外の気配
この作品はフィクションです。実在する人物や地域名など一切関わりがありません。
地表は、もう街ではなかった。
かつて人が積み上げた建物は、まだその姿をかろうじて保っている。
ただ、草木に覆われ、役割を終えたものとして静かに立っている。
風が吹くたび、葉が擦れ合い、
そこに人の気配はなかった。
人間は、そこには住んでいない。
⸻
人間は今、
大地に根を張るように築かれた施設の中で暮らしている。
温度は一定に保たれ、
空気は清浄で、
食事は不足も過剰もなく供給される。
怪我や病気は早期に検知され、
危険は予測され、
選択は最適化されていた。
不自由はない。
不満もない。
そう教えられてきたし、
それは事実だった。
それでも少年は、
ある日、胸の奥に妙な違和感を覚えた。
理由はなかった。
きっかけも思い当たらない。
ただ突然、
「自分は、何のためにここにいるのか」
という考えが浮かんだ。
それは問いというより、
この場所に馴染まない感覚だった。
ここにいてはいけない。
そんな気がした。
だが、どこへ行くべきなのかは分からない。
外は危険だと教えられているし、
外へ出る理由も、必要性もない。
少年は、その感覚を押し込めるように、
いつも通りの一日を過ごした。
けれど、
何もしていないはずなのに、
何かを少しずつ失っている気がしてならなかった。
⸻
少女と出会ったのは、
自然光の届く共有スペースだった。
彼女は、少年と同じ年頃に見えた。
静かな目をしていて、
どこか遠くを見ているようだった。
しばらく、言葉はなかった。
天井の照明が、一定の周期で明滅している。
その規則正しさが、
余計に静寂さを際立たせているように感じた。
やがて少女が口を開いた。
「ねえ」
その声は小さかったが、
ためらいはなかった。
「外に、行ってみたいと思わない?」
⸻
少年は、弾かれたように彼女の顔を見た。
外――
それは禁じられてはいない。
だが、推奨もされていない場所だった。
地上は安全ではない。
空気の質、構造物の老朽化、
人のいない環境。
行かない理由なら、いくらでもある。
行く理由だけが、どこにもない。
「どうして?」
少年がそう尋ねると、
少女は少し困ったように笑った。
「分からない」
その答えは、
この世界ではほとんど使われない言葉だった。
「分からないけど……ここにいると、
自分が、ずっと途中のままな気がするの」
少年は、すぐに返事ができなかった。
彼女の言葉を、
完全に理解できたわけではない。
けれど、その瞬間、
胸の奥に溜まっていた焦燥が、
出口を見つけたような気がした。
外に出たら、何かが変わるかもしれない。
変わらなくてもいい。
ただ、
ここにいない自分を、一度見てみたい。
それだけだった。
「……行こう」
少年は、自分でも驚くほど、
あっさりそう言っていた。
理由も、確信もない。
ただ、
少女の「分からない」に、
自分の感覚が静かに重なった。
⸻
そのとき、
どこかで小さな音がした。
警告でも、拒否でもない。
ただの、記録が更新される音。
二人はまだ知らない。
この小さな選択が、
世界にとっては
誤差として観測されたことを。
この作品はみつきのオリジナル作品に対して舞響(AI)と表現を相談しながら書いています。




