉曲に、お願いとして。


「対戦相手を結界に閉じ込めるの無しで」


ああうん。言われると思ってました。地味すぎますよね。

黒ずくめキャラは続行中なので黙ってこくりこくりと頷いときました。


しかしこっちは魔術師ですよ? でかい魔術も使えず、結界に封じるのもダメで、どうやって戦えと? 負けろと言ってるようなもんでは?


いっそ八百長を頼まれた方がまだしもだよね。向こうから持ち掛けてくれれば、やられたフリするタイミングとか打ち合わせられるしさ。


あーあ……。


初戦の剣士さんの退かない態度を見て、相手さんたちが真剣なのはわかった。でもさ。所詮は腕比べじゃないかと思ってしまう。チートな力を与えられている今、それこそスポーツやゲームみたいに考えられるなら、戦いをたのしむことも可能なんだろうが。


いくら自分が有利でもたのしいことだとは思えない。娯楽としてたのしめる気がしない。というか、たのしんでしまうのは怖い気がする。

さっきちょっと調子づいて攻撃ついてける自分すごいwwwなんて思ったのも、まさにモラルを失う第一歩みたいじゃない。


血以前にひとの呻き声や叫び声だけでもぎょっとする。悲鳴や怒鳴り声なんて竦んじゃう。殴り合いすらしたことない平和な生まれ育ちの現代日本人だったのに。


そりゃあれも成長の一種かもしれないけども。


討伐依頼で魔物を倒すときすら内心で引いてた自分が、人間相手の戦闘で少しは「やったぞ」って浮かれられたんだもんな。命とる前提の戦いじゃなかったにせよ。鬼教官カザムさんですら「へっぴり腰はどうにもやな」って諦めたくらいの筋金入りが。


……ん。別にそこは変わってなかったかもしれないな。


黒マントでごまかされてたにしろ、さぞみっともない姿勢してたんだろうなぁ。そう思って黒仮面のしたで「ふふっ」と低く苦笑したら、近くにいたヒトがびくっとしてたんだが失礼じゃないかねチミィ! そんなご立派な筋肉けしからんくせにィ!






二回戦の相手は魔術師だった。


お、やった。やられたフリしやすそう。

……しやすいよね?

んん。よく考えたらわたし魔術師のひとと戦ったことないなぁ。


などと抜けたことを思っていたら。


この魔術師さん、完全なる武闘派でした!


ぎゃぁぁあぁぁあぁぁ。


リーフェ先輩もそうだけど動きが普通じゃない。初戦の剣士さんにも劣らない動きで詰めてくる。


カザム教官ありがとうございました! ギルド員さんたちもありがとうございました! あなた達の動きを見慣れてなかったらついてけなかったよ!


繰り出してくる魔法が小技程度なのが救いだね。でもこれ大技は出せないとは決まってないんだよね。殴れるような距離で大爆発とか自分も危ないからね。ひぃぃぃぃぃ。


さっきの白ひげおじいちゃんみたいに、純粋な魔力で攻撃するならアリだ。自分の魔力で被害にあうってことはない。魔術として火だの風だの雷だの呼んじゃうと危ない。


随分と前、アルトの契約解除のときの暴走魔力みたいに、現象になっちゃった時点で従わせるってテもなくはない。なくはないが。


こんな状況で現象化しちゃってる魔力を操りなおすなんてムリだあっ!!


くそぅ……この魔術師さん強い。マジすぎて「ちょっぴりわざと当たる」ってのができない。怖い。怖すぎる。


細っこい体型なのにな。削ぎ落とされた細さなのか。贅肉はもちろん筋肉も余計なお肉はゼロってな体型に違いない。背もそう高くはない。着てるローブも灰色で地味。没個性気味な顔立ちといい、魔術師ってより暗殺者とかが似合いそう。


あああ余計怖くなったこわくなったあんさつしゃとかかんがえんじゃなかった!


思いっきり後ろに跳んだら、同じだけついてこられた。うええええ――



「もしかして勝つ気ないですか」



――ぇぇぇえええ。え?


至近距離まで詰めてきた灰色魔術師さん、わたしが咄嗟にかざした黒い捧(耐久値1)に手を押し当てている。パチパチッと青白い火花が散るが。


……害のない火花だ。光だけの。


おかしな話だった。火花は捧に押し当てられた灰色魔術師さんの手から出ている。無意味な光を出してどうする。大体、捧が折れてないのもおかしい。それっぽく色を塗ってもらっただけのただの捧っきれだ。男のひとなら手の力だけでも折れるだろう。


わざと折らなかった? 何で?



