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ある図書室での恋物語 第二話


「……今日、部活は……?」

「別にないな。雨降ってるし、先生も今日は休みにするって言ってたし」

「……そう、なら――――今日、一緒に帰らない……?」

「…………え?」







それは、とある雨の日のお話。

女の子は男の子と共に帰り道をすごす。

それは、誰にも知られない二人だけの――――恋の、お話。







「……あ」

「お、どうした?」

帰りの下駄箱で靴を履き替え、いざ出ようとした小鳥は、ある事に気がついた。

「……どうしよう……」

小鳥の目の前には傘箱があるが、彼女の傘はなかった。

「……傘、忘れてきた……」

もう一度確認するも、やはり小鳥の傘が出て来る様子はない。

「傘、ないのか?」

「うん……どうやって帰ろう……」

小鳥は徒歩通学だが、家まではかなりの距離があり、まともに帰ろうとすると濡れてしまう可能性が高い。

小鳥が帰る方法を思案しようとした、その時だった。

「なら、俺の傘に入るか?」

「……え……?」

有紀が、そんなことを言い出したのは。







(うわ……恥ずかしいな……)

「……本当にいいの……?」

「ああ、気にするなって」

遠慮する小鳥を無理に説き伏せ、一緒の傘で帰っていた有紀は、ある事に気がついた。

(これ……よく考えたら相合い傘じゃんか……)

周りを観察すると憎しみの目や妬み、生暖かい目が向けられているのを感じて、有紀はさらに赤面する。

(幸いにも……小鳥が気づいた様子はない、な……)

小鳥が周りを気にしている様子がないので、有紀はそう決定づけた。

「……有紀君……時間、ある……?」

「ああ、今日は一日空いてるけど……?」

この時、有紀は周りのことに気が向いており、小鳥の話が聞ける状態では無かった。

だからだろうか。小鳥の次のお願いに、即刻了承してしまったのは。

「……なら、今から、一緒に遊びに行かない……?」







(……ほ、本当に有紀君に了承して貰えるなんて……私、今変な格好していいよね……?)

(まさか、小鳥から遊びのお誘いが出るとはな……やべ、今金あるよな……?)

あの時、有紀が聞き返した時に、「……今日はそういう気分だから……別に、貴方と一緒に行きたいという訳じゃない……」と小鳥が言ったのは省略しよう。

ともかく、急に小鳥が誘った為に何も用意していない状態で二人はゲームセンターへと遊びに来ていた。

「小鳥は、こういう所によく来るのか?」

「……たまに、気晴らしに……」

「へえ、そうなんだ」

他愛ない話をしつつ、ゲームセンター内を物色していく。

それから五分後。小鳥の目が、ある一点で止まった。

「お、どうしたんだ?」

「……あれ……いいな……」

小鳥が指差したのは、ペンギンをデフォルメしたようなぬいぐるみ。

クレーンゲームの筐体の中でも、特に取りにくい奥の方に置いてある物だった。

「なら、俺がとってやるよ」

「……え……いいの……?」

「まかせろって」

有紀は百円玉を筐体へと入れ、レバーを持つ。

その時、小鳥には有紀の目がまるで鷹の目であると錯覚した。

(……凄く……格好いい……)

小鳥が有紀の姿にトリップして僅か数十秒。有紀は、小鳥にペンギンのぬいぐるみを差し出した。

「ほら。やるよ」

「……え、でも……」

「気にするなって。こういいのを、男の甲斐性って言うんだろ?」

顔を赤らめ、ばつがわるそうに頬をかきながら言う有紀。

その姿を見て、小鳥は胸が苦しくなった。

(……こんな人と相思相愛になれたら……どれだけ……)

「ん?どうしたんだ小鳥?」

「……なんでもない……」

急に黙りこくった小鳥のことを心配した有紀だが、逆に突っぱねられてしまう。

その時、格闘ゲームの方から、歓声が湧き上がった。

「すげえぞ!これで十五連勝だ!!」

「なんてコンボだ……」

「あんなのに勝てる者奴はいるのか……?」

そういった歓声を聞いた瞬間、小鳥の目がピカリと光った。

「……上等……闘ってあげる……」

「こ、小鳥?」

急に豹変したかのように格闘ゲームの筐体の方へと向かう小鳥を見て、有紀はそれを追いかける。

が、有紀が聞いたのは、彼の予想とはかけ離れた声だった。

「じ……女帝だ……」

「へ?」

聞き慣れない言葉を聞いて、一瞬有紀の思考がフリーズする。

その瞬間、湧き上がる大歓声。

「女帝が来たぞおおおおおお!!」

「一カ月ぶりの降臨だああああああああっ!!」

「今回はどんなコンボを見せてくれるんだ!?」

(女帝?ナニソレ?)

有紀の戸惑いも露知らず、小鳥は筐体に百円玉を投入する。

「一カ月ぶりの雪辱戦だ……俺は、今度こそアンタを倒す!!」

「……御託はいい……かかっておいで……」

「上等!!」

男が声を荒げた瞬間、無機質な機械による開幕が告げられた。






結局、小鳥は四十連勝した。

しかも、負けたのではなく挑戦者がいなくなった終わり方だった。

「……女帝って……すげえな……」

「……軽蔑、した……?」

「いや、ちょっと驚いただけだよ」

小鳥が対戦相手に無双している中、有紀は小鳥のゲームセンターでの偉業を観戦者から教えられた。

そこに熱が入りすぎていたせいで若干誇大になってはいたが。

「それに、俺としてはちょっと嬉しかったな」

「……え……?」

「だって、今まで知らなかった小鳥の秘密の一つを知ったんだ。嬉しくないわけがないだろ?」

そういいながら、無自覚に最高の笑顔でそう言う有紀。

「……馬鹿……」

小鳥は、真っ赤になってそう言う事しか出来なかった。

「じゃ、これからどうする?」

「……そろそろ帰る……お母さんやお父さんやお姉ちゃんが心配してると思うし……」

「そっか……送ってこうか?」

「……いい……変に誤解されたくないし……」

小鳥の本心は送っていって欲しかったが、天の邪鬼なその性質からか、それを突っぱねた。「そっか」

「……でも……」

「え?」

「……どうしても送って行きたいって言うのなら……別に送って貰っても、いい……」

が、小鳥はあくまでも一瞬でも有紀と一緒にいたかった。

「じゃ、送っていかさせてくれ」

また、有紀も小鳥の家の場所が知りたかったからか、小鳥の申し出を受け入れた。

顔を真っ赤にしている小鳥が可愛いな、と思いながら。

「……しょうがない……送っていかせてあげる……」

顔を真っ赤にしながらも、小鳥は有紀の傘の中へと入る。

「……じゃ、行こ……」

「そうだな」

二人は顔を赤らめながらも、一緒に歩き出した。



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