第12章:悪役令嬢の選択
キマイラ騒動が鎮圧された後、王宮では盛大な断罪劇が繰り広げられていた。
全ての元凶であるリリアナは、禁断の魔道具を使った罪、王都を危機に陥れた罪、そしてオリビアを陥れた数々の陰謀の罪により、その全ての地位を剥奪され、断罪された。
そして、その片棒を担ぎ、彼女の言葉を鵜呑みにしてきたアルフォンス王太子もまた、王族としての権威を著しく失墜させたとして、厳しい処分が下されることになった。
全ての騒動が収束した日、アルフォンスはオリビアの前にひざまずいた。その顔は、後悔と懺悔でぐしゃぐしゃに歪んでいた。
「オリビア……すまなかった……。私は、君という人間の本当の価値を、何一つ見ようとしていなかった。私は愚かだったんだ」
彼は涙ながらに過去の過ちを謝罪し、そして、震える声でこう続けた。
「君こそが、この国に必要な人間だ。君こそが、私の隣に立つべき妃だ。どうか……どうか、もう一度私の隣に戻ってきてはくれないだろうか。これからは一生かけて、君を幸せにすると誓う」
復縁の申し込み。かつてであれば、それは公爵令嬢として最高の栄誉だったのかもしれない。周囲の貴族たちも、固唾を飲んで私の返事を待っている。
しかし、私の心は、もうどこまでも穏やかだった。
私は静かに首を横に振った。
「アルフォンス殿下。お言葉ですが、お断りいたします」
きっぱりとした私の返事に、アルフォンスは絶望の表情を浮かべる。
「なぜだ……。私では、もうダメだというのか……」
「いいえ、そういうことではございません」
私は、真っ直ぐに彼の目を見て言った。
「殿下。私の居場所は、豪華絢爛な王宮の玉座の隣ではございません。私の幸せは、厨房の熱いコンロの前……皆の『美味しい』という笑顔が溢れる、『陽だまり亭』にこそあるのです」
そこは、私を「悪役令嬢」ではなく、ただの「料理人オリビア」として受け入れてくれる場所。私を信じ、支え、守ってくれる、かけがえのない仲間たちがいる場所。
もう、誰かのための妃になるつもりはない。私は、私のための人生を、私の愛する場所で生きていく。
「ですから、殿下。もう私のことはお忘れください。そして、ご自身の罪と向き合い、この国のために、これから為すべきことを為してください」
私は、最後の言葉を告げると、彼に背を向けた。その背中を、アルフォンスは呆然と見送ることしかできなかった。
出口では、カイとレオナルドが、いつものように私を待っていてくれた。
カイは何も言わず、ただ優しく私の手を取った。その大きな手は、温かくて、とても安心できた。
レオナルドは、やれやれというように肩をすくめながらも、その口元には優しい笑みが浮かんでいた。
「最高のざまぁ、でしたね。さて、姫君。我々の城へ、帰りましょうか」
「ええ。お腹が空きましたわ。帰り道で、何か珍しい食材でも探しながら、ゆっくりと帰りましょう」
私たちは、互いに顔を見合わせて笑い合った。
私の還る場所は、もうここではない。愛する仲間たちと、美味しい料理が待つ、あの陽だまりの食堂なのだ。




