第10章:暴かれる陰謀と、失われた魔法
陽だまり亭の襲撃事件は、カイとレオナルド、そして街の皆のおかげで事なきを得た。しかし、レオナルドはそれで終わりにはしなかった。
捕らえられたゴロツキたちを問い詰め、その背後にいる黒幕を突き止めるべく、独自の調査を開始したのだ。元宮廷魔術師としての彼には、王都の裏社会にも独自のパイプがあった。
調査は、驚くほど簡単だった。ゴロツキたちは、少し脅かすと、あっさりと依頼主の名を白状した。
「王太子妃様……リリアナ様だ」
「やはり、彼女でしたか」
レオナルドは、私の前で調査結果を報告しながら、ため息をついた。
「リリアナ妃の最近の評判の悪さは、王都でも有名でしたからね。あなたの名声に嫉妬し、暴挙に出たのでしょう。彼女が貧民街で配っていた『奇跡のパン』が、ただの魔道具を使った見世物だったという証拠も掴めました」
レオナルドは、王都に残してきた信頼できる協力者たち――腐敗した王宮の中でも、良識を失っていない貴族たちと連携し、リリアナの悪事を公にする準備を着々と進めていた。アルフォンス王太子とリリアナ妃が断罪される日は、そう遠くないだろう。
一方で、レオナルドはもう一つの研究にも没頭していた。それは、私の使う魔法の正体だ。
アーマークラブを素手で割り、飛んでくるナイフをフライ返しで弾く。常識では考えられない私の力の源泉。レオナルドは、私の家系であるクライネルト公爵家に何か秘密があるのではないかと推測し、王家の古文書館に保管されている古い文献を、彼の協力者を通じて取り寄せていた。
その日、レオナルドは血相を変えて私の元へやってきた。その手には、羊皮紙の分厚い巻物が握られている。
「オリビアさん! ついに、分かりました! あなたの力の秘密が!」
彼は興奮を隠せない様子で、巻物をテーブルの上に広げた。そこには、古代の文字で何かがびっしりと書き込まれている。
「これは、建国王時代に書かれた、王家の記録です。そして、ここにあなたのクライネルト公爵家に関する衝撃的な記述がありました」
レオナルドが指さした箇所を、彼が現代語に訳しながら読み上げていく。
「――我が盟友、初代クライネルト公爵は、『創世の魔法』の使い手なり。その力、万物の理を捻じ曲げ、無から有を生み出す神々の業。されど、その力はあまりに強大にして、人の世に混乱を招くものなり。故に、公は自らその力を封じ、末代に至るまで、それをただの『生活魔法』と偽りて継承させることを誓えり――」
「創世……の、魔法……」
「そう! あなたの家系に伝わる『生活魔法』は、この世界を創った神々が使ったとされる伝説の魔法、そのものだったのです! 初代クライネルト公爵が、その強大すぎる力を悪用されないように、そして子孫が力に振り回されないように、あえて威力を制限し、『生活魔法』という偽りの名前でカモフラージュしたのです」
だから、私の魔法は時々、加減を間違えるととんでもない威力を発揮したのだ。それは、力の暴走ではなく、本来の力が、封印を破って僅かに漏れ出ていただけのこと。
私が「気合」と呼んでいたものは、無意識のうちに創世魔法の封印を解き、その一端を引き出すためのトリガーだったのだ。
フライパンで大猪を殴り倒したのも、硬い甲殻を素手で割ったのも、全てはそれで説明がつく。
「あなたは、ご自身でも気づかぬうちに、神の力を振るっていたのですよ」
レオナルドは、畏敬の念のこもった瞳で私を見つめた。
私自身は、まだ半信半疑だった。自分がそんな、伝説の魔法の使い手だなんて、にわかには信じられない。
けれど、レオナルドがもたらした二つの真実――リリアナの陰謀と、私の力の正体――は、私の、そしてこの国の運命を、大きく動かしていくことになる。
静かだった辺境の日常は終わりを告げ、物語は、否応なくクライマックスへと向かって走り始めていた。




