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18.防御力が低すぎる。魔術師だもん。



それぞれ自分にあったことをしてる我が家ですが、唯一なにをしてんだか不明な赤ヤマネコさんは暮らしにご不満などありませんかね?


ネコはネコでもヤマネコですし。


贅沢な暮らしはさせてませんし。


そろそろ飽きたりしてんじゃないですかね?



「バカなの?」



いっそやさしいくらいの口調でゆっくりと問い返されました。前述の「飽きて不満じゃない?」を、自分の部屋にいたテレスのとこに出向いて、きつく聞こえないよう気をつけながら尋ねてみたんですがね。



「客をとらなくても殴られることもなく、きちんとした食事も貰える。性病の心配もない。いつもキレイなベッドにひとりで寝られて、自分で選んだ清潔な服が着られる。勝手に散歩にだって出掛けていい。しかも、ここが一番驚くべきところだと思うんだけど、主のご機嫌取りさえ必要ないんだよ! ねえ、この状況に不満をもつヤツがいるって本気で思うの? それともボクがそんなバカだと思われてるってこと?」


「……トンデモアリマセン」


「じゃあ、ヘンな気をまわさないで、これまで通りにしといたらいいんじゃない?」


「そーですねー」


「声が裏返ってるよ、みっともない」


ヤマネコさんことテレスさまは鶯色の目をきれいに細めて仰いました。


「ねえ、もしかして、……ようやくソノ気になった? 鈍い主にもボクの魅力が伝わったのかな」


「そんなテレスさんは最初っから魅力にあふれかえってらっしゃいましたよそれはもうアラファレンナの香りのごとく」


「……ふっ。千夜に一花の徒花に譬えるとは巧くなったじゃない。知ってる? アラファレンナの花は実を結ばない。根っこで殖えるんだってさ」


「へえー」


「アナタとは子を生せない獣族の男の魅力を言いあらわすにはぴったりだよね」



ぎゃっ。やぶへびっ。



「いやでもー。受精してんじゃないですかー。その花でー。実をつける位置が根っこのところってだけでー」


「ああ……、なるほど。そういうこともあるかな」


「きっとたぶん。きっと」


「そうか!」


テレスさんはぱんっと手を打った。


「受精するかもしれないよね! いいよ、試してみよう、主! 斬新な誘い文句で、ボク感心しちゃった。惚れ直した」


「誘い文句なんかじゃありません!!」


「なぁんだあ」



口ぶりだけ残念そうに、その実 目が笑っております。このSネコめっ。


きっと睨みつける間もなく、にたあっと笑われ、身の危険をひしひしと感じ。


無い尻尾を巻いて逃げ帰った次第でございます。






めそめそ……はさすがにしないんだけど。居間でぐったりしてたら。


レンハルトがやってきて、どうした?とやさしく問いかけられたもんだから、うっかり正直に話しちゃった。


オオカミヘッドでむつかしい顔をされました。



「主は無防備すぎる」



おっとぉ! 女性向け鉄板セリフキター!


うぷぷ。それって乙女ゲーなら強引キッスとか押し倒しシチュのセリフでっせ? レンさんは知るよしもない話ですが。



「え、うん、そうなのかな。テレスってそっちは興味なさそうじゃない。表面的な態度はともかく、本心のところはさ」


「それはない。男だったら、飽きても欲求が無くなることはない」



……ん。きわどい話をしてるような。


発情期が決まってるから、逆に普段の獣族の男は危なくないんじゃなかったっけ、とは聞けない雰囲気。逆に聞ける雰囲気ってどんな時だって話題ではある。


そうだな。話を変えよう。



「気をつけます。一応まじめな話をしに行ったんだよ。たまにお仕事やすんでだらだらするのはいいけど、ずーっとすることないのってつまんなくないかなって。なんかやり甲斐のあることしたくないかなって」


