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「有翔、本題」
「あっ、そうだった!ごめんね!ぼくたちが今出てきたのにはワケがあってね!」
古にせっつかれ何かを思い出した有翔はふふんと笑うと、一枚の紙を宵子の前に差し出してきた。契約書……だろうか。色々と難しそうな内容が書かれている。
「よいこちゃん、助けて欲しいって依頼書出してきたよね?だからぼくらはそれを叶えようと思います!」
「えっ、えっ?」
突然のことに宵子は頭がついて行けない。
(あたしを助けてくれるの?……どうやって?)
「あっ!どうやって助けてくれるのって顔してるよね!ほんとはその作戦を練る為にかまおくんに上手いことよいこちゃんのほんとの依頼を聞き出すように頼んでたんだけどー……」
「コイツのコミュ力が最悪過ぎて無駄に傷つけることになってしまった。部長の判断ミスだ。悪いことをしたな」
「……だから俺は嫌だって言ったんだが」
「でもまあ、よいこちゃんの悩みは何となく分かっちゃったし!……家庭環境のことだよね?」
先程、思いっきり鎌実に吐き出してしまったことを宵子は思い出す。どうやら古と有翔にもしっかり聞かれていたということらしい。
「そんで、一番手っ取り早い方法がよいこちゃん改造計画なんだよね!」
「か、改造計画!?」
何なのだろうか、その物騒な計画は。まさか自分の記憶を消して人格ごと変えてしまうみたいなやつ……!?……宵子の頭に嫌な想像がよぎる。
「アホか。そんな計画が実現してたまるかよ」
「そ、そうですよね……」
しかし、宵子の考えは即座に鎌実に否定される。
(……というか今の、あたし口に出してなかったよね?)
心が読まれたらしい。少し怖い。
「まあ簡単に言うとよいこちゃんをお洒落させて可愛くなってもらおうって計画!今よいこちゃんが悩んでること、これで割と解決しちゃうと思うんだよね!」
「その鬱陶しい人格そのものは自分で変わってもらうしかない訳だが」
「おい新人。余計なこと言うな」
「まあまあ!可愛くなれば心も豊かになるっていうし!……どう?」
宵子はお洒落が出来るものならしてみたいと思っていた。だがそれを買うお金が無い。だから現在何も出来ずに困っている訳で。
「あの、お金とか」
「お前、鳥頭か?契約書を読め」
「こらー!女の子にそんなこと言っちゃダメ!えっとね、お洒落にかかった金額全てこっちで負担する代わりに、よろず部の仕事をちょっと手伝って欲しいの!ハルくん……会長は入部して欲しいみたいだけど、今の部活を辞めて貰うのも悪いからね」
……これは、宵子にとってはかなりの好条件だ。よろず部に深く関わることで部員の情報を仕入れることも出来るし、その情報を千暁に言えば自分の家での立場もこれ以上は悪くならないかもしれない。
「契約書読んで大丈夫そうだったらサインしてね!」
宵子は契約書の隅から隅まで目を通す。
(……大丈夫。おかしなことは書かれていない……筈)
恐る恐る契約書にサインすると、有翔はにっこりと笑った。
「これからよろしくね、よいこちゃん!」
「は、はい。よろしくお願いします……!」
正直不安しかないが、サインしてしまった以上は仕方ない。
こうして、《よいこちゃん改造計画》がスタートしたのである……。
第二話に続く……