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31.しかしまわりこまれてしまった



ギルドに着いた途端、コワモテ窓口係さんことカザムさんに呼びつけられた時点で嫌な予感しかしなかった。



「来月、王都で開催される武闘大会がある」


「はぁ」


「こいつに出場してくれや」


「――は!?」


「主催は冒険者ギルド連盟ってことになっとる。うちからも誰か出さなきゃならん」


「は……?」


「ふざけとんのかッ、あ゛あ゛?」



それはこっちのセリフだ。です。


あああああ。


武闘大会とか冗談じゃない! どこのチートの学園イベントですか!

葡萄大会ならともかくとして!(大食いかな~?)


出れるわけないでしょーが。言うなればわたしなんてハリボテですよ。チー力でふくらませただけのハリボテ。内容はないよう、なんですからっ。


(殺的に)ヤル気満々なひとびとに混ざって大会とかあり得んです!



し、しかし一応説明は聞いておこうか。


決してカザムさんのガンつけにビビったわけじゃっ。


ほら、レンハルトとテオドールも一緒だから。主として取り乱したところは見せたくないっしょ。いい大人ですしね!



「それ、どんな大会なんですか?」


「各街の冒険者ギルドから代表出してトーナメント」


「ああぁ……。ますます定番のイベント……」


「即位式のにぎやかしだ。せいぜい派手にぶちかましてこいや」


「わかりました」


「おん?」


「小生、本日をもってギルドを辞めさせて頂くことにいたします。今まで大変お世話になりました。――ではっ!」


「オイ待てやコラァアアアアアア!!」



怒鳴られようと凄まれようと知ったこっちゃないね。


太い眉毛に鋭い眼光、左眉下の傷跡の由来は気になるとこだが、向こう傷のあるひとなんて冒険者ギルドじゃめずらしくもない。ドスのきいた声だって聞きなれたから怖くない怖くない。


さあ、レンハルト、テオドール、逃げますぞなもし!



――ぬぐっ。


テオドールよ。


何故にひとの襟首つかんで引き止めるのだね?



「落ち着け、主」


「わたしは落ち着いている。これ以上ないくらい冷静だ」


「まあまあ」



棒読みまで迫力のあるバリトンボイス。しかしわたしの好みは(略)


てかテオドール、わたしのことなだめる気ないでしょ!?

物理的に抑えて済ませる気まんまんじゃねーのよ! は な せ!!


そしてレンハルトはなぜ救出してくれないのだ!? こんなにじたばたしてるっていうのに! ……くっ。じたばた。くつじょくてき。



「うちの主は魔術師だ。闘うのは獣僕でも構わないか?」



……ああそう。なるほど。たまに長めに喋ったと思ったら。


戦闘狂(テオドール)は黙っててよ!!!


そんなポケ○ンみたいな戦闘がゆるされるはずないでしょ! 言っとくけどそれでいいって言われたってキミに決めたりしないからね!!



「アホゥ。魔術師として戦ってこいや。テメェの主は図抜けた魔力を持っとろうがァよ」


「間は抜けてるかもしれませんが、図を抜いたおぼえはありません」


「ぁあん!?」


「いつもの依頼はレンハルトとテオドールが戦ってるんです。わたしは後ろから見てるだけです。戦闘なんてムリムリムリムリムリ!」



必死で言い募った。武闘大会なんて素人が出ていいもんじゃない。


と、カザムさんは片頬をひきつらせてにやりと笑った。獰猛そうな表情にぎくりとする。



「……結界」


ぼそりと呟いてカザムさんは手元の書類をぺちんと弾いた。


「活きのいい大型を結界で封じて倒したそうやないか?」



わあ。お顔に似ず上手に猫撫で声を出されますねえ。


カザムさんは薄ら笑顔で念を押してくる。ふ、不穏だ。ついさっきのあの顔の後でへらへらしてるのが逆に不安をかきたてられる。



「出来ないとは言わんな?」


「……で、できません」


「おい」


「だって避けそこなったら死にます! 一発で!」


「魔物封殺しといて何言うとる! ニンゲンぐらい何とかしろや!」


「逆です」


「あん?」


「的がデカかったから閉じ込めやすかったんです。ニンゲンなんてちょこまか動くものはムリです。だからいつも二人に頼ってるんじゃないですか!」



ええ。口からでまかせですとも。テオドールとやったよくわからん手合わせはなかったことにしておこう。あんなの反則技すぎるし。


……だ・か・らァアア!「おやそんなはずは」みたいに何か言いたそうにするのはやめんかこの戦闘狂!! どうしてこのひとクマさんのくせにこんなにサツバツとしたキャラなのよぉうおうおうおう!


チェンジ! クマさん枠にはテディベアみたいな癒しキャラを希望します!


