番外編②:賢者は少女の神髄を見抜く
私、レオナルドは、退屈していた。
宮廷での権力争いに嫌気がさし、自ら辺境の街アズライトに隠遁して数年。知の探求という唯一の趣味も、この田舎町では限界があった。
そんな退屈な日々に、一つの面白い噂が舞い込んできた。王都を追放された公爵令嬢が、この街で食堂を始めたという。
オリビア・フォン・クライネルト。噂に聞く「氷の令嬢」。興味本位で、私はその「陽だまり亭」の扉を叩いた。
彼女の料理は、確かに絶品だった。だが、私がそれ以上に驚愕したのは、彼女が何気なく使っている「魔法」だった。
生活魔法「洗浄」で、厨房の壁を剥がし、生活魔法「発火」で、竈を壊しかけるほどの火力を生み出す。
(これは……おかしい)
極めつけは、あの**【アーマークラブ】**の一件だ。
鋼鉄の甲殻を、彼女はこともなげに、素手で、まるで菓子の箱でも開けるかのように、あっさりと解体してのけたのだ。
その光景を目撃した瞬間、私の背筋を戦慄が走った。
あれは、単なる腕力ではない。生活魔法などという、矮小なカテゴリに収まる現象でもない。
失われた神々の業――世界の理そのものに干渉する、『創世の魔法』の片鱗だ。
私は、世界の真理の一端を、この辺境の食堂で垣間見た気がした。
この無表情な元公爵令嬢は、自分がどれほどとんでもない力を秘めているのか、全く気づいていない。無自覚に神の力の一部を振るい、それを「気合」の一言で片付けている。
なんという、恐ろしく、そして……最高に面白い研究対象だろうか。
彼女への探究心は、私の退屈な日々を鮮やかに彩ってくれた。
やがて、その探究心が、別の温かい感情――庇護欲と、そして愛情に近いものに変わっていくことを、この時の私はまだ、知らなかった。