「やり甲斐か。そういうのはひとに見つけてもらうものでもないだろう」


「そうなんだけどねー。人と喋ってるうちに思いついたりもするじゃない。アルトの庭仕事なんかは、わたしに何かすることないかって相談したから見つかったわけでしょ」


「そうだな」



頷いて、レンハルトは目を閉じた。少しの間、黙して考えて、金色の眼をひらく。宝石のように硬質な美しさをもった瞳を。



「オレのやり甲斐……生き甲斐は主と共に在ることだ」


「……はい」


「主さえ居てくれればいい。他には何も要らない。オレには余計な気は遣わないでくれ」



べろん、と顔を舐められた。 は。 な め ら ……舐められたわー。



「え、ちょ……」



べろべろと立て続けに、今度は耳のあたりを。こりゃ。くすぐったい。


くっくっと笑ってたら、ろくに抵抗しないのに味をしめて、ほんとに汗の塩っけでもあって味がしたのかもしれないけど、首を舐め下ろされた。襟元へむかって。着てた服が立ち襟だったから、その内側にレンハルトの鼻先が入ってきて――ん、むむむむむっ。


待った! そっから先はアウトだ!!



「――っだめ! レン! ……レンハルト、だめって!」



ぺしぺし頭をはたいてやった。ゆっくりと頭をあげたレンハルトはちょっと気恥ずかしそうに見えた。顔色はわかんないけど視線そらすし。



「主の無防備さは、オレには毒だ」



……は? まじで押し倒しシチュだったんすか? フラグだったの?



「冒されて死んでもいい」



へし折り損ねたエロフラグの威力を知りました。今後は気をつけたいと思います。






あー、疲れた……!


なんとか無理やりごまかして逃げ出したけど真っ昼間っからもうもうもうもうっ。なんなのあのはかいりょくはっ。


くっ。


絶対あとで尻尾の付け根おさえてやる!


イケメンだからって「ただし以下略」になると思わないでよねっ!



逃げてきたついでに癒しがほしくて2階の部屋をのぞいた。メルトがお昼寝してるはずだから。そっと中に入ると、アルトがメルトに添い寝してた。


うは。寝てる寝てる。


もっふり柴わんことまっしろ子ネコ。


……ふふふ。心おだやかになれるわー。


無防備って言うなら、こういう光景を見て言ってほしいわ。よこしまな心は無しに。


まあたしかに? レンハルトのことは好きだけどね?


だけど昼日中、いつ誰がくるかわからん居間のソファで、エロいことしていい仲じゃないよね!?


なんなのいったい。



「……あるじ」



ふっとアルトが目を覚ました。起こしちゃったな。ごめん、と口だけで言って笑みを向けると、へにゃっとした笑顔を返してくれた。柴わんこヘッドなりの笑顔を。かわうい。


アルトはそっと腕をひいて起き上がった。ベッドを降りて、わたしの隣に並ぶ。ふたりしてメルトの寝顔をのぞきこんだ。


すーすーと深い寝息をたてて気もちよさそう。ちょっとやそっとじゃ起きそうにない。



アルトが隣の家主部屋を指さすので、そちらに移動した。ドアじゃなくカーテンで仕切られた戸口を抜けると、ほわんといい匂いがした。


部屋の中ほどに置かれた小さなテーブルに、ドライフラワーの入ったお皿が乗せられていた。見覚えがある。メルトが落っことして欠けさせたヤツだ。


そういうこともあろうかと、食器は自分たちで買ってきたものを使ってる。彼が自分で選んだお気に入りだったから、がっかりしてたんだよねぇ。


ドライフラワーは裏庭で見た花だな……。矢車草によく似た真っ青な花。小さくて白くてまん丸な花。いい匂いの元になってるのは野菊みたいな形のピンクの花。



「これ、お庭に咲いてたやつ?」


「うん。そ、そういうの、するんだよね?」


「アルトはいろいろ知ってるねぇ」


「ううん、前に見たことあっただけ。パーティのお手伝いに行ったとき」



パーティか。金持ちの響き。そういや、あの守銭奴魔術師、身形はよかったな。



「すごく素敵。アルトはお家の居心地をよくしてくれる天才だね」


「そ、そんな……」


「お料理は上手だし、盛りつけもキレイだしさー」



すごいんだよね、アルト。ごはんの盛りつけがお店みたいなの。獣族が入れるお店だと大ざっぱなガッツリ盛りだろうにって不思議に思ったことがあった。さっきの話で納得。パーティのお手伝いしたことがあったんだ。



「あ、主がよろこんでくれて、おれも、うれしい」



もじもじしてはにかむ姿は乙女そのもの。ちょいちょいどもるのは、まだ馴染みきれてないせいかなぁ? それともキャラ?