いやそりゃたしかにリアルなクマさんはニンゲンだって食い殺す肉食獣ですが……。獣人さんにそんなリアルさは求めてないのよっ。マンガちっくにもふっとほのぼのでいいんです。ハチミツうまーしてるような。



「チッ」


カザムさんが鋭く舌打ちした。ヤなヨカン。椅子から立ち上がって肩越しに後方へ叫ぶ。


「――オイ誰かマスター呼んでこい!」



ますたあ? ああ、喫茶店の――ってちがうっ!!


冒険者ギルドでマスターって言ったら、ギルマスしかないだろ。ヤバイ。まずい。あきらかにチート無双展開の布石。って冗談はともかくこの状況でお偉いさんになんか会えるか!


で、チョー逃げようとしたのに、あいかわらず首根っこ押さえられてる件。



「テオドール! じゃましないで!」


「敵前逃亡は見過ごせん」


「敵前じゃない。味方前だ。よって逃げるに障りなし」


「逃げない方がいい」



ぐっと低めた声で耳元に囁かれた。


ひ……ひぇ……っ。


この、テオドール、戦闘狂のくせに! その声はずるい!


いい意味でも悪い意味でも首筋から背中の真ん中までぞわっと電気が走った。えうぅ。思わず肩を竦める。その隙にカザムさんが窓口のカウンターを飛び越えてホールへ出てきてしまった。



「アサヒナァァァァ……」



窓口係さんが窓口飛び出すとか前代未聞ではないですか。そうでもないですか。あぁたまにはしゃぎ過ぎたギルド員を教育的指導したりすることがあるそうですね。


だからあんなに軽々と跳び越えられるのかな?


現実逃避して首かしげてたら、カザムさんに頭つかまれた。アイアンクロー。いたたたた。冒険者ギルドは事務職も武闘派なんですか。


あ、だったらアンタ出ればよくね? 平ギルド員いじめてないで強いひとが出ればよくね?


え、チート?


そんなの心の強さが伴わなきゃ意味ないんですよ!(いい笑顔で)






「もー、やめてよー。どうしてそんなこと言うわけ? 脛に傷もつ身ですって宣言するみたいなことホントやめて。頼むからやめて」



ギルドマスターは痩せぎすで眠たそうな目つきをした壮年男性だった。


もともと梳かしつけた様子のなかったボサボサの髪を掻き毟っている。ボサボサでも不潔という印象はない。服もしわくちゃだけど洗濯はされてるっぽいし。思ったより普通っぽい印象。


カザムさんの一声で呼び出され、朝のギルド受付ホールに自ら足を運んできた。ひとけはそこそこ。ギルド員もお客さんもいる。


けっこうフランクなお人柄なのかも。


苦労人っぽい言い方してるけど、人前でこんなこと言えちゃうあたり度胸あるよね。裏に呼んでこっそり……が常套だと思うんだ。男性だととくに面子だの何だの気にするじゃない。(男同士の角突き合いを考えたら気にする意味はあるとは思うけどね)



「なんなの? なんで出ないとか言うの? 出るなら甲冑一式着込んで出たいってナニソレ? 顔が出ない方がいいってどういうこと? 魔術師でしょ? 中央で顔売ってナンボでしょーが」



平穏な生活がしたいので派手な売名行為は慎みたいのです。


この国出身でもなく、過去の記憶もあやしい(設定)で、顔なんて売ってもいいことあるか微妙だ。いるはずのない親戚が名乗り出てきたりしても困る。


へんに目立ったら身動きとれなくなるだけって気がするんだよね。



「あがり症なんです。それに痛みに弱いので。ちょっとでもケガしたら、その場で座り込んで大泣きする自信があります。ギルドの面子丸つぶれです。せめてガッチリ鎧でも着込んで出るんじゃなきゃー」


わたしも泣き言を返す。この際「あ、こいつダメだ」と思われた方がいい。今ならギルドの仕事がなくなっても何とか食べてはいけそうだしさ。


「あ、でも甲冑着込んだら歩けないかもしれませんね。重すぎて」


「どうしてぇえええー! フツー二つ返事で引き受けるでしょー!? どうしてよりによってこんなのが推薦されたりするんだよぉおおー!?」



いやがらせ?オレに対するいやがらせなの?とか嘆くギルマスさんに親近感がわく。それになにやら気になることを言ってたな。


スイセン。おトイレ的な?それともお花?って地口ギャグができないのはつまらないなぁ。


ちらりとカザムさんに視線を向けてみた。ギルマスさんの斜め後ろに控えて不機嫌面。でも負けないっ。折れるフリして折れないぞっと。



「騎士隊と仕事したやろ」



あああ……あれかあ! さっきも言われたしな、結界うんぬん。



「何で騎士隊がそんな」


「お国の行事だ。騎士さん方の出張るところやろ」


「警備関係じゃなく?」


「それもあってやな。即位式の祭期間は警備も厳重になって人手が足りんようになるが、お前さんは公の仕事はしとらんからな。引っこ抜いても困らん人材ってわけだ」



カザムさんは人の悪い笑みを浮かべた。公のお仕事ねぇ。前回の結界修復仕事のときにも似たようなこと言われたなぁ。ううむ。への字って黙ってるうちにギルマスさんがさらに説明をかぶせてきた。



