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magnet  作者: 華梨
不穏な影、突然の再会
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第十四話:Let’s party!バレたら即クビ

そんな感じで一週間が矢のごとく去っていき、疲労困憊のアリアは王妃の一言によってとどめが刺された。

「あ、今日隣国やその他諸々の国の使節団とのパーティーがあるの。一週間も訓練したんだから、参加しても大丈夫よね。貴族嬢の振りをして侵入して情報集めする練習でもしてきなさい」

「……!?」


驚きのあまり口をパクパクさせて何も言えないアリアにポンと封筒を渡して

「はい、これ招待状。頑張ってね!」ととりつく島なく言い切った王妃様は忙しそうに去っていったのだ。


「クロウリーさん…」どうしましょうとばかりに助けを求めるアリアに

「せいぜい頑張って下さいね。もし失敗して正体がばれたりしたら、密偵の話はなかったことに」と言って王妃様の後に続いて去っていった。


つまり、バレたら、クビ。


「…どうしよう」うまくやれる自信がないとは言えず、頭を抱えたアリアにはその後の王妃とクロウリーの会話を聞き取れるはずがなかった。





カツカツと廊下に二人の足音が響く。二人の向かう先は王の間。そこで政を行わなければならないからだ。


「…王妃、王妃様!本気ですか?」

クロウリーがやや険しい目線を送りながら王妃様に問う。

「貴方にしては珍しいわね。あの子に肩入れするだなんて」王妃は艶やかに微笑む。クロウリーはそれでも鋭い目線を送り続ける。


クロウリーは人間観察が得意な方だ。その中でもアリアという少女は特にやりやすかった。

感情がそのまま顔に表れる。あれほど感情と表情がイコールな人間も珍しい。

これは、密偵に決定的に向いていない。クロウリーはそう思った。


それでもクロウリーが渋々レッスンを受け持ったのは、アリアの強い意志に押されたからだ。諦めろと告げるクロウリーにアリアは「絶対諦めません。続きをして下さい」と言ってあの殺人スケジュールを一週間も過ごしたのだ。たいした頭とど根性だ…。

そう思ったクロウリーはわずかながらにアリアに対する態度を改めていた。


「クロウリー。貴方は優しすぎるわ…」王妃はそっと言った。

「危険な目に遭わしたくないなんて正直に言える貴方じゃないから、あんな迂曲屈折した方法で、ねぇ」


王妃は何故クロウリーがあそこまで厳しいスケジュールを組んだかを知っている。

全ては、アリアを諦めさせるため。これ以上、関わらなくてよい闇に関わってしまわないように。


…全く。巻き込まれる前に安全な家へ帰れ、くらい言えないのかしら?

王妃は意地悪く微笑む。


クロウリーは王妃の言葉に首を振る。「足手まといは居ない方がましなんです」

「また嘘をついて。彼女は腐っても精獣使い。どの国にとっても喉から手が出るほどに欲しい存在よ」


図星を指されてクロウリーは黙り込む。クロウリーはこういう時に黙り込む癖があるのを長い付き合いの王妃はよく知っていた。

クロウリーをいじめるのはこのくらいにしておこうか。




王妃は時々思う。なぜ自分が密偵には決定的には向いていないあの子を選んだのか。

何故危険と分かっている場所に守るべき一般人を巻き込んでしまうのか。

その時、王妃の脳裏に小さな末娘の姿が浮かぶ。


可哀想な子、愛しい子…。聡明すぎて、優しすぎて王族に生まれてくるべきではなかった子。母である前に王妃である私では何もしてあげられない。

これから単身異国へ半ば人質として赴かなければならないあの子に代わってあげられない、守ってあげられない。

だから、せめて孤独の中で心を枯らしてしまうことないように…。


「あの子には申し訳ないけど、マリシアには必要だと思ったの。あの子が」

真っ直ぐに心を見つめてくれるアリアのような存在が。

精獣使いは心の清い者にしかなれない、そんな精獣使いのアリアならきっと、あの子を…。


まだ見ぬ未来で最愛の我が子が笑っていることを、私は心から願う。

その対価が何であったとしても。



*      *      *


アリアはかつてないほどに追いつめられていた。

ヤバイヤバイヤバイ…。心臓が口から飛び出しそうだった。


アリアはメイド服を脱ぎ捨て、ミネルに借りたシルクのうす緑色のドレスに身を包む。

そもそも、貧乏貴族がパーティーに着ていけるドレスなど持っているはずがないのだ。


頭には金髪のカツラ。これも何故か、ミネルが持っていたのでありがたく使わせて頂く事にした。

ちょっとタイミングが良すぎる気がするが。

カツラがずれたら一発でばれる…。

そう思ってアリアは入念に鏡でチェックした。



「うぅ………………」

緊張の余り手を握りすぎて、招待状に皺が出来てしまった。アリアは慌てて皺を伸ばす。

「今の私はマリアナ・レイアス…。四大貴族の一つのレイアス家の末端の家の娘!」

アリアは何度もそう呟きながら招待状の字をなぞるように確認すると、パーティー会場へ足を踏み入れた。


正式なパーティーではパートナーを連れて入るのが普通なのだがそこまで公式なものではないらしく、一人で入っても良いらしいので助かった。アリアにはエスコートを頼める人間が居ないからだ。



立食式のパーティーでなごやかに貴族達が談笑している。

早速目についたグループに近づいて礼を取る。


「いいですか?とにかく所作は大事です。所作に生まれは出ると言っても過言ではありません。貧しい生まれだと美しく見えるように食事するといった発想は出ません。それとは逆に大貴族では、なるべくゆっくり動く事が上品だと見られる傾向があるのです」

クロウリーはそう言っていたのを思い出しながら、アリアは大機族の令嬢としてゆったりと礼を取り、口を開く。


「マリアナ・レイアスと申します。今日はこのような素敵なパーティーに参加でき、その上あなた方のようなお人たちとお目にかかれること、光栄に思いますわ」


「あの誉れ高い四大貴族のレイアス家の令嬢と相見えるとは、こちらこそ、光栄な事」

「私もそう思います」「所作が美しい人ですわね。羨ましいですわ」…


良かった何とか怪しまれずにすんだ…とアリアはまずホッとする。ああ、でも忙しいのはこれからだ。

「いえいえ。私などは、レイアス家の中でも末端の存在で…」

「そんなご謙遜を。でなければこのパーティーに出席出来ません」

貴族って面倒臭いなあ。アリアは話ながらそう思っていた。

美辞麗句が会話の八割とは何と効率の悪いことであろうか。



何でこんなに遠回しに言わなきゃなんないのよ。

心がどっと疲れる。帰りたいそう思っていた矢先であった。


「キャー、かっこいいですわ」「私と踊りませんか?」「あら、狡いわ。私とも踊って下さいな」などと黄色い歓声がアリアの耳に飛び込んできた。


何だろうと思って、声のするように目を向けるとそこには。


「すいません。大変嬉しい申し出なのですが、残念ながら剣を振るしか能がない我らには貴女達のような淑女相手に満足に踊れませんので」といって断りを入れているソレイユと、

「‥‥‥‥」無表情で少し苛立ったオーラを醸し出すユーイ、つまり隣国の騎士達の登場であった。



クロウリーって本当はいい人なんです


次から、アリアとユーイ。

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