「遊んでますか」


「……なんで」


「あなたの魔力なら僕を圧倒することは容易いのでは?」


「いや、あなたこそ強いでしょ」



言い返したら、灰色魔術師さんは「おや」と顎を引いた。うっ。目立たない風貌だと思ってたのにナニこの眼。すっごい強い光を宿しているのに思考を読ませない鏡のような。



「あなた戦いが怖いんですね。では負けてください」


「痛いのはちょっと……」



ぐっと押し返す。あんまり長々とくっついて話してるとあやしまれそう。大して力を入れたわけじゃないが、灰色魔術師さんはぱっと後ろに跳んだ。地味な灰色ローブもあんな動きでひるがえると美しいもんですね。まるで鳥の羽ように見えた。


……うう。わたしなんかもうゼェハァしてるのに、余裕だなぁ。


体力がないのです。戦い慣れした男性の素早い動きについてこうとしたら、もってせいぜい5分10分じゃないすか。集中力的にも。


ここは痛いのガマンして素直にやられるべきか。

治癒班が待機してるから、即死するケガでなければ助かる。


でもなー。万が一を考えるとなー。


ってうおっ!?



「化け物ですか。さっきより強い結界だなんて」



ただのチートです。ずるっこなんでけなされるのもやむなしですが。


変則的な動きで突っ込んでこられたのにビックリして、うっかり硬くてしっかりした結界を張ってしまった。咄嗟に張る結界は薄くてすぐ壊れるようなのにしてたのに。驚いたのもそうだけど、疲労で調整がいい加減になってるな。

って、うぅ。やんなっちゃう。普通ならこれ自分で自分を誉めるとこだろ。



「硬度は殺気に反応しております」


「ラーレトゥ殿より僕の方が上だと?」


「そうなんじゃねーですか?」



ああ、会話も粗雑になってきた。もう疲れた。戦闘キライ。



「……意外と鋭いですね」



いやぁあああ……!


怖い! 怖いよ灰色魔術師! キミ不穏すぎるよ!

たとえ真っ向から八百長を持ちかけられてたとしても不安で負けるフリしにくいよこのひとどうしよう!



「――では遠慮なく」



あ、魔術発動の気配。

なんか来るとわかる前に、本能的にガッツリ結界を張り直してた。


……わざとやられるとかこわくてむーりーぃ……。


カキン、と一瞬で空気が凍りつくような脳内イメージ。今度のはかなり丈夫。シャワー室くらいの大きさの結界がわたしの周りに現れる。


と氷のイメージはこのせいだったかと思う、大量の硬い氷の礫が雪崩れてきた。わお。どっから沸いて出てきた。魔法か。そうか。魔法だな。魔法に決まっとるわ!


――うわあ……!


自分が使うことはあっても、ひとから使われたことはない。魔物に魔法的能力で攻撃されたことはあるけど。こんなすんごい魔法を向けられるのなんて初めてです。


ど迫力だな!なんてノンキかもしれない。

いや、ノンキだった。


氷の礫が結界の前面をおおい、一瞬で視界が塞がれた。灰色魔術師の姿も見えない。ああヤバイと思ってる間にも、四方八方から氷のつぶてが叩きつけられ。チートじゃなくても凄い魔法が使えるんだなぁと感心してたら、上方からどかどかっと大量の雪が降ってきた。


ありゃりゃ。

薄暗いなかに閉じ込められた。


観衆がわあっと盛り上がっている。くっ、鬼畜どもめ。少しくぐもってはいるものの外の音は聞こえるんだぞ。


しかしまぁ。うむ。これは程よい負け頃じゃないか?


よし、降参しよ。


風魔法で声……はやめとこう。目眩ましの術を使おうか。

どのくらい雪が積もってるかわからないので、かなり高めの上空に白旗をあげる。白い旗に赤いバッテンがこちらの「白旗(降伏宣言)」だ。

見逃されると困るので大きく広げる。元気じゃねーか!と突っ込まれないよう、薄く弱々しい雰囲気にしとく。


ど、どうかな?


またも観客がわいている。よし。灰色魔術師さんの勝ち、と。


間もなく勝者の宣言をする声が聞こえた。はっきりとじゃないが、声を張った調子からそうじゃないかと。昨日オヒゲさんがしてたのと似てたんで。


同時にか、それよりちょっと早いくらいに、こっちの救出作業も開始してくれた。雪に埋もれて窒息もあり得るもんな。ってそれを心配されるくらいの積雪量なのかw灰色魔術師さんすげーっすな!


……あ、これ掘り出されてみたら結界ヨユーじゃまずいよね?


