表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

寿命を九割削る病

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/02/09

 

「これしか方法はないのですか」


 私の問いかけに首相は頷いた。


「仕方あるまい。それとも何か。この病を放置しろとでもいうのか」


 そう言われてしまっては私も答えようがない。

 だけど……。


 胸にかかるペンダントをそっと握りながら私は言う。


「しかし、病に罪はありません」

「あぁ。そうだとも」


 首相は認めた。

 その通り。

 病に罪はない。


「だが、事実としてこの病にかかれば寿命の九割は失われる」

「生き残った者もいます」


 反射で喋ったことを後悔した。

 首相は私に返す言葉に迷う必要がなくなってしまったから。


「その通りだ。君は生き残った。しかし、立ち直るまでに何年かかった?」

「……覚えていません」


 嘘だ。

 実際は覚えている。

 だけど、とてもではないが言えない。

 だって――。


「なら、教えてやろう。3122年だ。僅か50年ほど『病』と共にあっただけで――そして、それだけでなく」


 首相はすたすたと歩いてきて私の握っていたペンダントをそっと握った。


「君は今も病を想っている。違うか?」

「……はい」


 言い返せなかった。

 もう3200年近くも前のことなのに。


 この病は寿命を喰らう。

 いや、もっと言ってしまえば生きる気力を奪うのだ。

 私の友人も数えきれないほどにこの病で命を落としている。

 そして、私自身も何度も自ら命を絶とうとしたことか――。


「あの病は厄介だ。我らと同じ姿をしているのに、我らと同じ言葉を話すのに、我らと同じように生きているのに――寿命だけは遥かに短い」


 首相は大きくため息をついた。


「これ以上。国民が死んでいくのを私は認めるわけにはいかない……今日より全ての国民に病と付き合うことを禁ずる」


 私は頷くしかなかった。




 ***




 この日。

 エルフと人間の国交は完全に途絶えた。

 人間は首を傾げるばかりだった。


 ――エルフ達が人間のことを『寿命を減らす病』と呼んでいたと知ることがなかったのは幸運であったのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