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3.冒険者ギルドに登録しよう!




朝食の席で、わたしはもう一度しげしげと手のひらを見つめた。


寝起きに気づいてビックリしたことに、ヘンテコな紋様が浮かび上がっていた。


すごく鮮やかな紅色。綺麗っちゃ綺麗だけど派手だなぁ。ヘナタトゥーって感じ……と考えるヘンテコってこともないか。模様としては美しい。手のひら一杯(指の腹も)ってのがちょっとなー。



レンハルトさんから買ってきてくれた服を渡され、布団にもぐって着込んでから、これって……と濁しつつ、手の模様を見せたら。



「オレの契約の証か。……なるほど。美しいものだな。隷属の象徴とはいえ」



手のひらを撫で撫でされた。感慨深いものがあるらしい。



彼の額にも小さな紅い石があらわれたと言われた。小さすぎて灰色の毛に埋もれていて気づかなかった。


どこに?って首かしげたら、どうぞと頭を差し出された。


チャンス到来!!


オオカミな頭とか触ってみたいに決まってる!!


内心でガッツポーズ。朝からテンションあがった。


昨日からみよしさん撫でてないもんで、もふもふ分が不足しててさー。担がれてたときはそんな余裕なかったし。あのオオカミヘッドなら不足はあるまいっ、と両手わきわきわきわき。



ふっふっふっ……石を探してるの体で思う様まさぐってやったわ!!



あれ。


これってセクハラ? だ、大丈夫だよね?



レンハルトさんの体毛は、さわった感じ、やっぱ犬っぽい、しっかりした毛質だった。しばらくお風呂入ってないみたいで埃っぽく脂っぽい。そういや臭いもきついな。ふんどしもどきもボロ汚いし。


あらいやだ。ちょっとお手入れしたくなるわねー。シャンプーとブラッシング。


灰色の毛をかきわけかきわけしていたら、大分くすぐったかったみたいで。レンハルトさんは頭を揺すって笑い出した。



「もうちょっと大きくなるまで待て。まあ、主が惜しみなく魔力を与えてくだされば……すぐにでも」



石なのに育つらしい。


まりょく? あげるの? って、なんかエロフラグにしか聞こえなかった。


実際レンハルトさん薄らにやついてたし。くぬぬ。昨夜の流れでお手軽認定でもされたのか。こいつチョロイ楽勝だとでも思われたのかその通りだよコンチクショー!



もともと自信もありそうだ。少なくとも身体はコレ見事と言っていいよね。すんごい背高いし、肩幅も胸板もあって腕も太いし、腹筋なんてシックスパック超えてエイトだったよ!! あれ極めると8つに割れるものなわけ!? それとも獣人だから!?


顔立ちも、わたしが見る限り、精悍で整ったイケメンオオカミに見えるんだよねぇ。獣人のイケメン基準がわからないのだけど。



その後、宿(いわゆる逢引宿でした)を出て、朝ごはんを食べにきた。


露店とふつうのお店が雑然と入り混じって並んだ市場のようなところ。道は細くて狭くて、でも人が多くて。その端っこにある惣菜屋さんをレンハルトさんは選んだ。


店先に置かれたテーブルにつくと、レンハルトさんは店員に合図。それだけでちゃっちゃと食事が用意されてる。


メニューはないってことですか? 朝だから? それとも夜でも?



この辺りは建物が土壁で、道の舗装も粗い。貧しい地区なんだろうか。昨夜泊まった歓楽街のあたりとは雰囲気が違う。あちらの方がきちんと整備されてる感じだった。


あの辺の町並みは、昨日の追手の服装から連想された通りのゲーム的中世ヨーロッパ風だった。漆喰ぬられた石やレンガ造りの家々に石畳の道、てゆう。


何にしろ、今のところはそこそこ清潔感があって安心した。


ゴミや生活汚水のばら撒かれた道とか、通行人が何日も風呂はいってなさそうな人ばかりとか、ハードにリアルな方向ではなくて。よかったよかった。チートなのに日々破傷風だの伝染病だのに怯え暮らすなんてのはカンベンですよ。


そもそも魔法があるんだもんね。似てるからって同じようなもんだとは考えない方がいいのかもなー。



……しかしなんでこんな世界にいきなりトリップしてチートなんだろう?



