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4.はじめての依頼は採取でしょ




小さなことからこつこつと~♪


鼻唄まじりに依頼こなしてます。平和です。野草摘みたのしー。


カゴいっぱいによろしくね!と受付のおねーさんに言われたので、まだまだかかりそう。



この辺きたばかりなんですー、と正直に打ち明けたら、街周辺の咲いてそうな場所まで教えてくれた。親切。魔法で地図ひろげてね。あれ便利そう。


あぁ、そのときチートが発動した。


なんて言ったらいいのか……地図の丸おぼえが出来た。頭のなかにぴこーんと来た。電球マークがともってそうなカンジで。場所おぼえられるかなぁって不安が切実だったからだろう。


やっぱ崖から落とされる系修行じゃないと力は増えないのか……?


そんな怖いことは御免です。


とりあえず、すごくベンリそうな丸おぼえ能力が身に着いたことだし、ほかは追々でいいよ、追々で。



丸おぼえ能力……超暗記力? ダサッ。写真的記憶? うーん。


こういうの、和兄ならかっちょええネーミングするんだろーなー。むかしプチ厨ニ小説書いてた杵柄で。黒歴史だと本人は言うが、わりと面白かった。


へーこういうおにゃのこが好みなんですかーへー的な意味で。


どのヒロインもかわいかったなー。あれはうまいと思った。ちゃんと性格がかわいかったもん。ヒーローは……自己投影ですねわかります、だったけど。


わたしの話を聞いた千花が描いたヒロインのイラスト。あげたら喜んでたっけなー。正直、千花の絵は、女性より男性画のが断然うまいんだけどね。


わたしは読み専、見る専です。話は浮かんでもアホっぽくなるし、画はどーぶつのイラストしか描けない。どっちも上手ではありません。



「少し休憩しないか、主」



レンハルトさんが声をかけてきた。もさっと収穫物をわたしの隣のカゴに入れる。ほうほう。今ので一気に増えたぞ。観察力の違いを見せつけられたな。


獣族って、ふつうの人間のわたしより、視力もずっといいのかもしれない。でなきゃ、あんな勢いで走れないか。


でも犬とかって色彩の見分けってあんまできないんじゃなかったっけ。濃淡の世界にいるとか何とか。その分、動体視力には優れるとしても。


……イヌじゃないんですねそうですね獣族ですねスミマセン。



「そんな時間だっけ?」



立ち上がる。と、身体が強張ってるのに気づいた。思いっきり背伸びー。



「いや。時間に余裕はあるが。水でも飲んだ方がいい」


「そっかー。そうだねー」



出掛けに買ってきた水筒を差し出され、ひとくち飲む。ん。なんかうす甘くてさわやか。ただの水じゃない? 竹に激似な筒から水に味がうつったのかな?



「どうした?」


「ええ……何でだろう。びっくりした。たぶん、わたしの故郷とは水の味がちがってて」


「ああ。正確にはそれはムルガの樹液だからな。ほぼ水だが、水より旨い。この地方ではどこにでも生えてるが、無いところもあると聞いた。主の故郷ではめずらしいのかもしれないな」


「そうなんだ」


「冷やせば長持ちさせられるから、わりと遠くでも売ってるらしいが。よそじゃ値が張るから、ここいらのように水代わりにはしないな」


「これ、わざわざ筒に入れてるんじゃないよね?」


「ああ。樹液のたまった節を切り出したものだ。口にあわなかったか?」


「ううん! おいしいよ、これ。甘さがあっても、ベタつかないし」



常温なのに、すうっとするし。いいねー。これ飲めるとこに来たのはラッキーだったわ。朝ごはんはアレだったけど……食生活の改善はしたいなー。



「あ、ねえねえ、レンハルトさん」


「……主」


「ん?」


「言うか言うまいか迷っていたのだが……クセのようなものなんだろうと。しかし……」


「えっ、なに!? わたし何か失礼なことでも!? 言って言って!」



心当たりがありすぎて焦った。レンハルトさんは困った顔をする。うぬっ。耳がへたってるぞ、くぁいいぞ、襟元のもふもふを撫でさすって、よしよしと慰めてあげたいぞっ。



「逆だ。奴隷に敬称をつけて呼ぶのは丁寧すぎる。呼び捨ての方がいい。大概は聞き流すだろうが、ほかの魔術師に聞かれたら十中八九からまれる」


「……じゃあ、レンさん。もダメか。レン? ハルト? どっちがいい?」


「レン、と」


「よしわかった。レンさ……レン。教えてくれてありがとう」


「……どういたしまして」



レンハルトさんはほっとしたようなはにかんだような笑顔を見せた。


くっ。イケメンオオカミめ。笑顔っても眼を細めるだけのくせに何でそんなに魅力的なんだよぅ!!