「……わたしといると、まだ緊張しますか?」



そっと頬に手をそえて、やさしい茶色の目をのぞき込む。ちょっと驚いて目を見開いてから、アルトはぷるぷるとかわいらしく首を振った。



「そ、そんなことないっ」


「そうですか。それならいいんですが。無理をさせてしまってないかが心配です」


「……っ、あ、あの、おれ……」


「はい」


「う、うれしくてっ。主と、こんなふうにお話できるのが、うれしくて。うれしすぎて、言葉がうまく出てこないときがあって。でも、でも、イヤだからじゃないからっ。主が好きだから、焦っちゃって、それで……っ」


「アルト。ありがとうございます。わたしもアルトが好きですよ」


「……主っ……!」



ぎゅむっと抱きつかれる。柴わんこを愛でる気もちで居たのに大きな体で包み込まれてしまって戸惑う。


普段からアルトの顔は見上げる高さなんだけどね。なんていうか、仕草が愛くるしいから、かわいいものを見てる気分になるんだよ。実際かわいいし。わたしよりでかいだけで。



「あ、アルト……」



うん? なんか、腕の力が強すぎませんか?


アルトはそういうの間違えないタイプなんだけどな。獣族なのに人族の加減や程度がよくわかってて、期せずして「体調管理してもらえる」獣僕に出会っちゃったなあってくらいで。


……あれ、こ、これほんとに……ちょっと……!?



「レンハルトのにおいがする」


「ん、え?」


「主の、ここ……。こんなとこから、レンハルトのにおい」



におい――あぁワンコだもんね嗅ぎわけられるでしょうともさっ!!


うぎゃあぁああああぁぁ……。


は、恥かしくて、憤死しそうだ。


わたしのせいじゃないし。ことを荒立てておおっぴらにするつもりもなかったし。バレるとか考えてなかった。まさかの不意打ち。テレスならともかくアルトに突っ込まれるとか。



「やらせたの?」


「えっ? ま、まさか」


「レンハルトが勝手にしたんだ」


「うっ、まあ……。その。……えぇと、おおごとにする気はないからね? 気の迷いってこともあるだろうし、状況的に……」



追っ手から逃れるためとはいえ、わたしの獣僕になんかなったせいで、レンハルトは自由を奪われた。お年頃なのに異性との交際も結婚もできない生活だ。


ふらっとしちゃうことってあると思うんだよね。


魔力あげる時なんかあんなだしさ。まあ、あれのおかげで、主従の絆のおかげでアレコレ充足されちゃうらしいんだけどね。だから誓約にはそのテの欲求も落ち着かせる効果があるとかなんとか。


逆に言えば、主従の絆をそういう気もちと勘違いしてしまうことがあるそうな。異性の主従だと。お互いに。


わたしにも強い感情がある。彼ら獣僕に対して。庇護すべきという。


それと恋愛感情は似て非なるものだろう。


正直オオカミヘッドを愛せるかって言われると一考の余地はあると思うし。獣族側だってそうなんじゃないか。


この世界において獣族と人族は同じニンゲンだけどね。種族がうんと懸け離れてるだけで。子どももできないくらいに。



「彼を許すってこと?」


「っていうか……、怒れないっていうか……」


「そうなんだ」



ん……?



「おれは許せないな」



べろん。 ってされた。 うにょ!?



「――ッ――――!?」


「うごいちゃだめ……」



後頭部をがっちりつかまれた。手ぇでけえ。そうだった。獣族テスタとか獣族ロウとかそのヘンの連中って手足でっかいんだよな。


そんで舌も、うわ、わわ、舌も長くて。っわ。


首に歯先があたる。あててる。牙の先で皮膚をくぼませるように。おとなしくさせるために、わざとだ。動いたら傷つくよ、痛いよ、って。


こ、こ、この腹黒がぁあああああ……って、そうなの? え、まじで?


もっさり柴わんこのふたをあけたら腹黒キャラとか聞いてないよーーー!?



「ああ、こんなとこまで……」



……なんか。



「はい。もういいよ、主。これでキレイになった」



きっちり舐めまわされました。レンハルトが舐めたのと同じところを上書きして。



「……アルト」


「なに、主?」


「こ、こういうことはですね、あので――」


「主の気もちをたしかめてからじゃないといけないよね? ごめんね、主。おれのこと罰してください」


「ぅえ? え、いや、罰とかってそんな」


「でもおれ……またやるかも」


「はい?」


「あいつに好き勝手させないで。主が汚されるの、おれ、嫌だ」



は? けが、けがされるって、え、あ? ん?