まるでゲームや小説のキャラにでもされたような気分。


なのに何の使命も発生してない。これからそれっぽいことに巻き込まれるのかな。それとも自分で考えて干渉者になれっていうのか。なら世界の秘密を先におしえろ。


ああー。二人が居てくれたらなー。


にいちゃーん。ちーちゃーん。さみしーよー。


二人が居たら……こんな状況にもかかわらず嬉々として異世界トリップもの談義とかしてたな、きっと。それでいいのかって感じではある。



「主?」



そうだった。ひとりではないんだった。じっとてをみる、とかやってる場合じゃなかった。



「あ、うん。ごはん食べたら、あと、どうしましょう」


「そうだな……」



レンハルトさんが答えようとしたとき丁度、お料理が運ばれてきた。わっほい。昨日食べてないからお腹ぺこぺこだ。うれしい。


……うぬ?


うっすーいお粥っぽい何かだ。パン食じゃないんだ。


ぬ。


味がしない。


どろどろしたもののなかにごわごわっとしたものが入ってて食感も悪い。



「主は何も入れないのか? 味がしないと思うが」


「あ、あわ? わ忘れてたー」



つけあわせかと思ってた小皿のなにか(野草?ハーブ?をマリネしたようなの)がデフォルト調味料らしい。


うう。入れる前に、味見するか、においだけでも嗅いでおきたいが……ままよ!!


半分くらい入れました。うん。びびった。これはこれでアレな味だったら食べれなくなっちゃう。



……あ。食べられる味になった。ごわごわは相変わらずだけど。



「魔術師様に召し上がっていただくような食事じゃなかったな」



レンハルトさんが低い声で言った。嫌味じゃなくて。溜め息ついて。



「そんなことないよ(おいしくはないけど)」


「すまない、主。いくら何でもだった。このような場所に貴女をお連れするべきではなかった」



……うん?


なんとなーく周囲の様子をうかがう。目があった。次から次へと。みんな慌てて目を逸らす。なかには顔ひきつらせて恐怖のいろを浮かべるひともいて。


ヘイ。ヘイヘイ。まだチートで暴れたわけでもないのに何でさ傷つくわー。



「奴隷と相席して咎め立てされない無頼の店など……酔狂が過ぎます」



ふぅん?



「いいじゃない、たまには」


「……御意のままに」



主従ごっこかい。うぅむ。ごっこじゃないか。


ああはいはいわたしの見た目が異質なんですねわかります。どうせ人目を惹くならいっそのこと魔術師とバラして威嚇しようとそういうわけですねそうですね賛成します。頼りになります我が……ええと。


我が獣僕。うっ……従僕じゃないのか。頭に浮かんだ単語にかるく引く。


昨日から耳にしてた気はするけど。ニュアンスがはっきり伝わるとアレだなー。獣族の僕だから獣僕じゅうぼくかぁ……。偶然ダジャレみたくなってるな。



何となくレンハルトさんを眺めてたら、お椀を持ち上げて顔を覆うようにしたところに鼻先つっこんで、かふかふぴちゃぴちゃと舐めとっていた。


なるほど。オオカミヘッドでお粥食べる(ケモノ食い不可)ってなると、そうなるよねー。匙ですくって口に入れるって、あの長い口ではね、やりにくそう。


っていうか、レンハルトさん、ごはんこれでいいのかな。お肉じゃなくて。犬は人間との生活に順応して雑食してるけどさ。レンハルトさんはオオカミっぽいのに。


自主的に食べてるから、ダメなものではないんだろうけど。


……ふむ。食生活については疑われるギリギリまで突っ込んで確認しよう。やはり(飼い)主となった以上は責任もって面倒を見てあげなくては。なんてね。







朝ごはんの後は、これぞ異世界トリップのお約束。


やって来ました冒険者ギルド。


おいでませ~。



ファンタジー小説でギルドといえば冒険者ギルドだけど、この世界では「冒険者ギルド」は「職業組合ギルド」とは違う単語で呼ばれてた。けど、まあ、めんどいのでわたしの脳内翻訳は「ギルド」になった。



