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magnet  作者: 華梨
不穏な影、突然の再会
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第二十話:メイの正体

「何で隣国に行くのよ!?」

「マリシア様と一緒に留学しようと思って、ね」

メイがしれっと放った言葉にアリアはさらに混乱する。

侍女としてならまだ分かるが、王女と一緒に留学?相当位が高い貴族でないとそんなこと無理だろう。

…そういえば、メイってどこの家の娘?メイの名字を聞いたことがないのにアリアは今さら気付いた。

メイって…一体何者!?


「今まで黙っていたけど私の名は、メイ・レイアス…これだけ言えば、分かるよね?」


「レイアス家!?」…ソマリア国の四大貴族の一つ。アリアはそこから偽名を使ってパーティーに参加したわけだが…。もしかして。アリアの心に疑惑が生まれる。

「さらに言うと最近王妃様から依頼されて、一枚偽造の招待状を作ったんだけど…」

その疑惑は確信へ変わった。あの、招待状…。メイが作ったものだったとは。


つまり、メイは何らかの意図があって侍女に扮していたけれど、実は大貴族、レイアス家の令嬢だったということか。

「…聞いていないんだけど!」

「ごめん、忘れてた」「忘れないでよ!!!」

「っていうか、アリアがまさか王女付きの侍女になるなんて思っていなかったから。その後のアリア、………色々やばかったし。言うタイミングを見失ったっていうか…」


「なんで、初めから言ってくれなかったの?メイはレイアス家の娘だなんて」

「だって、邪魔だったんだもん。あんな大層な家名、あるだけ邪魔ね」

「……邪魔って…」

大貴族、レイアス家の家名を邪魔と一蹴するメイにアリアは言葉を失う。


「…アリア、怒ってる?」

メイがアリアの顔色を窺うように尋ねた。アリアは頭を抱えたまま答える。

「…怒ってるというよりも、混乱してるんだけど…。今までの態度…怒られたりしないかな?」



うーん、うーんと頭を抱えるアリアにメイは少し笑った。

アリアは、自分がレイアス家の令嬢と分かっても、メイに敬語を使って距離を置いたりしないから。それが、どうにも嬉しすぎて、顔に出てしまう。




そもそも、レイアス家直系の血筋であるメイにとって、欲しいもので手に入らないものは存在しなかった。否、存在しないに等しかったのだ。


「………つまんない」それはメイの小さい頃の口癖だった。

 鬼ごっこをしても、小さな子供たちは親に言われているのか決してメイを追いかけてくれない。おままごとをしても、メイの言う通りに従うだけ。それの何処が面白いというのか?


小さい頃にメイは自分と遊ぶということがどれだけ子供たちにとって苦痛なことか嫌と言うほど味合わされた。



 だから、欲しいものカテゴリーの中に『友達』という言葉を真っ先に消去した。

欲しくても、手に入らないのなら初めから欲しない方が幾らかマシだと思っていたからだ。


 それでも、心の奥では違ったのかもしれない。道楽として、侍女の振りをして、身分を偽ってみるという遊びを思い付いたのはやはりどこかで寂しかったのだろう。




そこで出会ったのがアリアだった。

初めは暇潰しのつもりだった。いい玩具を手に入れたような感覚だった。


 有り得ないほど純粋無垢で、真っ直ぐでそのくせに割と恐がりで泣き虫なアリアは人間観察を趣味としていたメイにとってまさに渡りに舟、興味深い存在だった。



 それがいつからだろう、おもしろ半分で始めた幼なじみ捜しが本気になったのは?

アリアにつく悪い虫を追っ払うために権力を使い出したのも。

アリアといると楽しくて、我を忘れそうになるのだ。




ああ、どうしよう。欲しく、なってしまうかもしれない。

 そう思ったときはもう手遅れだった。メイは『友達』を得る方法を知らない。金と権力で手に入らないものを得る手段を、メイは知らないのだ。



怖かった。

アリアがメイのことを知って、アリアが他の人達と同じようにメイと距離を取ろうとするのが。


 それで、二の足を踏んでいた時に、アリアは王女付きの侍女になった。

そして、あっという間にメイの手を離れてシス国へ行ってしまうと分かったときにメイはこのままではいけないと思った。


メイはアリアよりは情勢にくわしいし、貴族の世界も渡り歩いていくだけの経験もある。

 だから、メイはアリアを助けようと思った。

何よりも、アリアが血も涙もないあの世界で泣いてしまうことがないように。



 まあ、無茶を通すために、家名を使ったため、メイはもう侍女ではいられなくなってしまった。留学ということで、一緒にシス国へ行く事へとなったのが、少し不満だが。


これは、メイの勝手だ。


 怒られることも、嫌われることも覚悟してやった。それでも、アリアを少しでも助けられるのならどうでも良いことだった。

けれど…

「……やっぱり、どこまでいってもアリアはアリアね」




この可愛らしい親友は今も、うんうん唸っている。

 言っている内容はメイはお嬢様なのに、あんな事やこんな事をさせてしまった。早く自分に言ってくれたらどうにか出来たのに、と言っている。

…私の方が、アリアより仕事が早いのに、百年早いわ。



なにやら、昨日の寝言と話が違うだのよく分からないことを言っているが…。……寝言?



 昨日の夢は、確か、アリアが結婚しちゃう夢を見た。ああ、嫌だ。いつの間にか話が進行していて、気が付かぬ間に結婚まで……。ああ、勿体ない!ウォッチングしたかったのに!

どうして、そんなに早く嫁に行っちゃうのよ!馬鹿!とは思ったが

…いったい何のことだろう?



アリアは決して変わらない。例えメイが大貴族だったとしても、何一つとして変わらない。


だから、メイは変わらずにいられる。


だから、メイは変わらずにアリアの友達でいるためにこんなに必死になれるのだ。




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