ああもう惚れたい。惚れてしまいたい。大好きだ!!って言いたい。


主従なんて何やってもセクハラになりそうな関係性がうらめしいぜ……!!



「あ、それでさ。レンに聞きたいことがあってさ」


「何なりと」


「えーっとね。ごはんのことなんだけどね」



肉じゃなくていいのか、あれでホントに満足なのか、獣族のごはんってニンゲンと同じでいいのか、ほんとにほんとか、貧乏だから我慢してんじゃないだろーなコノヤローって迫ったら。


やや引かれた。


でも、わたしが心配してるのは伝わったらしく、頭なでなでされた。



「大丈夫だ、主。その気になれば、森で獣をつかまえて喰うのは造作もない。それをしないのは、必要に迫られていないからだ」


「なの?」


「ああ」


「うそついてない?」


「吐いてない。……主。ミウ。誓おう。オレはお前に嘘を吐かない」



いやあああ! やっぱこのヒトわたしに惚れさせる気だわ! じゃなきゃなんでこんなかっこいいセリフばんばん吐いてくんのさ!!



「わかった。くどくてごめん。レンさ……レンって我慢づよそうに見えるもんで」


「ああ、我慢はしてるな」


「えっ!?」


「そろそろ主の魔力が欲しい」



きたわー。エロフラグ回収イベントきたわー。


じゃなくって!


……じゃない……よね? ちょっと……レンハルトさん、金色の眼をキラキラ輝かせて凝視してくんのやめてくんない? 熱い視線とか向けられても困りますよ? キラキラがギラギラに見えそうだから、あっち向いてねー?


……って…………負けた!


そりゃそうだ。見つめあいとかシャイな日本人じゃ負けるに決まってる。


自主的にあっち向いた。


まさかオオカミヘッドをわしづかんで横向けるなんてできないし。



「主……少しだけだ」


「ど、どうやって」


「主の意のままに」



意のままにって言われてもー。ひーっ。



「主。頼む。街に戻って、他の魔術師に出喰わす前に、しっかり繋がっておきたい」



ううう。レンハルトさんの口調は真面目だ。下心は感じない。



「朝のうちに頼もうかとも思ったんだが……あの宿では嫌だろうと」



仕方ない。バラすか。魔力を与える方法がわっかりませーん、って。



「あの……」



無意識に右手をあげていた。レンハルトさんの腕にふれようと。そうしたら、彼はうれしそうに地面に手を突いて、頭を下げた。


昨日、主従の誓約をしたときみたいに。


差し出された額に手をやって撫でた。昨日と同じように。


チリッと灼ける。手のひらが。


すかさずレンハルトさんが「もっと」と強請るように頭を押しつけてくる。灼ける手を抑えて、押さえつけるように撫でたら、熱さが増した。


ズルッと何かが出ていく感覚。


こ、これが魔力? ズルゥウウウって……気もち悪いなぁ。


レンハルトさんがぐいぐい頭を押しつけてきた。はいはいはい。あげますあげますと思った途端、それは凄い勢いで流れ出はじめた。蛇口ひねりすぎた感じで。ドッパアアアッと。


解放の勢いにひきずられたのか、身体の中の何かが引き絞られるようで背筋がぞっとした。


レンハルトさんは大丈夫なんだろうか。これ。



見守るわたしの足下で、ヒィンッと甲高い鼻声をもらして、レンハルトさんがもだえた。


も だ え た !!


ぎゃああああああああああああああああああ!!