「大抵の村やら町やらからは武芸者が出てくるのよ。魔術師をよそにやれる余裕があるのは大きな街に限られるもんでね。それでも大抵は剣士辺りが出てくるな」



どこでも武闘派さんはいるもんだ。冒険者ギルドなんて言ったらとくに。

うちだって出たいひとはいるんじゃないの? なんで魔術師(わたし)なんだ?



「偏るんは仕方ない。けど観る方はなァ。客らはそんな裏事情なんぞ考えちゃくれん。冒険者ギルド主催っちゅうなら、魔術師の登場も期待される。魔術師の出場なしにギルドのトーナメントなんぞやったかて不公平やろ?」


「でも魔術師協会はそういうことに首突込みたがらないからねー。独立不羈の建前っての? いいよねぇ。そんなこと言ってみたいよホント。うちは世間のしがらみにがんじがらめだー」



ふへwギルマスが中間管理職に見えてきたwww


初対面なのに気が抜けるなー。肩肘張らないのはいいけど、こんなんでクセの強いギルド員さんたちをまとめられるんだろうか。ま、余計なお世話か。どうせ能ある鷹タイプなんだろーし。こういう方が自然と下が育つのかもしんないしね。



「カネ出せば仕事してくれる魔術師ってアテは他にないからな。即位式がらみとはいえ、城仕えの魔術師に頼めば優遇せんとアカンし」


「ホントめんどくさいんだよねぇ」


「で、今度即位されるノイアス様は派手好みらしくてな。ドカンと魔術使うとこが観たいんだと」


「この手の催しがある度、お前んとこで魔術師出せって押しつけあいだよ。ホント大変なの。わかる、アサヒナ? わかるよね?」



うーん……人目のあるところでこんな愚痴を言えるくらいだから、上(諸々の)から圧力ってそんなに厳しくはないのかな。カザムさんもあからさまに同意しちゃってるし。


ギルマスさんって立場だから言えること、なら、カザムさんは反応控えると思うんだよね。上司に迎合しなきゃイカンにしても。調子あわせてる風でもないし。むしろ同士!って雰囲気。結束かたそう。



「うちはよそに比べりゃ登録人数が多いからな。どうせなら魔術師出せって言われるわけや」


「そうそう。しかも騎士隊からの推薦もあっちゃねえ。断れんのよ。そこわかって。ホント。頼むよ、アサヒナ」


どこかひょろっとした印象のギルマスさんが身を屈めて声をひそませた。


「……あのね。魔術師ひとり出したら、大会の観覧席とか晩餐の席とか優遇するって、大会の運営に言われたみたいなのよね、うちの領主様」



だからさあ、と拝むみたいに言われましたが。


え、領主様って。え、とっても偉い人では。ああそういえば騎士隊って各領地の貴族さん所属……。


――そういうことは先に言って……!!


そんなん断れるわけないじゃないですか! 権力者に目をつけられないように目立たぬようにってしてるのに権力者にたてついてどーすんねん。本末転倒もいいとこでしょうが。



「わかりましたでも顔出しは無しでお願いします」


「……こだわりどころ?」



気の抜けたようなギルマスの呆れた確認に、思いっきり力強く頷いといた。


だって、わたしこの和顔だし! 王都とやらで、しかも即位式のお祭大会。そんなお金持ちいっぱい来そうなところで顔さらしたくない。暇と金をもてあましたひとに目をつけられるのは怖い。


これは本気だ。偏見と謗られてもいい。


そういう被害って、レンハルトやテレスみたいな美形じゃなければ心配ないとは限らないのだ。たまたま偶然に、そういう奴に興味をもたれるか否か、だと思う。


自己卑下して自分は大丈夫とか思わない方がいい。ふたこと目には「まじめそう」って言われてたわたしだってチカンにあったことはある。いわゆる「大人しそう」な真面目タイプではないにもかかわらず。


そしてここは獣族さんが奴隷にされてるよーな世界だ。


おかしな趣味のひとに興味をもたれる危険は全力で避けるべき。


王侯貴族とか権力財力のあるひとたちにからまれるなんて怖すぎる。日本だったら有名人とお話できてラッキーってな話だろうけど、ここの有名人は兵隊かかえてる。無理難題を断っただけでも御手打ちされそうじゃないか。



「あ、そうだ。あとですね」


「まだ何かあるの?」


「わたし戦闘したことないんですよね」


「それマジなの? 大型魔物(テネノス)倒したんでしょ?」


「たまに魔物相手に魔法つかったことがあるだけです」


「ふうん?」


「人族(ニンゲン)相手の戦闘は皆無です」


「……ん?」


「加減が判りません」



うん、過去にレンハルトとテオドールと戦った(?)ことはあるけどね。


獣族ってすごく頑丈なんだよね!