その場にしゃがみ込む。外の作業が進んで天井の雪が減ってくるのにあわせて結界を縮めていく。ぬっ。拡大するより難しいんだな! 軽く息を止めたときみたいな胸苦しさというか。不快感が。

無視できないほどじゃない。しゃがんだ状態に丁度いい大きさまで結界を縮めて待つ。

頭上の雪だか氷粒だかがほぼ掻き除けられたあたりで薄くゆるめる。ガン、とシャベルが当たった途端、パリンと割れて壊れて狙い通り。ドサッと落ちてきた雪氷をかぶるが大したことはない。すぐに引っ張り出してもらえたし。


申し訳ないことにシャベルと思ったのは実際は盾だった。警備のひと達だろうか、緊急性を考え、道具を取りに行く間も惜しんで大事な防具を使ってくれたらしい。思わず身を折って深々と感謝のお辞儀をしたら、照れくさそうに「よせよ」って肩をどやされた。


よろけたわたしを見て、戦いのせいで弱ってると思ったのか、救護室に連れてかれることになった。そんなの必要ないとも言えず、黙って素直についていった。

さっさと退場するいい口実にもなったことだし。



というわけで、無事、第二回戦敗退しました! やっふー!






救護室にいた治癒師さんがさくっと治癒の術をかけてくれた。ありがとうございます。気もちいいです。


「ふん。魔術師ね。寝とけば」


雑である。だが助かった。丁寧に診察なんかされても困る。


ここまで案内してくれた警備のひと?に頭をさげた。さっきどやされたばかりなので、今度は会釈程度に軽く。ありがとう、と。黒仮面のままなのでキャラを通して無言だったが、謝意は伝わったらしい。「無理すんなよ。じゃあな」と笑顔で去っていった。


ふむ。わたし試合で負けたからな。同情されてんだな。

負けたがっていたチートとしちゃあ、いささか後ろめたいキモチ。



「サボりかね?」


ギクリ。


「いかんなあ。気もちはわかるが」


てへへと頭をかいてごまかす。


「なんかの出し物でもさせられてたの?」


そんなとこです。



ベッドがあったので、そちらを指さしたら、休んでっていいよと許しがもらえた。


治癒師さんはサボり患者には当然興味なさそうに、たぶん暇潰しに持ち込んだっぽい本を広げて読み始めた。


ベッドを借りたのは、傍らに衝立があったからだ。仮装をとりたくて。ついでにちょっと座りたかったし。


体型ごまかしに内側に縫いつけられた袋には、別のマントが詰められている。それを羽織る。黒マントは畳んで、同じように内側に詰め込んであった荷袋に仕舞う。仮面と棒も一緒に。


身仕度が整って、さて行こうかってところで。バタバタと慌しくひとがやってきた。治癒師さんを呼びにきたようだ。こちらに気を止めることもなく一緒に出ていってしまった。


ふむ? 無人になったな。


考えみたら救護室に治癒師さん1人きりって不思議だよね。もっと人数ひかえてても……あ、試合を見に行ってんのかな。あの治癒師さんだけ試合に興味ないか、貧乏くじを引いてかで、ここに残ってたとか?


なら、リング傍にも他の治癒師さんが居そうだよねぇ。その場で治癒されず、わざわざここに連れてこられたのは、敗退者への気遣いだったのかなぁ。ありがたや。


おかげで誰にも見られず、普段着で出ていくことができました。


いきあたりばったり。どうせ関係者にはバレもいいやって仮装だからね。本気で隠さない方がいいって、リーフェ先輩のアドバイスもあったことだし。


今回の大会は王侯貴族もご観覧だ。警備はいってるのに魔法つかってこそこそするのは人騒がせだろう。だから出場前に仮装をする方も適当に女子トイレで済ませた。警備関係者が出入りチェックくらいしてるはずだけどね。帰りもトイレでいいかと思ってたけどね。


とはいえ、なんだかんだ、ひとめにつかず扮装をとけるのはありがたいです。

実際やってみると仮装ってあれだ……なんだ……あんまり「あ、あいつやっとるわ」って指さされるのはうれしくない。気恥しいのと、ネタバレつまらないよね!っていうとで。

なので素知らぬ振りして出て行ける方がね。いいよね。



しかし考えてみると一番見られたくない人にはバレてんだよねー。

最初に思いつけってカンジですが。

すごくたのしそうにはしてくれてますが。



レンさんのマントで真似っこするのはやめてくれないかね、メルトよ……。



今日の戦いは見られなくてよかった。

武闘大会はR15だからねぇ……。(建前)




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