ブラックコーヒー
「久しぶり!元気してた?」
「久しぶり、ずっと元気なふりしてた。」
彼と出会ったのは高校一年生。
いや、厳密には高校に入るための集団面接。
彼とは高校三年間同じクラスで苦楽を共にした。
「大学生活はどう?」
元気なふり。
その言葉に詰まって異sまって咄嗟に余計なことを聞いてしまったかもしれない。
「楽しいよ。」
これもまた、楽しいふりなのか。
何故彼は元気なふりをしていたのか。なぜ元気なふりと言ったのか。
「高校と比べると大学って楽だよなあ。」
「まあね。」
何故だろう、何か言いたげな彼の表情を見て今度は本当に言葉が詰まる。
「実はさ、」
くる。なんて言うんだ。心が脅されている。
「高校三年間のうちに何もかも変わっちまったんだ。」
「何もかもってどういうこと?」
「いやあ、あのさ、今だから言えるけど、、、」
「いや、言わなくていい、辛いなら話さなくていい。」
何故だろう。彼はきっとSOSを発しているのに、迫り来る責任から逃れようとしている自分がいる。
「そういやお前、大学の単位大丈夫か?」
最悪だ。俺は最悪の友達だ。
彼の表情がみるみる暗くなっていく。
「単位やばいんだよね。」
「なんで?サボってんのか?」
「そういうわけじゃないけど。」
変に笑った。
この言葉がよくなかった。寄り添おうと、もう一度俺に責任を持たせてくれと気持ちを込めて、勇気を出して。
「いやあ、あのさ、」
「お前に言ってもしょうがねえことだわ。」
信頼を失った。親友からの親友を失った。
大人びた俺たちにブラックコーヒー氷抜きがやってくる。
お互い何も言葉を発さずストローが空の底をついた頃。
「やっぱ大学楽しいわ。」
彼は今、演技をしている。何故なら俺を三年間騙した名役者だ。
「お前が楽しそうならよかったわ。」
それからというもの、誰かが言い切った大学あるあるや高校時代の武勇伝を語り合った。楽しかった。
暗い空が顔を出す。
「あのさ、」
「どした?」
「今日最初に言ったこと、覚えてるか?」
「何だっけ。」
「お前、楽しいふりしてたって言わなかったか。」
「ああ、うん。」
「それさ、どういう意味だったんだ?」
「ま、色々あったんだよ。」
大学の最寄り駅徒歩5分の喫茶店。あいつと別れて一人で歩く。
何故だろう。調子に乗って普段に行かない喫茶店に行ったからだろうか。
今日という日と口の中。苦味が残る。
今思えば彼はカフェオレを頼もうとしていた。
なのに僕はブラックコーヒーを頼んでしまったんだ。




