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婚約破棄された悪役令嬢ですが、辺境の食堂でモンスター料理を作っていたら幸せになりました  作者: 緋村ルナ


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第11章:王都動乱と、伝説のスープ

 レオナルドたちが掴んだ証拠によって、リリアナの悪事は白日の下に晒されようとしていた。良識派の貴族たちが、アルフォンス王太子に彼女の罪を弾劾する準備を進めていたのだ。

 追い詰められたリリアナは、もはや正気を失っていた。

「私が……悪いはずがない! 悪いのは全部、私を認めないこの世界の方よ!」

 彼女は最後の手段として、王家の禁書庫から盗み出していた禁断の魔道具を起動させてしまう。それは、古代の邪神を召喚するための、恐るべき触媒だった。リリアनाが願ったのは、自分に敵対する者すべてを滅ぼす、絶対的な力。

 王都の真下で、地響きと共に邪悪な魔力が渦を巻く。そして、王城の中庭を突き破り、伝説の合成獣**【キマイラ】**がその姿を現した!

 獅子の頭、山羊の胴体、そして毒蛇の尾を持つ、禍々しい巨体。獅子の口からは灼熱の炎が、山羊の口からは万物を凍らせる吹雪が、蛇の口からは致死の毒霧が吐き出される。

 王都は、未曾有のパニックに陥った。精鋭であるはずの王国の騎士団も、百戦錬磨の宮廷魔術師たちも、異なる属性の攻撃を同時に繰り出すキマイラを前に、なすすべなく倒れていく。


 その絶望的な報せは、早馬によってアズライトの「陽だまり亭」にも届けられた。

「オリビアさん! 王都が、伝説級のモンスターに!」

 店に駆け込んできた冒険者の報告に、誰もが息を呑む。

 カイは剣を握りしめ、レオナルドは厳しい顔で状況を分析する。街の人々は、王国の危機に不安の表情を浮かべていた。

 そんな中、私は一人、全く別のことを考えていた。


「伝説級モンスター……キマイラ……。一体、どんな味がするのかしら……」


 ぽつりと漏らした私の呟きに、その場にいた全員が、あんぐりと口を開けて固まった。

「お、オリビア……今、なんつった?」

「ですから、食材としての可能性ですわ。獅子と山羊と蛇が一つの体に? それぞれの部位で、全く違う味が楽しめるかもしれません。調理法を考えるだけで、胸が躍りますわ」

 私の目は、恐怖ではなく、未知なる食材への好奇心と探究心でキラキラと輝いていた。

 カイは呆れたように天を仰ぎ、レオナルドは「ははは…」と乾いた笑いを漏らした。

「……参りました。あなたこそ、最強の存在かもしれない。いいでしょう、オリビアさん。あなたのその好奇心に、我々の未来を賭けてみましょう!」

 こうして、私とカイ、レオナルド、そしてアズライトの精鋭冒険者たちは、王都を救う(そして伝説のモンスターを味わう)ため、急ぎ王都へと向かったのだった。


 王都に到着すると、そこは地獄絵図だった。建物のあちこちが燃え、凍りつき、人々は恐怖に怯えている。騎士たちは傷つき、倒れていた。

 キマイラの強大な魔力を前に、誰もが絶望していた。

 しかし、私は違った。現場に到着するなり、巨大なキマイラを、まるで品定めするかのようにじっくりと観察し始めた。

「なるほど。獅子の頭は炎、山羊の頭は氷、蛇の尾は毒……。三つの属性がバラバラに機能しているのなら、それぞれの特性に合わせた調理法を組み立てれば、互いの味を打ち消すことなく、一つの料理として調和させられるはず……」

「オリビアさん、今は調理法を考えている場合じゃ!」

「いいえ、レオナルド様! 今だからこそ、最高の調理法を考えるのですわ!」

 私の真剣な眼差しに、レオナルドも覚悟を決めたようだ。

「……分かりました。獅子の肉は火属性ゆえ、強火で一気に旨味を閉じ込めるのが良いでしょう。山羊の肉は氷属性、低温でじっくり煮込むことで、最高の出汁が取れるはず。蛇の肉の毒は……強力な薬効を持つハーブで中和し、薬膳としての効果を引き出すのが最善策です!」


 作戦は決まった。

「カイ! 皆! あの化け物の動きを止めて! ただし、素材に傷をつけすぎないように、丁寧に!」

「無茶を言うな! ……だが、やってやるさ!」

 カイ率いるアズライトの冒険者たちが、一斉にキマイラに襲いかかる。彼らの目的は討伐ではない。最高の食材を、最高の状態で確保するための、鮮やかな捕獲作戦だ。

 彼らが命がけでキマイラの動きを封じている間に、私はセバスに用意させていた特大の寸胴鍋を王城の中庭に設置し、創世魔法の力を解放した「発火ファイア」で、規格外の火力を起こす。

 見事、三つの部位を切り分けられたキマイラの肉塊が、次々と寸胴鍋に投入されていく。獅子の肉、山羊の骨、蛇の身。それぞれに最適な下処理を施し、レオナルドが指示するハーブと共に、一つの鍋の中で煮込んでいく。

 神業的な火加減のコントロールと、絶妙なタイミングでの食材投入。それはもはや料理ではなく、荘厳な儀式のようだった。

 やがて、鍋からは、今まで誰も嗅いだことのない、複雑で、それでいて完璧に調和した、至高の香りが立ち上り始めた。


「できましたわ……。『三位一体トリニティ・キマイラスープ』です!」


 出来上がったスープを、傷ついた騎士たちに配る。

 一口飲んだ彼らの身に、再び奇跡が起こった。傷は瞬く間に癒え、失われた活力がみなぎってくる。

「な、なんだこのスープは! 力が……湧いてくるぞ!」

「身体が軽い! これなら、まだ戦える!」

 王都の危機は、一人の悪役令嬢が作った「美味しいスープ」によって、文字通り救われた。人々は、伝説の怪物を前に、ただただ絶品のスープを味わい、その奇跡に涙したのだった。

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