ここもゲームとか小説とかとおんなじ雰囲気。


酒場的なところに受付があって、依頼の貼り出された掲示板があって、うさんくさそうな人たちがうさんくさそうに新参者のわたしたちに注目する、っていう。


ぅいてっ。視線が刺さる刺さるっ。ガン見しすぎだろ、オマエラ。そんなにモノめずらしいんかい。



ありがたいことに登録するのに身分保証はいらないんだって。ゲームじゃなくて現実だから、あれこれ聞かれたりしないかなって思ったけど、そんなことはなかった。


ギルドマスターあたりにチート見抜かれて実力を試される、ってこともなかった。ごくごく事務的に登録処理されてカード(これはあったよ)発行されて、おしまい。


レンハルトさんが言うには、わたしの手のひらの模様を見たら、奴隷持ちの高位の魔術師だってわかるし、獣族ロウの彼がついてるのに文句を言ってくるわけがない。そうな。


高位の魔術師っていうわりには貧しい服装してても、そこらへんは訳ありだろうと突っ込まないものらしい。冒険者的に。


もし他の魔術師がいたらリアクションがあるかもっぽいことは言われたけど、幸いそれもなかった。



登録した後は、早々にギルドの受付から移動。今日の目的は依頼じゃないんだ。


ギルドが所有してる修練場を借りるのだ。


広さはサッカーコートくらいかな。足下は土。青く色づいた光の壁が覆いかぶさっていた。巨大なガラスの箱を乗せたみたいな感じで。


まほーだまほーだー!!


口あんぐりしかけたけど慌てて顔をひきしめる。常設らしき仕掛けに驚いてちゃまず――



「これは凄い。初めて見るな。防御結界か? ここのギルドにはよほど腕の立つ魔術師が出入りしてるんだな……」



驚いてよかったらしい。レンハルトさんも感心してた。



「さて、主。修練といこうか」



おてやわらかにオネガイシマス。



試してみてわかったんだけど、昨日使ったものは今日も使えた。


最初に襲われた獣を爆発炎上させた炎の魔術。


レンハルトさんを痺れさせた電撃の魔術。


あとたぶん治癒も。これは昨日レンハルトさんを回復させられたから、意図的に使えると考えて大丈夫だろう。



しかし他のはからっきしだった。うぅむ。チートなのに。



でもまあ使える術はものすごい巨大化させることもできたんでよしとしよう。


修練場いっぱい(自分らの立ってるとこ除く)に電撃おこしたあと、レンハルトさんの毛が逆立ってたのは笑えた。余波の静電気のせいだ。


もふわあ!!って全身毛玉みたいになってた。そりゃ笑うよね。



……タダイマ絶賛すねられ中です。



ご、ごめん。繊細な男心を傷つけました。ごめんなさいごめんなさい。和兄にも言われてたのに忘れてました。だって、レンハルトさんと居ると、みよしさんといるような感じがして。つい気安く。



「べつに気にしてない」



って、そんなぶっきらぼうにそっぽ向いて言われてもさー。



「ごめんってー」


「……主は、ほんとうに魔術師らしくないな」


「そう?」



どきっとしつつも、平静をよそおう。個性だよ、個性。らしくないのは個性。



「奴隷の機嫌など、どうでもいいもんじゃないのか」


「うっへえ!」


「え?」


「ああいえ何でも。ええと、わたしは気になるの。意思のあるヒトと一緒にいるのに気にしないでいられるほど鈍感じゃないよ」


「一緒に……いる」


「そうだよ。レンハルトさん、一緒にいてくれるじゃない。わたし、ああっと、いまちょっと不調だし、すごく助かる。頼もしいよ」



ぺんぺん、と彼の二の腕をたたく。あ。馴れ馴れしかったかな。



「……オレでよければ、貴女に忠誠を尽くす。必ず共に在り、護り、たすけよう」



うっひょう! ナニソレかっこいい! レンハルトさんカッコイイ!!


こ、こまるなあ。こまる。こまるよぅ。


レンハルトさん獣人さんなのに、オオカミヘッドなのに、いまのやさしい低音ボイス(またかよぅ!)でこんなあまあまなセリフ聞かされた日には惚れる! 惚れてまうやろー!


ああもう、うっとり……。


よし。いいや。異世界だし。この素敵ムード、ひたらないのはもったいない。



わたしはしばし無言でレンハルトさんの金色の目を見つめた。



……冒険者ギルドの受付ホールで。



あとで周囲からひゅーひゅーおあついねーとからかわれました。くっ。これもお約束か。


からかわれたレンハルトさんがうれしそうだったのは何でだ。そうか。獣族なのにオアツイって、普通のニンゲンみたいにからかわれたのがうれしかったのかもな。さっきの口ぶりからして、獣族の奴隷って、あんまりご主人にかわいがられてないっぽいし。


何でなんだろう。


そんでもって、今この冒険者ギルドにたむろってるオッチャンたちは、凶悪なゴロツキめいた見た目にもかかわらず、差別意識の低いひとたちが大勢らしい。


……よし。それはよい職場だ。



わたしの魔術は一応つかえるレベルだとレンハルトさんに判断され、明日からお仕事(依頼)を受けてみることになった。




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