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magnet  作者: 華梨
不穏な影、突然の再会
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第三話:メイの企み、朝の井戸端会議

準備が出来ると貴族達がちらほら入ってくる。


 こっちはお腹が空いているのに目の前でお預け状態なのには未だに慣れない。

うぅ…。私だってお腹空いてるのよ。アリアは心ではそう思いながら笑顔を保つ。

そして、そっと一人の貴族に近づき、その手のグラスに水を注いだ。これも侍女の仕事なのだ。

「昨日からシス国の大臣が来ているらしいのだが…」

アリアはその貴族の言葉を聞きながらゆっくりと水を注ぐ。


「あぁ、例の大臣殿か…」


ここ数日は、隣国、シス国から来た大臣の視察の話で持ちきりだった。


確かに、ここ数年隣国との仲が急激に悪くなっているせいでピリピリしていたが。

戦争が起きるのではなどと、大それた事を言う人もいる。


 それと、侍女の間でも、隣国については話題に上がっていた。

大臣が云々ではない。大臣が護身のために連れてきた、騎士達についてだ。


 騎士とは、各国にいる軍の中でも優れたものだけがなれるエリート集団で、年頃の女性達にとって憧れの的である。

「本当に騎士様ってかっこいいですよね」

「美形揃いだし」

「なんとかしてお近づきになれないかしら?」等々…。


夢みる乙女達は案外行動的で、皆シス国の騎士達にあの手この手で近づいているらしい。


 これだけシス国の騎士たちに魅力を感じるのにも理由がある。まずは、この国、ソマリア国はどちらかと言えば商業が中心で武芸に秀でたものがほとんどおらず、騎士団のレベルもさして高くない。

その上に、シス国と言えば良質な鉱物が良く採れてその中でも鉄が有名なので、良い武器が集まりその故あってか武芸に秀でた者がかなり多い。シス国の騎士団といえばどの国の乙女たちにとっても自国の騎士たちとはまた別の特別な存在なのである。