思わず、ぱっと手を離す。



途端、上目遣い……かどうかはケモノ眼だからわかりにくいけど、下から見上げられた。レンハルトさんの金色の眼はうっすら紅く染まっていて………………色っぽかった。めっちゃ色づいてた。


ええと。


これはおねだりされる前に自らやった方がいいな。



わたしはおとなしく手をもとの位置に戻し、歓びにぷるぷる震えるレンハルトさんから目を逸らした。


直視したくない現実もあるのです。


あきらかにアレな状態の灰色オオカミはかわいいというより怖い。迫力ありすぎて。






コトが済んだレンハルトさんは生き生きとしていた。


額の紅い石も、チラ見せサイズまで一気に育った。もふもふな灰色の毛をかきわける口実が失われた。ざんねん無念。



ついでに、わたしの手のひらの模様も育っていた。



なんんっんんじゃああこりゃあああ!!


右手のひらから手首を越え、前腕全体を覆うほど拡がっていた。そうか。拡大するのかコレ。そのうち全身タトゥー状態にならないか。キモくないかそれ。


ちょ、ちょっと現実から目を背けている間に、なんてこった……。


しょぼくれて見つめていたら、レンハルトさんが一緒になってのぞきこんできて溜め息を吐いた。深々と、うっとりとした、歓喜の溜め息を。そして丁重な手つきで手のひらから肘まで撫でまわされた。



「素晴らしい……。さすが我が貴き主。たった一回でこれほど深い繋がりをもたらしてくれるとは。あの魔力純度ならばさもありなん。……それにしても随分と惜しみなく大量に授けてくれたが……オレを名持ちにしたから、か?」


「え、あ……ああうん。うん。レンハルトさんはトクベツだから、その……」


「――敬愛なる我が主よ。貴女の報いに相応しき働きを、きっと」



た、ただのチートなのに。スミマセン。そんなにうるうるした目で見ないでっ。罪悪感がっ。だましてる感がハンパなくて心が痛むぅうっう。


……うううううう。せめて、せめてあれだ。この懐きっぷりを裏切らないようにしよう。


なるべく誠実な主になります。だからゆるして。






昼下がりには依頼の草花もカゴ満載になって、本日のお仕事はつつがなく終了。獣があらわれても、レンハルトさんが唸ったら逃げてったよ。すごいね!


依頼品を持って帰ると、受付のおねーさんがにっこり。



「依頼達成おめでとうございます。ようこそ、アスノイスの街へ。これからも当ギルドをご贔屓に。近頃お仕事たまりがちなので、いっぱい請けてくださると助かります!」


「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」



かるく会釈した。カウンター越しなので日本風のお辞儀はするわけないんだけど。やっぱあれしたらおかしいんだよね? 海外旅行中に何度もしちゃってたけど、何も言われなかったし、ふつーに流されたけど。


そうね。たとえばドレスの裾つまんで挨拶されたりしても、めずらしいからってアレコレ言わないよね。会話のとっかかりとして話題にはするかもくらいで。


ただ、ヨソ者っぽさは出ちゃうだろうから、仕草には一応気をつけよ。


首の振り方(縦なら肯定、横なら否定)は一緒で、これはすごく助かる。縦に振ったら侮辱の意味だったりしたら、しばらく首に矯正コルセットでもして歩くしかなかったかもだ。



「このあと、どうしよっか?」



レンハルトさん……ああ、いかんな。そうだ。頭のなかで「さん付け」のままじゃ、きっと間違うな。よし。今後はレンハルトで行こう。なるべく。


レンハルトに問いかけ、おしゃべりでもしよっかなーってところに。



「ケモノと相談? 頭がどうかしたんじゃないか」



あり得んくらい感じの悪い口調で悪態をついてきた奴がいた。



「わたしちょっとお腹へったな。なんか食べる? あ、あのひと食べてるのおいしそうだよ」


「……そうだな。主。あちらのカウンターで頼めるようだ」


「わあーい」



レンハルトさ、レンハルトが指し示したカウンターへ向かう。彼の手をひいて。



「チッ。一匹従わせるのが限度のチビでは、礼儀を知らんでも仕方あるまいな」



また悪た――あれっ?