「待て。待てまて。おちつきなさい、アル」


「落ち着いてるよ、おれ」


「……あー……落ち着かなきゃいけないのはわたしか?」


「主ったら」


くすっと笑うアルトはいつもの彼のようで。ほんわか乙女な雰囲気でかわいくて。


「しっかりしてね。またそんな真似されてるの気づいたら、おれ、なにするかわかんないから。あんな立派な獣族ロウじゃ戦っても勝てっこないし、毒でも盛ろうかな」



……は?



「なぁんて。冗談だよ、主。やるときはちゃんと真っ向勝負する」


「……や、やらなくていい、です、よ?」


「なに言ってるの、主。それじゃあ、また主が汚されたらどうすればいい? 心配だな……。主はやさしすぎる。無防備にそんなことさせて。あぶなっかしいったら。いっそどこかに閉じ込めておいた方がいいのかな?」



そう言って小首をかしげる姿はとてもかわいかったのですが、発言内容がかわいくありません。


ど、どどどどどうしたらいいですか!?


うちのかわいい柴わんこがぐれちゃったよ!!



「主……大好き。おれのものになんてとてもできないけど……誰のものにもならないで」


「――アルトくんや、魔力をあげよう、魔力。絆を深めようじゃないか」



咄嗟に思いついたのがそれだった。


きっとアルトは焦っているだけ。元捨てイヌだから。また捨てられてしまうんじゃないかと無意識に怖れている。


そんなことないとわからせてあげなきゃいけなかったんだ。


一緒に暮らしてるうちに自然に……ってのは悠長だったのかもしれない。かわいそうに。たっぷり魔力を上げて絆を深めてあげれば少しは慰められるだろう。


ほんとは、一気に上げすぎるとアレなのがわかってるから、ちょっとずつ慣らしてくつもりだったんだけど……。いいや。この際だ。


なんかちょっと飴ちゃんあげてごまかすみたいな感じもするけど、いいってことよっ!



「ほんとっ? うれしいっ」



アルトははふはふ言って尻尾をふった。かなり唐突な提案だったが、訝る様子もない。こういうとこは単純でかわいいんだよなー。


すっころぶとまずいんで床にすわらせる。その前に膝立ちして、アルトの右耳にある草色の石に触れる。


集中、集中。さあ、上げますよー。


ズルリと魔力が流れ出ていく。ああ。相変わらずな感覚。たまらんな。



「……あっ……あるじ……っ……」



アルトの声はわりと高めでけっこう好みだったりする。基本的にテノールが好きなので。美声ってわけじゃないんだけど、喋り方が穏やかでほのぼのするし。


普段はそう。ほのぼの。ほんわか。いやされる。


でも、魔力をあげるときの声は、やっぱり色っぽいんだよねー。


男のそういう声ってどうなの?って思ってたけど、こっちに来てから考えを改めましたよ、わたしゃ。レンハルトといい、アルトといい、わたしよりよっぽど色気があるよね!


平凡キャラだと思ってたアルトくんの初エロボイスを聞いたときの衝撃と言ったら……ぁはい、ホントは大して驚きませんでしたスミマセン。レンハルトさんで免疫できてました。


やっぱなあ……って遠くを眺めてしまっただけです。



「あっ……」



アルトの体が揺らいだ。おっと。腕を伸ばして受け止める。重っ。とても抱えきれないので、わたしも床に座って寄りかからせ、全身で抱きとめた。



「……あるじ……」


「ああ、ごめん。やりすぎたね」


「ううん、ちがう、……もっと」


「え?」


「もっとちょうだいっ……」



ええー?


ちょっと涙ぐんだ茶色の目でじっと見つめられる。と、ちょっと、その目はヤメテ。わたし、ワンコのそういう目に弱いんだって。みよしさんのおねだりに何度負けそうになったことか。負けたことか。


……あげたい。ううっ。意志薄弱な飼い主もとい主でいいのかっ。


ああでも上げたい。よろこばせたい。

ああ。いまの分でわたしにも影響が出てるんだ。衝動が強くなってる。


待て待て。よく考えろ。


この状態でさらに上げて大丈夫かいな?


