エピローグ:陽だまりの食卓
あれから、数年の月日が流れた。
辺境の街アズライトは、かつての寂れた面影など微塵もない、活気あふれる一大観光都市へと変貌を遂げていた。
その理由はただ一つ。「美食の都」として、王国中にその名を轟かせているからだ。
そして、その中心にはもちろん、いつもたくさんの客で賑わう食堂「陽だまり亭」があった。
「はい、おまちどうさま! ロックバードの親子丼、大盛りね!」
厨房では、女主人となった私が、相変わらず無自覚に創世魔法の力を込めたフライパンを振るっている。私の規格外の力は、もはや街では公然の秘密、というより名物のようなものだった。
ホールでは、いつの間にか店の共同経営者のようになっていたカイが、ぶっきらぼうながらも丁寧にお客の応対を手伝っている。彼が時折私に向ける視線が、とても熱っぽくて優しいことを、私はもう知っている。
カウンター席では、レオナルドが新しく発見されたモンスターの生態が書かれた文献を片手に、私の新作料理を吟味している。彼は王宮からの再三の復帰要請を断り、この街に研究所を建て、私の料理のアドバイザー兼、一番の味見役としての日々を楽しんでいた。
「陽だまり亭」の周りには、私を慕って全国から集まってきた若い料理人たちが開いた、新しいモンスター料理の店が立ち並び、街全体が美味しい香りに包まれている。
元婚約者のアルフォンスは、王位継承権を弟に譲り、一人の王族として国の復興に尽力していると聞く。元聖女のリリアナは、修道院での奉仕活動の中で、ようやく自分の過ちと向き合えるようになったらしい。
でも、それはもう、私とは関係のない、遠い世界の物語。
「オリビア、休憩にしないか。新作のデザート、味見させてくれ」
「もう、カイったら食いしん坊なんだから。レオも、どうせ食べたいんでしょ?」
「当然ですよ。あなたの料理は、私の知的好奇心を最も刺激するのですから」
愛する人々と、美味しい料理。
面倒な王宮生活では、決して手に入れることのできなかった、温かくて、かけがえのない日常。
かつて「悪役令嬢」と呼ばれた私は、フライパン片手に、世界で一番の幸せを掴んでいた。カウンターから差し込む午後の陽だまりの中で、私は心からの笑顔を浮かべていたのだった。




