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19.なさけはひとのためならず



チートがあっても解決できないことはわりとある。

んにゃ。ちがうな。


わたしのチー力が「チート」と呼ぶにはイマイチだから……?

んにゃんにゃ。それもちがう。


言語の自動翻訳なんかはすばらしいくチートだ。必死になるだけで魔法つかえるようになっちゃうとかも。全然使ってないけど武器の使い手チート(徒手を選択したら、どうなるんだろ?)もあるし。


こんだけあったら十分チートだ。ふつうにはあり得ん破格な能力だ。



それでダメって要するにわたしの元からの素地の能力が足りてないんだろーなー。

せっかくのチー力を使いこなせてない。


うーん……。


チートって努力と無縁なイメージあるのになー。


なんかスカッとしないのは何故なの。わたしの生活。

そんなの求めて行動してないだろって言われればその通りなんだけど。


発想力が足りないのかな?


もっとこう突き抜けた感じで行くべき?



……ダメだな。


リーフェ先輩とテレスさんからものすごい厳しいツッコミが入れられそうでコワイ。






生まれつき体が弱いとか、重い病に罹ったとか。そういうのはチートでズバッと解決!ってわけにはいかない。チートだったら取ってこられるトクベツな子安貝が原材料の薬で助かるとか、そうそう都合よくはいかないわけで。


せっかくチートがあってもわたしは何にもできなかった。


ラトアナさんが亡くなった。


彼女がこのアスノイスの街に来てまだ2ヶ月ほど。長くはないと聞かされてたけど、それにしても早い。年齢的に言っても。50才になるかならないかぐらいだ。


昔から体が弱くて何かと熱を出しては寝ついてばかりだったそうだ。やつれた顔は年より上に見えたけど、やさしげな雰囲気の品のいい女性だった。



リーフェ先輩の遠縁にあたる彼女がこの街へやって来たのは、彼女の獣僕の先行きを考えてのことだった。


そう、彼女も魔術師。


もともと3人の獣僕がいて、2人は先に引き取り手がついた。残る1人のために、リーフェ先輩を頼ってきたらしい。



その1人が、今ではちょっとめずらしい獣族トマ。

クマでトマかとつい思っちゃう。はい、そうです、クマさんです。



獣族の奴隷制がひろまりはじめた当初、大勢の獣族トマが酷使され、使い捨てにされたそうだ。胸クソ悪いことに。燃費が悪くてパワー型すぎると、今より獣僕の抑制が難しかった当時「あまり使い勝手がよくない」と思われてたらしい。ほんとに何様なんだよ。


見た目的にも一般ウケしなかったようだ。実際に会ってみて腹立たしいけど納得。とにかく威圧的な外見をしていた。


護衛ならアリ? 堅気のひとから慄かれる覚悟が要りそうだが。


モノホンのクマさんと違い、ニンゲンっぽい体型のクマさんなのだ。ほのぼの要素は限りなく薄い。ぶきっちょそうなクマさんの雰囲気が獣族トマには無い。ぽっちゃり要素もない。


クマのあのぶっ太い首と頭が乗るからには、身体もそれ相応の巌のような造りになる。毛皮越しにも筋肉がでこぼこしてるのがわかるゴツイ肉体。目はつぶらっちゃあつぶらだけど、まんまるなら可愛いってもんでもないのよねー……。


そんな見た目で損して、人口減らされて、今では逆に稀少種扱い。


燃費の悪いパワー型って言ったら、ライオンさんだのトラさんだのもそうなんだけど……あっちは見た目がね。派手だからね。華があるもんで貴人警護の職につきたいなら一人は欲しいオススメの獣僕。なのでそこそこ大事にされたっぽい。


わっかりやすい差別だな。……うぅぅ。この話はよそう。



ラトアナさんの獣族トマの獣僕さんは豪商だったお祖父さんからの贈りものだったそうだ。独り立ち記念にって強引に。珍しくて価値のあるものって考えた結果、そんなことになったらしい。


勝手に選んだ獣僕を押しつけるとか無茶な話なんだけどね。ラトアナさんはありがたく引き受けたそうな。


まだ幼い時分で大層かわいかったとか。今はアレだが。巨体だが。



獣僕って言っても、小さな時から手許で育てた、いわば子どものような存在だ。うちで言ったら、メルトみたいな存在。(メルトは獣僕じゃないけども)


その彼が、自分がいなくなった後にものめずらしさで妙な扱いを受けないか心配で、親戚筋の伝手を頼って一番信用できそうなリーフェ先輩のところに来たんだそうな。


親世代くらいの年長者からもそんな信頼を得ている先輩すごいっす。尊敬します。


その先輩から「こいつに引き取らせてもまずい事はないだろう」と太鼓判(?)をもらったわたしもすごい!と言ってみるだけならタダだよね!


