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第一章 ある図書室での恋物語


「よ。今日も来たぜ」

「……今日も来たの?練習は……?」

「今日は雨だろ?今日くらいはしっかり休めって先生が休みにしてくれたんだ」

「……だからって、なんでわざわざ来るの……?私の邪魔をしないで……」

「俺がいたら嫌か?」

「……別に、いてもいなくても同じ……」

「そっか。そいつは残念。で――今日は何を読んでるんだ?」




それは、ある高校の図書室での恋のお話。

一人の少年が一人の少女に恋をして、それから始まるどこにでもある物語。

だが、それは彼らにはとてつもなく重要な――――それでいて、甘く切ない、物語。







カラカラと、扉を開ける音がした。

(……今日も、来てくれた……)

その音を聞いて、図書室のカウンターに座り本を読んでいた海島小鳥ウミシマ・コトリは、僅かに顔を赤らめた。

が、足音が近づくにつれて、次第に彼女の表情は変化していった。

即ち――――赤く染まった顔から、不機嫌そうな仏頂面へと。

「よ、今日も来たぜ」

そして、予想していた少年が姿を表した時には、既に元の表情に戻り冷静に本を読んでいた。

「……何?今日も来たの……?」

「ああ。来たら悪いか?」

「……悪い……」

そう言って、顔を赤らめながらも読書に戻る小鳥。

それを、入ってきた少年は軽く苦笑した後、いつものように小鳥の隣に腰掛けた。

「……本当に、大丈夫なの……?」

僅かに心配の色をこめて小鳥は言う。

それを聞いた少年は苦笑した後、

「なんだ?心配してくれるのか?」

とのたまった。

「……馬鹿じゃないの……?どうして私が貴方の心配なんか……」

「心配してくれないのか?」

「……そういうわけじゃないけど……って言っても、貴方じゃなくて、貴方が所属している部活への心配をしてるの……」

そう言って、顔を赤らめながらも顔を背ける小鳥。

それを見て、少年は軽い笑みを浮かべ、小鳥の耳元で、

「……ありがとな」

と呟いた。

「――――――!!!」

顔を真っ赤にして倒れふす小鳥。

その背中を、少年はゆっくりとさすっていた。







(……可愛いな)

そんな事を思いながら、少年――田坂有紀タサカ・ユウキは小鳥の背中を撫でていた。

(……襲ってしまったら、駄目だよな)

一瞬ためらい、やっぱ駄目だと首を振り、また撫で始める。

それを見ている者は、誰一人としていなかった。

この図書室は、今どきの図書室には珍しく、ライトノベルなどの本を入れておらず、利用者も殆どいなかった。

それを思ってか、他の図書委員は小鳥に仕事の全てを押し付け、放課後は小鳥しかいない寂しい空間へと化していた。

(ま、おかげでこんな関係を続けてられるんだけど)

小鳥を見て、まだ再起動には時間がかかることを理解した有紀は、背中から頭へと手を移動した。

(……ちょっとくらい、いいよな)

躊躇いは一瞬。有紀は自らの好奇心を満たす為に小鳥の頭を撫出始めた。

(うおっ、柔らけ)

止めようとしても、その手は止まらず、サラサラとした髪の感触を楽しんでいた。

(やべ、止まんね……)

そして、止まらない自らの手を見て、有紀はどう誤ろうかを考え始めた。







(……え……?どういうこと……?)

小鳥は、自分のおかれている状況がわからずに戸惑っていた。

(……どうして、有紀君に頭を撫でられてるの……?)

戸惑いながらも気持ちよさそうに自らの頭を撫でている有紀。

それを見て、小鳥もどうすればいいかわからなくなっていた。(……凄く、気持ちいいけど……でも、怒らないと、有紀君の部活……大丈夫なの……?)

小鳥は怒ろうとし、立ち上がろうとした。

しかし、次の瞬間動きが止まった。

(……でも、もしもここで動いてしまうと……有紀君に、頭を撫でて貰えなくなる……)

立ち上がって怒らないといけないけど、ここで立ち上がった場合、頭を撫でてもらうという幸せな時間が終了してしまう。

それは、小鳥にとってまさしく死活問題に等しかった。

『小鳥、動いたほうがいいんじゃない?そろそろ有紀君も部活に行く時間でしょ?』

小鳥の中の天使が出て来て諫めたかと思えば、

『気持ちいいんだし別にいいじゃない。このままでも』

小鳥の中の悪魔が出て来て甘言を吹き込む。

(……うう。どうすればいいの……)

そして、小鳥がそのままの状態で悩み始めた瞬間、




キーンコーンカーンコーン



「……有紀君、時間……」

「……起きちまったか……」

二人だけの時間の終わりを告げる鐘が鳴った。

「……じゃ、また明日来るよ」

「……私の頭、無断で撫でたツケ……しっかりと付き合ってもらう……」

「……げ、まじか」

「……うん……」

「……わかったよ。お手柔らかにな」

「……覚悟してね……」

小鳥の言葉を聞いた後、有紀は苦い顔をしながら出て行った。

その後には、有紀に何をしてもらうかを悩む小鳥ただ一人が残された。


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