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「……それと、もう一つ」
「ま、まだ何かあるんですか……!?」
宵子は早くこの場から解放して欲しかった。もう羞恥心で死にたくて堪らないのだ。しかし、彼は容赦なく続ける。
「これを出したのもお前だろ」
そう言って彼が目の前に差し出してきたのは《あたしをたすけて》と書かれたノートの切れ端だった。
「な、何であたしって」
「アホかお前は。別人気取りたいなら筆跡くらい変えろ」
……ごもっともな指摘だった。更に正論で責められて、可能であるならば宵子は今すぐこの場で喉をかききって死んでしまいたいくらい恥ずかしいと思っていた。
「……助けて欲しいって、何を」
しかし、彼女は彼の言葉に目を見開く。まさか理由を聞かれるとは思っていなかったからだ。
「え……?」
「うちの会長の方針だ。良いから内容を具体的に言え」
(まさか、助けてくれるの?)
(……あたしを?)
「あ……あの……!」
宵子の目の前に、一筋の光が差したような気がした。
(ひょっとしたら、彼があたしの待ち続けていた王子様……なの?)
しかし、家庭環境のことなんて簡単に話しても良いのだろうか。それこそ自分の一番見られたくない部分を曝け出すみたいで、彼女は怖かった。
「……い、いじめを、受けていて……」
迷った末に、宵子は学校での悩みを打ち明けることにした。
これは嘘じゃない。まあ、本当に助けて欲しいのは家族から……なのだが。それは流石に言うことが出来なかった。
「虐め?」
「えっと、学校であからさまに避けられたり、居ないもののように扱われるんです……。だから助けて欲しい。普通の人間として扱われるようになりたい」
これも嘘じゃない。彼女の本当の気持ちだ。
しかし、宵子の言葉を聞いた彼は、あからさまに不機嫌オーラを纏わせてきた。そして物凄く長い溜息をつく。
「虐められたくないとか思ってる癖に自分に自信が無いこと理由に周りから攻撃されてもしょうがない見た目しておいて助けてくれって?」
「あっ……そ、れは……」
「自分が変われないから周りに変われって言ってんの、お前。何様?」
(……もう、なんなの)
(何でこの人は図星ついてあたしのこと虐めてくるの……)
「わ、かってる……」
彼の言っていることは正論だ。だが、宵子の口は彼女の意思に関係なく勝手に言葉を紡ぎ出していた。
「あたしだって、あたしだって変わりたかった!でもしょうがないじゃない!あたしはまだ子供で、親の扶養からは逃げられない!虐められないような外見にしようとしたって、親が許してくれない!髪だって切らせてくれない!お風呂にも入らせて貰えない!お小遣いだって貰えないのに、こんな見た目のせいでバイトしようと思っても何処にも雇って貰えない!じゃあ教えてよ!こんな状況であたしはどうすれば良かったの!?教えてよ!!」
……彼女にとっては、最悪だった。結局家庭環境のことも自分でばらしてしまった上に人前で……しかも異性の前で思いっきり泣いてしまったのだ。
最後の方など泣きじゃくりながらであり、言葉にもなっていなかっただろう。恐らく相手も何言ってるんだと思ったに違いない。
(なんなの。なんなのよ。王子様だと思ったのに。やっぱり全然違う───────)
「こぉら!かまおくん!だめでしょ!」