「アリアは誰を狙っているの?」

「え?」

 アリアは不意の質問に思わず声が出てしまった。朝も一段落してくると戦場だった調理場も井戸端会議の会場へと早変わりだ。


 それにしても、年頃の女性というのは恋愛話が好きなものだ。

「だって、アリアはいつも私達が話しているのに聞いてばっかりで話してくれないんだもの。だれそれがかっこいいって騒いだりしないし。心に決めた方が居るんじゃないの?」


「うぇ…っと。特にそういう人はいないんです。相手も見つかってないし…」

 そして、アリアはそういった恋愛話にさほど興味がない。なので、こういった話は自分に矛先を向けられるので苦手だった。何と切り返せばよいやら…

しどろもどろに言うと周りの侍女の目が一気にこちらを向いた。

何かまずいことでも言ったのかと焦り出すアリアに向かってみんなが口々に言う。


「アリアに限ってそれはないでしょ」

「貴女黒髪で赤目だし、とても目立つもの」

「そうよ。明るいし、容姿も可愛いし」

よかった、何か悪いことを言ったのではと心配していたので、ほっと一息ついてアリアは安心する。

「ありがとう」笑って言うと。

「アリア、可愛い!」そう言われ抱きしめられる。

「く、首が…」閉まっています。

 アリアはそう言おうとしたものの日々の仕事で鍛えられている彼女の腕の力は細いのに強かったため、言えなかった。

「あらら。つい、私ったら。ごめんね」


侍女達は心優しくていい人達なのだがスキンシップが激しい。

未だにそのノリに慣れないアリアは慌ててしまうのだ。

「そう言えば、アリアは騎士様を見た?」井戸端会議にいつの間にか介入しているメイが尋ねる。

「…う、ないけど」

「けど…?」

アリアは嫌な予感がした。

「もったいないわよ。目の保養になるから見に行ったら?そろそろ騎士様に朝餉を届ける時間だし…。私と一緒に行きましょう。ね?」

メイがにんまり笑って言う。


これか、もしかして、手伝って欲しいことというのは。


メイ曰く「アリアの運命の人捜しのためだし…。もしその人じゃなくてもアリアが恋したら友人としてはおもしろいじゃない」だそうだ。何が「おもしろいじゃない」だ。


保養って何だろうと思いながらメイと他の侍女達によって半ば無理やりにアリアは朝餉を届けることになってしまった。



*     *    *


重い…。


もしや、コレを運ぶのが嫌で私を連れてきたのでは…。

 アリアがそう疑問を持ってしまうぐらい重かった。押すだけで進む滑車なのになかなか進まない。

かなりの量積んであるせいだ。

 他の誰かに手伝ってもらおうと思ったが、皆忙しくて断られてしまった。

今日は運の悪いことにパーティーが催されるらしく、皆その準備に追われているのだ。

まあ、昨日隣国から使者が来たのだからこのぐらい予想していたことだが。うう、残念。アリアとメイの二人で運ぶ羽目になってしまった。

 

 四苦八苦するうちに目的地に着いた。朝の訓練があるらしく、城の訓練場で食べたいと言う要望があったらしい。


「ほら、アリア。いい男たちがたくさんいるからしっかり見ておくのよー」メイはそう言って入っていった。

後を追ってアリアが入ると、中の騎士と思われる人々、大体十五人くらいだろうか、がこっちを振り向いた。


 騎士達が確かに噂通りだった。これでは侍女達が騒ぐのも無理ないというぐらい彼等は格好が良かった。

顔ももちろんそうだが体つきも均整がとれていてそこらの貴族よりもずっと“王子様”だ。


 それはそうと今は見とれている場合ではない。

我に返るとアリアはにこっと笑うと全員に聞こえるように大きめの声で言った。


「ただいま、朝餉をお持ちしました」


騎士の人達も恐らく長いこと鍛錬していたに違いない。

皆嬉しそうに寄ってきた。

相当お腹が空いているらしい。


 こうもニコニコと来られるとこっちとしても大盛りにしてやりたくなる。

とはいっても二人しかいないので配るのに時間がかかる。

「…俺たちも手伝いましょうか?」

「え…」

 アリアは驚いた。今までそうやって声をかけたものは居ないからだ。

大貴族ともなればこれぐらいやってもらって当たり前。

なので彼等はどんなに忙しそうにしていても手を貸すことはないし、むしろ手伝うなんて彼等の矜持に関わるのだ。


…ああ、そうか彼等は騎士なのか、貴族ではないのだ。


「えぇ、そうして頂けるとありがたいです。皆さんも早く食べたいでしょうし。

お手数をかけますが、よろしいですか?」

「さすが、騎士様…」メイが少し上ずった声で言う。


 それからが早かった。皆が手早くとりわけていく。二人でやるよりもずっと早く配り終わると、設置された簡易テーブルで彼等は食べ始めた。


 彼等が皆自分でしてしまうせいで、やることもなく、手持ちぶさたのアリアはぼうっと立っていた。メイはちゃっかり役得で騎士たちとの会話の輪に入っている。



「こんだけの量、たった二人で重かったろ?ありがとな」

 突然お礼を言われてアリアは今までこんなふうに言われたことがないだけに顔が赤くなった。

「そんな…。当然のことをしたまで、です」

 貴族とは違った感じの彼等を前に、地がでてしまった。

「あはは、この量が運べるんだったら、俺らの鍛錬も耐えられるんじゃないか?」

 冗談を言って騎士の一人が隊長と呼ばれる人に笑いかけた。

 

 隊長というのは騎士団を構成するいくつかの隊のリーダーだ。

最も腕の立つ人間でなければなれないのだ。そのため、他の隊員は紺を基調とした制服を着るが、隊長だけ白を基調とした服を着るので分かりやすい。


「ねぇ、ユーイ隊長?」


「えっ…?」

アリアの心が音を立てて揺れた。それでも運命を刻む時の針は止まらない。



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