獣族に甘い魔術師って悪名が決め手になったというから、世の中わからないものだ。「わたしもよく甘いって言われたわ」と笑うラトアナさんはとてもたのしそうだった。






ラトアナさんのお葬式が終わって翌日の午後。


再びリーフェ先輩のお宅に向かった。この街での彼女の滞在先は先輩のご自宅で、お葬式も先輩のおうちから出した。

遠縁ってだけでそこまで引き受けた先輩は男前だ。どうもお坊ちゃんくさいから、お家関係のしがらみもあるのだろうけど。


ラトアナさんは離婚のち独身で、お子さんもいなかったので、お兄さんと甥御さん、姪御さんたちが駆けつけた。お父様がまだご存命だそうだが、高齢のため自宅でお骨の帰りを待っているそう。


ちなみにリーフェ先輩のお宅は重厚な外観の古色蒼然たる一軒家です。

素敵に雰囲気あってグレーベージュのレンガな壁に蔦とか這ってたよ。なんかこう、すばらしくお似合い。高級住宅地の端っこにあってお庭付きで、並びのお屋敷に比べたらこじんまりとはしてるかな。

逆にそれがいい、と庶民感覚では思います。維持しやすそうじゃない。


そんなお家なので客間もきちんとあって。最後の獣僕であるテオドールさんをわたしに引き渡すと決めてから、ラトアナさんはリーフェ先輩のお宅で最期の時までを過ごした。それがたったの2ヶ月ばかり。


家族もお友だちもいない遠くの街で最期を迎えるなんて寂しくないかと思って、わたしが迎えに行きますよ、と提案してみたりもしたんだけど。


間に合わないと心配だから、って。


心を決めて出てきたんだなって、つくづく頭がさがった。


もしかしての話じゃなくて具体的に彼女の獣僕を狙ってるヤツがいたのかもしれない。だから弱った体を押して出てくるしかなかった、のか。


だとしたら、ひどい話だ。心穏やかに養生させてあげてほしかった。

そしたら、もしかしたら、もうちょっと長く……。



ラトアナさんのお骨はお兄さんたちが連れて帰るそうだ。出身地に一族のお墓があるんだって。ちゃんと地縁のあるところに埋葬してもらえるって聞いて安心した。


彼女の遺言により、あとに残された主従の契約を失った獣族トマの青年をわたしが引き取ると聞いて、甥御さんと姪御さんはすごくほっとした様子だった。お兄さんは涙ぐんでた。


別れ際、お兄さんがテオドールさんと「今まで妹の世話をよくしてくれてありがとう」と堅く握手をしていた。もらい泣きした。






とりあえず一人にしてあげた方がいいだろうってことで、クマさんことテオドール・トマさんを3階の部屋に案内した。裏庭側のこの部屋はいま誰も使っていない。


ワンコなアルトは元気になるとひとりは嫌がって、2階の部屋で一緒に寝起きしてる。さすがに4人で1台のベッドには寝られないから、……2台のベッドをくっつけて寝ています。


「おれも一緒の部屋がいい」「いいよ(もう一台ベッドあるからそっちで寝てもらえるよね)」の会話の後、部屋に入ったら、当然のように2台のベッドが寄せてあった。何も言えなかった。


ヤマネコなテレスさんはひとり悠々とお過ごしになられてます。ミステリアス・ワイルドキャット。3階の通り側のお部屋をお使いです。


そんなわけで3階は静か。ゆっくりしてもらうにはいいでしょう。



ラトアナさんのお葬式が済んだら、彼を引き取る。そう約束してたので部屋の準備はしてあった。今朝もあらためて空気入れ換えて、ささっとお掃除して、シーツ替えて。水差しも出掛けに満たしておいた。


