表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された悪役令嬢ですが、辺境の食堂でモンスター料理を作っていたら幸せになりました  作者: 緋村ルナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/17

第7章:偽りの聖女と、本物の奇跡

 王都では、リリアナが新たな策謀を巡らせていた。オリビアが辺境で「聖女」と呼ばれているなら、自分こそが「本物の聖女」であると、王都の民に知らしめようと考えたのだ。

 彼女は、宮廷の錬金術師を丸め込み、特殊な魔道具を手に入れた。それは、一時的に物を淡く光らせ、聖なる雰囲気をまとわせることができる、見掛け倒しのアイテムだった。

 リリアナは、その魔道具を使って普通の小麦を「私が聖なる力で生み出した奇跡の小麦」と偽り、それを使って焼いたパンを、王都の貧民街で慈善活動として配り始めた。

 光り輝くパンは、最初は人々を驚かせ、リリアナは「慈悲深き聖女様」と持て囃された。アルフォンス王太子も、彼女の活動を絶賛し、全面的に支援した。

 しかし、そのメッキはすぐさま剥がれた。パンの味はごく普通、いや、むしろ不味い。そして、魔道具の効果が切れれば、ただのパンに戻ってしまう。人々の熱狂は急速に冷め、失望へと変わっていった。「聖女様の奇跡は、見世物だったのか」という声が、密かに囁かれ始めた。


 その頃、アズライトの街は、静かなパニックに陥っていた。

 原因不明の「眠り病」が流行り始めたのだ。罹った者は、まるで泥のように深い眠りに落ち、どんなことをしても目を覚まさない。病は次々と伝染し、街の機能は麻痺しつつあった。冒険者ギルドも、眠ってしまった仲間たちの看病で、依頼をこなせる者が激減していた。

「オリビアさん、これはただの病気ではありません」

 レオナルドが、深刻な顔で古い文献を広げた。

「この症状……夜にだけ活動する、**【ドリームイーター】**というモンスターの花粉が原因だと思われます」

 ドリームイーター。蝶に似た美しい姿を持つ飛行モンスターだが、その鱗粉には強い催眠効果があり、眠っている人間の生気を吸って生きるという、厄介な存在だった。

「レオ、そのモンスターはどこにいる?」

 店のカウンターで話を聞いていたカイが、険しい顔で立ち上がった。

「おそらく、街の西にある『微睡まどろみの森』でしょう。ですが、下手に近づけば、あなたも眠らされてしまう。非常に危険です」

 レオナルドの警告に、誰もが沈黙する。

 その時、私が口を開いた。

「レオナルド様。そのドリームイーターは、食材にはなりませんの?」

「……え?」

 レオナルドもカイも、呆気にとられた顔で私を見る。

「文献によれば、鱗粉には毒がありますが……何か、食べられる部分はないのでしょうか」

 私の突拍子もない質問に、レオナルドは慌てて文献をめくり直した。

「ええと……ありました! 鱗粉は危険ですが、その花の蜜を吸うための口吻こうふんの根元にある蜜腺……そこに溜まった蜜は、強力な覚醒作用と滋養強壮効果を持つ、と記されています!」


 それを聞いた瞬間、私の頭の中にレシピが閃いた。

「カイ様、危険なのは承知の上でお願いします。そのドリームイーターを、何匹か捕まえてきてはいただけませんか?」

「……分かった。あんたがそこまで言うなら、やってやる」

 カイは覚悟を決め、眠り病に罹っていない屈強な冒険者数名と共に、ドリームイーターの討伐に向かった。レオナルドが調合した、簡易的な覚醒薬を懐に入れて。


 数時間後、カイたちは傷だらけになりながらも、数匹のドリームイーターを袋に入れて持ち帰ってきた。

 私は早速、その蜜腺から、黄金色に輝く粘度の高い蜜を採取する。甘く、しかしどこか薬草のような独特の香りがした。

 この蜜を、卵と牛乳、砂糖を混ぜて作ったカスタードクリームに練り込む。そして、バターをたっぷり使って作ったサクサクのパイ生地で、その特製クリームを包み込み、竈で丁寧に焼き上げた。

 こうして完成したのが、「ドリームイーターの覚醒パイ」だ。

 私は焼き上がったパイを、眠り病に罹ってしまった人々の元へ届けた。眠ったままの彼らの口元へ、小さく切ったパイを運んでやる。

 すると、奇跡が起こった。

 パイを一口食べた途端、あれほど深く眠っていた人々が、次々と目を覚まし始めたのだ。

「……あれ? 俺は、今まで何を……」

「頭が……すごく、スッキリする!」

 人々は、まるで長い夢から覚めたかのように起き上がり、そして、自分たちを救ったのがオリビアの作ったお菓子だと知ると、皆が皆、彼女に感謝の言葉を述べた。

 この出来事は、瞬く間に街中に広まった。

「陽だまり亭の女主人が、奇跡のパイで眠り病を治したぞ!」

「彼女は、我々の街を救ってくれたんだ!」

 王都の偽りの聖女が人々を失望させる一方で、辺境の元悪役令嬢は、その料理で本物の奇跡を起こした。

 人々は、畏敬と親しみを込めて、私のことをこう呼び始めた。

「アズライトの聖女様」と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