最初に攻撃しちゃったのがレンハルトでよかったよねー。ごめんレンさん痛かったよねっ。でもそうじゃなきゃ今ごろわたし殺人犯だったんじゃないかって。気づいた時はぞっとしたよ。


だから戦闘狂(テオドール)は「あれ?」って首を傾げるな! オマエとの戦闘は埒外なの! てゆか話がややこしくなるから置いといてんでしょーが!


あああぁぁ……カザムさんが怪しんでるぅうぅぅぅ。テオドールのばかあっ。



「じゃあ、特訓やな? さっそく明日からだな、時間もないし」



アウチ。その視線は鋭すぎます、カザムさん。


うっうっうっ……なんでこんなことに。いや訓練は有難いんだけど。人殺しになるのは嫌ですし。


そうじゃなくて……そうじゃなくてぇええええ……。


こんな時だけとんとん拍子。

さくさくと上京(王都へ)までの予定を決めつけられました。



がっくり。



今日はもう仕事なんてしない。ふてサボりだ。ふて寝もしてやろう。


仕事(主に戦闘的な)を期待していたテオドールはびっくりしていた。が、八当たり気味にキッと睨みつけてやったら、何か言うのは諦めたようだ。どうせいつもろくに喋んないくせにっ。



「……主」



なんすかレンさん。今日は随分と静かでしたね。テオドール止めてよ。


そりゃヤツの方が年上だし、何も考えてないようでいて考えてるようでいてやっぱり考えてないかもしれないタイプだから言い難いのかもしれないけども。


あぁそーなんだよ。今日だって、わたしが「辞める」って言ったのを引き止めたのって、自分の(戦闘)欲求のためだけじゃないっぽいんだよな。武闘大会とかって式典行事にはおエラ方の思惑が絡んでくると知ってたんじゃないかな。だからひとまず話を聞けと。


単に年上ってだけでなく、冒険者ギルドでの仕事の経験も、貴族さん方の生活やら慣習やらについての知識も、テオドールの方がずっと豊富だもんなあ。


わかっちゃいるけど素直になれない。本性が戦闘狂(アレ)だと思うと。


ハキハキと返事をする気分じゃなくて、レンハルトを一瞥して溜め息がてら頷いた。そっと横目に様子をうかがえば、レンハルトはこまったように耳をぴこぴこさせてる。どうしよう、と銀灰色のお耳がいっている。



「……なに?」


「うん。尻尾さわるか?」



な………………なぬ!? し、しっぽとな!?


まじでか!!!!!


ガン見したら、レンハルトちょっと気恥かしそうに目を細めた。くっ。このイケメンオオカミさんめ。尻尾がそわそわしてるぜこんチクショー。



「少しだけな」



かまわないよ少しだけで全然かまわないよ!


あれ、触っていいのかあれ。きらめく銀灰色のふっかふかのもっふもふ。もっふもふのもふもふ。


わぁーお!


あぁでも往来でもふるのはまずいよなあ……!


煩悶するわたしの肩をレンハルトがぽんぽんとたたいた。ついでテオドールも。ぬう。ナイスコンビめ。安心せい。落ち着いてはいないが我を失ってはいないぞよ。


しっぽか……ぬふふふふふふ……。



「捨て身の戦術か。天晴れだな」


「べつに捨ててない……」



ふたりがなんか言ってたけど聞こえなかった。うん。

レンハルトさんの口調が恥かしそうでぐっときたとか言わないよ。


捨て身じゃないんだってさー。いじましいよねー。それってつまり悪い気はしてないってことよね? ぐへへへへ。


よーし♪ お家に着いたら、もふらせてもらおーっと♪


あ、もちろんなしくずしにいっぱいもふろうだなんて思ってないよ?

好意で申し出てくれてんのにそんな恩をアダで返すようなこといたしません。


羽のようなタッチでそーっとそーっともふります。


……ん。かえってくすぐったいか?


ああ、いざそのチャンスが転がり込むと、どうすべきなのかわからんもんだな。積年の願望を叶える絶好の好機。レンハルトのもっふり尻尾の感触をこの手にしっかりと刻み込むのよ!


飽くまでもソフトタッチで!




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