一瞬で視界がひらけた。あ、レンハルトいない。あ、背後でズダアン!って凄い音した。



「レン――」



わたしが振り返ったときには、レンハルトは誰かの上に馬乗りの状態で。二人の獣人の攻撃を受け止め、一人の攻撃は止められずに蹴り飛ばされていた。



「レンハルトさん!!」



瞬間、ものすごい怒りが湧いた。う ち の コ に な ん て こ と を。



「何すんだこのぉおおおおおッ!!!」



怒鳴ると同時に電光が迸り出ていった。わたしの真ん前から。


ピシャン!と鋭く電撃がうたれる。レンハルトさんを蹴り飛ばした大きな黒いオオカミ獣人に。ギャアアンッと悲鳴があがって黒いのは倒れる。意識を失った倒れ方だった。


さらに他の二人の獣人も、これはキャンッとかギャアッくらいだったけど、電撃で打ちのめした。茶色のイヌ獣人とヤマネコ獣人が床に膝を突く。



「――主!」



レンハルトさんが慌てて戻ってきた。わたしの周りでまだパチパチいってた電気は彼のことはスルーだった。



「主……」


「ゆ、ゆ、ゆるさない……わたしの……わたしのれんはるとに……」


「主。オレは大丈夫だ。すまなかったな。勝手に傍を離れたりして」



やや見当違いのことを、レンハルトは言った。そうして抱き締めてくれる。



「主の名誉を守るためだ。ゆるしてほしい」



なぐさめるように、なだめるように、背中を撫でさすられる。


……気が落ち着いてきた。


今かんぜんに頭がおかしくなってた、とわかる。


主従の誓約って凄いな。主の方も、従に対して物凄い独占欲が、庇護欲が湧くんだな。彼を自分以外のものに傷つけられたと認識した時の怒りったらなかった。


あの獣族三人に、酷いことをしたとわかるのに、かけらの後悔も無いのが凄まじい。



まだギルドのホールに居る。


登録時に、ここでのケンカ揉め事は御法度です!って言われたんだけど、誰も何も言ってこない。


冒険者をたやすく抑えられるギルド職員なんて、そんな都合のいい存在はいないのかもな。それほど強いなら、外で仕事した方が稼げそう。運営のトップにはいるかもしれないけど、生憎不在だとか。



「貴様――よくも私の獣僕を――」



怨嗟の声が聞こえてきた。レンハルトが馬乗りになってた人物。あの悪態の主が起き上がって、こちらを睨みつけていた。


両腕にわたしと似たような模様が見える。紫と薄緑。そうか。相手によって色が変わるんだ。あと一人分はどこか見えないところにあるんだろう。


レンハルトを一発蹴られたわたしがあれだけ腹が立ったんだから、この男の恨みは如何許りか。理性がそう唱えるが、さっきの発狂の余韻で感覚が鈍っているのか、恐ろしいとは思わなかった。



「もし」



ぽつり、と返した。奇妙に冴えた頭で考えた言葉を。



「わたしの獣僕がふたたび傷つけられるようなことがあれば」



何かに操られているような感覚で。



「わたしはオマエを滅しよう。一片残さず、この世から消し去ってやる」



脅し文句なんて生まれて初めて言う。だからドスの利かせ方なんて知らなかった。思いついたままを硬い声で告げた。


それでも十分だったらしい。


つい今しがた護衛役の三人をやっつけてしまったばかりだしね。一人は気絶、残る二人も痺れて満足に動けない。いまは無防備だと思い出したんだろう。


男は恐怖におののいて目を見開いた。



さすがにそういうのは見てられなくて、わたしは顔を背け、踵をかえした。



猛烈にお腹へったし、街に出て買い食いしよう。そうしよう。


魔力って使うとお腹減るんかなー?


ふと、わたしの背中をまもるようについてきたレンハルトに手を差し出す。すぐに握りかえされた。ぎゅっと。



……よし。



この手があれば、ちょっとくらい頭おかしくなっても、べつに怖くないわい。


まもりたいものがまもれるんだから。


守れないよりずーーーーーっとマシだ。



「主、オレ、一生ついてく!」



あああああまた感動させてしまったごめんごめんごめんただのチートですごめん。キラキラした目で見ないでぇえええっ。


でも守れるチートでよかったよ。獣族のレンハルト。君のよき主でありたい。



よし。



今日のお宿はお風呂つきがええんでない?


さっそくシャンプーリンスして磨き上げてあげないと!


みよしさんのお世話で培った腕の見せ処よーーーーー!!




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