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『ストーカーに付け回されて困っています。なので、彼氏のフリをしてくれませんか?よろしくお願いします。
2年A組 九条宵子』
「……はあ。ほんとに良いのかな、こんなこと」
次の日の放課後。簡潔に依頼を書いた紙を箱に放り込んで、宵子は深く溜息をつく。結局彼女は言いなりになるしかなかった。
しかし、こういう対面が必要となる依頼は受けてくれないんじゃないだろうか……と不安になる。彼らは正体バレを何よりも避けたいようだから。
そうだったとしたらまた無能呼ばわりされるんだろうなと思うと、宵子は憂鬱だった。
「何でも叶えてくれる人達なんだったら、あたしのこと助けてよ……」
今のクソみたいな家から逃げ出したい。ここじゃなければ何処だって良いから。
だけど彼女は自分ひとりで逃げられる勇気なんてない。
「何でも叶えられるんでしょ……。あたしのこと助けてよ……幸せにしてよ……」
もしかしたら……という思いがあったのかもしれない。
宵子はノートの切れ端に《あたしをたすけて》と書いた紙を箱に放り込んだ。
「……まあ、無理に決まってるけど」
よろず部の部員だって自分と同じ学生に違いないのだから、学生が出来ることなんてたかが知れている。彼女は、期待などしていない。
だから、わざと名前は書かなかったのだ。書いたところで叶えて貰えないオチなのは分かっていたから。期待なんかしない。しても無駄。
自分のことは誰も助けられない。自分を迎えに来てくれる王子様なんて、存在しない。
「馬鹿馬鹿しい。……さっさと帰ろ」
宵子は鼻で笑って吐き捨てるように言った。せめて、《嘘の依頼》の方だけは叶えて欲しい。家族に無能扱いされるのはごめんだった。
さっさと帰らなきゃ。少しでも遅くなるとまた嫌味を言われる。宵子は急いでその場を後にした。
だから、彼女は気づかなかったのだ。
「ふうん……九条、宵子ちゃん……かあ」
よろず箱に紙を放り込んだところを、ずっと見ていた人がいるなんて。