テオドールさんの荷物は少なかった。鞄ひとつきり。


きっとあれこれ処分した上でこの街へ来たんだろうな。切ない。引き取られる前提で旅してくるんだから、大荷物は無理とはいえ。



「色々と相談しなきゃいけないこともありますが、それは追々でいいと思います。しばらく何にも考えずにゆっくりしてください」



部屋に入ってすぐのところで佇んだままテオドールさんは黙って頷いた。


それにしても、でっかいな。こうして室内に入るとでかさが際立つ。ベッドはこれ、はみ出ないだろうか。狭いんじゃないかな。それこそ2台くっつけて使ってもらってもいいかも。


あぁ、問題は丈か。身の丈2メートル超えてそうだ。たぶん。レンハルトよりでかいもんなあ。ドアくぐる度に頭さげてたし。



「……ありがとう」



お礼を言われたけど、声に張りがない。悄然としてる。褐色の毛並みも心なしか艶を失ってる気がする。ほのかにアマツの油の匂いはするし、お手入れはされてるみたいなんだけど。


ラトアナさんの容態が悪化してから、食事どころじゃなかったんだろうな。睡眠もちゃんと取れてたかどうか。


子どもの頃にラトアナさんに引き取られて以来、親子みたいに暮してたそうだしなぁ。そりゃ落ち込むよね……。



「晩ごはんには声をかけにきますね」



無言のあいづち。気落ちして無口に拍車がかかってる?


もともと寡黙なタイプなんだよね。依頼が早めに片付いた時とか、お休みの日とか、ちょくちょく二人に会いに行ってたんだけどさ。テオドールさんが喋ったの、数えるほどしか聞いてないよ。


自分がいると余計にこうだって、ラトアナさんも苦笑してた。


……う。


思い出すと、涙がにじむ。もう会えないんだなあ。


わたしですらこんなに寂しい。

テオドールさんはもっとずっと寂しい思いをしてるに違いない。


まずはひとりにさせてあげよう。

他人がいると、泣きたくても泣けないもんな。


ふさわしい慰めの言葉は浮かばなかったので、腕にぽんっとかるく触れるだけにして、なるべく静かに部屋をあとにした。






もう会えない、か……。


真っ先に浮かぶのは、お母さん、お父さん、お兄ちゃん。それにみよしさんだワン。わん……。


……会えないんだよなぁ。


だってこの世界に来た理由も原因も方法も、なーんもわかんないもんね。いつか帰れるって気がしない。ハハハ。……はあ。



これからもずーっとこの世界に居るんだとして。

獣僕のみんなが幸せに暮せるようにする責任があるとして。


もしわたしが先に死んだら、ってのは考えておかなきゃだよなぁ。



リーフェ先輩は頼ったら助けてくれそうだよね?


もうじき死にそうだから、獣僕を引き取ってもらえる伝手を紹介してください! ってお願いしたら。面倒くさそうにしつつも、いいひと紹介してくれる気がする。もしわたしが急死しても、うっかり者めとブツブツ詰りながら、みんなの引き取り手を捜してくれそうな。


でもなー。


たったひとりしか宛がないってのはまずいよねー。

やっぱ天涯孤独の身ってきっついわー。


それに先輩の方が年上なんだよね。6つばかり。老後的なことも視野に入れたら、逆にわたしが奔走する立場になったりして。



こんなとき思う。すでに悪名はびこっちゃってるとはいえ、他の魔術師さんとのつながりも持つべきなのかな?って。


よほどうまくやらないと嫌がられそうだけどな! ははっ!


……こ、心にグサグサ刺さるものがあるな……。


ハブられてるんだよねー。わたしも努力放棄したからあれだけどさー。


ただまあ、最近はね。魔術師以外のひとたち、ご近所さんとかギルド仲間とかと仲良くやってきたおかげで、知人・友人・家族親戚に魔術師がいるっていう人たちとは知り合いになってたりするんだよねー。


名づけて「外堀じわじわ埋め」作戦!


ほぼ偶然ですけどもね! でもこれでそのうち他の魔術師さんともお近づきになれるかも?と期待している。


情けはひとのためならず、よー。



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