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「お前が九条宵子か」
「……はい、そうですけど」
よろず箱に依頼を投函した次の日、学校へ登校すると宵子のロッカーに手紙が入っていた。
そしてその手紙には放課後に駅前の喫茶店に来るようにと指示が書いてあった。ご丁寧に何処の席に座るかも指定されている。
そして、指示通りの席で座って待っていると……目の前に男子が現れたのだ。
顔は宵子が見たことのない人だった。先輩だろうか。まあ、同級生だったとしても別クラスだったら彼女には分からないだろうが。
「依頼内容は、ストーカーに付け回されているから恋人の振りをして欲しいんだったか」
「……まあ、そうです」
嘘をつくのは心苦しいが、そういうことにしてしまった以上今更引くことは出来ない。宵子はその嘘を突き通すことにした。
「ふうん……」
彼は大して興味も無さそうに返事をする。
(……まさか、この人があたしの彼氏の振りをするってこと……?)
宵子ははっきりと嫌だな、と思った。性格がきつそうで目つき悪く、ずっと眉間に皺を寄せている男子だ。完全に彼女の苦手とするタイプだった。
「嘘だろ」
「……え?」
思わぬ言葉が飛んできて、宵子は思わず聞き返してしまう。
(嘘がバレたってこと……?)
動揺する宵子に対して、彼は言った。
「まず俺に話しかけられた時のお前の反応。あれはどう見てもストーカーから逃げたいようには思えなかった。本当にずっと付き纏われているんならいきなり知らない男が自分に接触して来たらもっと怯えてもいい筈だろ」
詰められるように理由を述べられ、宵子は何も言えなくなる。言い返せる訳が無い。彼女は嘘をついているのだから。
「それとその身なり。悪いけどストーカーされているようには思えない」
「…………!」
それは彼女が母にも指摘されたことだった。こんなブスがストーカーなんかされる訳ないって。
それはあまりにも図星で、宵子はもうすでにこの場から逃げ出したいと思っていた。