番外編③:王太子と元聖女の長い反省会
全てを失ってから、数年が経った。
私、アルフォンスは、王位継承権を辞退し、今は一人の王族として、地道な政務に明け暮れる日々を送っている。派手な夜会も、追従の言葉を囁く者たちも、もう周りにはいない。
その日、私は視察で訪れた地方の修道院で、思いがけない人物と再会した。
「……リリアナ」
「……アルフォンス、様」
そこにいたのは、修道女の質素な服に身を包み、黙々と畑を耕すリリアナの姿だった。かつての華やかさも、計算高い輝きも、その瞳からは消え失せていた。
私たちは、気まずい沈黙の中、しばらく言葉を交わした。話すことといえば、自然と「彼女」のことになった。
アズライトを美食の都として発展させ、今も多くの人々から「聖女」と慕われているオリビアの噂。
「……彼女の活躍を聞くたびに、思うんだ」
私が、ぽつりと呟く。
「なぜ、我々は、彼女の本当の価値を見抜けなかったのだろうか、と」
私は、彼女の無表情を「冷酷」と断じ、その真摯さを「嫉妬」と決めつけた。リリアナは、彼女の才能を妬み、陥れることしか考えなかった。
「わたくしは……ただ、あなた様に認められたかっただけでしたの。でも、その方法を間違えてしまった。オリビア様のようにはなれないと分かっていたから、嘘で自分を塗り固めるしかなかったのです」
リリアナは、静かに涙を流した。
私たちは、二人とも、オリビアという人間の本質を見ていなかった。ただ、自分たちの都合の良い「悪役令嬢」という役割を、彼女に押し付けていただけなのだ。
「今更、後悔しても遅いのだがな」
私が自嘲気味に笑うと、リリアナは小さく首を振った。
「いいえ。遅くはありませんわ。わたくしたちは、これから一生、自分たちの愚かさを噛みしめ、罪を償っていくのです。それがあの方への……オリビア様への、唯一の誠意ですから」
その言葉は、驚くほどまっすぐに、私の胸に響いた。
陽だまりの中で幸せに笑う彼女の姿を遠くから伝え聞くたびに、私たちの胸はチクリと痛む。それは、我々が犯した過ちに対する、永遠に消えない罰であり、そして、ほんの少しの救いなのかもしれない。