ええっと……魔力あげすぎの副作用は……限度は自然にわかるし、止まるから、基本は無いんだっけ? 主従関係にあると絆の深度に影響はあるものの、それも少しばかり不安定なるだけで、むやみに刺激しなければ問題ない、って。



「もうちょっとだけ……ですよ?」


「――っ あるじっ ありがとっ……!」



ああくぁわいいどうしようダメ飼い主ですハイすみません。






麗しのテレスさんに世にも覚めた目で見下げられました。



「バカなの? って思ったら、ほんとにバカだった」



即日バレました。アルトに魔力たっぷり上げたこと。まぁね。拡大したわたしの左腕の模様は服で隠れるけど、アルトの石は耳だもんね。バレますわな、そりゃ。



「あんなに見事に育てちゃって……どんだけ上げたの? 何で上げたの? じっくり時間かけてやらないと影響が出るからって、どの口が言ってたかもう忘れた? このアホ口が言ってたんだよ!」



テレスさまの独壇場。


獣僕に甘い主として散々責め立てられました。


お、おかしい。当の獣僕さんからも責められるなんて……。



そんなことを思ってるうちはまだよかった。後日リーフェ先輩にこってりと仕上げのお叱りを受けることになるとは。


まあそりゃ予想の範囲内だけど――誰だバラしたのは!?



……レンさんや。


そりゃ怒ってたのは知ってるけど、陰険じゃないですか。


泣くよ? 泣いちゃうよ?




獣僕に甘い魔術師の前途は多難です。






※以下オマケ。

※なんでもイケるってひと以外は飛ばして下さい。




~テレスさまの独壇場~



「あんなに見事に育てちゃって……どんだけ上げたの? 何で上げたの? じっくり時間かけてやらないと影響が出るからって、どの口が言ってたかもう忘れた? このアホ口が言ってたんだよ!」



うに、とテレスに口の端っこをつかまれて、ひっぱられた。



「ひぇ、ひぇれしゅひゃん……」


「ああ! そういう日にしたのかな? おねだりしたら魔力くれる日ってこと?」


「ひゃお……」


「なら、ボクもねだっていいよね? いますぐ頂戴。ボクがいいって言うまで。呑めるだけぜんっぶ呑んで あ げ る か ら 」



お、怒ってらっしゃる。うぐ。舌つかまれた。ぐにぐにしないでーえ。あぐ。ぐ。根元のギリギリまで親指が。あが。爪で掻かれると噎せそう吐きそう。


ふふっ、て笑ってたのしそうですね、テレスさま。


ご機嫌なのでしたらお願い指抜いてぇええええぇええ!!



「たのしみだな。主の魔力は純度が高くて美味しいからね」


「――ん ぐっ……ぇ……」


「ねえ、主。あのコにばっか上げてボクにはくれないなんて言わないよねえ?」



えぐえぐ。よ、よだれ。涎が垂れてきたよ。あごをつたって。ひゃあ。


さすがに逃げようとしたら、膝をつかって行く手をさえぎられた。ソファに座らされてたんだよね。さらに大胆に迫ってくるから後退したら、L字型の角っこに追い詰められ。


逃げ場なし。


ひぃいいぃぃ……。



「そのカオはいいね、主。いつものボケッと抜けた顔より、よっぽど」


「ひゃふ……」



ほめられてるけど、けなされてもいる。飴と鞭の同時使いは如何なものかと。いくらわたしでも受け止め難いわー。とか言ってる場合じゃなかった!



「なんか興が乗ってきちゃった」



きらーん。鶯色の瞳がひときわ大きく見ひらかれて輝く。た、たのしそう。



「魔力はいいや。もう少しボクと遊んでね、主♪」



ぃいやぁああああぁぁああ……あ?


ちょい待て。


よく考えたら、わたしが主なんだよね?


なんでやられっぱなしでなきゃあかんのだ!



「ふゅ……!」


「――ねえ、主?」


「ふぇ?」


「いまちょっと苦しいのと、じっくり骨抜きにされて悶え苦しむのと、どっちがいい?」


「…………ひゃふ」



ごっ――ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!


心の中で土下座しました。



逆らってはいけない相手というのが世の中にはいるようです。まあ、個人的に。



ち、ちーとなのに……!



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