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(やっぱり常磐先輩……あたしを庇ってくれたのかな)
宵子はチラリと鎌実の方へと視線を向ける。
「……はっ、何だよ百面相女」
すると鼻で笑われたので、やはり彼は宵子のことをからかいたかっただけかもしれない。しかし、それでも彼女が助かったのは紛れもない事実だ。
「……あの、ありがとうございます」
「はあ?」
なので、宵子は感謝の言葉を口にする。言われた本人は何のことだか分からないと眉をひそめていたが。
「じゃ、俺と零士はこっち方面だから。ちゃんと九条を家まで送ってやれよ、鎌実」
暫く四人で歩いていたが、零士と大河はここから逆方面に帰るらしい。まあ、この二人は付き合っているようなので、これからは二人でデートの予定なのかもしれないが、それを想像するのは野暮だろう。
「何ならそのまま二人でデートしちゃってもいいと思うぜ!」
「ええっ!?」
からかってくる零士に宵子は思わず顔を赤らめてしまう。こういう初心な反応のせいで余計にからからわれてしまうのだろうが。
一方鎌実はというと、不愉快そうに顔を顰めていた。
(あっ……眉間に皺が寄ってる……)
「しない。……ほら、とっとと帰るぞ」
「……っ、は、はい」
鎌実の眉間に視線を送っていると、突如声を掛けられ、慌てて返事をする宵子。
(帰りたく、ないな……)
本当はこの楽しい気分をもう少し抱えておきたかったから、まだ家には帰りたくないのが本音だった。
だが彼女には早く帰らなければならない理由がある。
……家族が、特に兄が帰って来る前に家に居なければいけないからだ。
前髪を上げて、普段着ないようなブランド物の可愛い服を着ているところを見られてしまったら、兄や家族に何を言われるかたまったもんじゃない。
だから、帰りたくないけれど急がなければならない。自然と宵子の歩みは速くなっていった。
「……おい、速いぞ」
「あっ……ごめんなさい」
鎌実に呼び止められて、足を止める。どうやら宵子は相当な速度で歩いていたらしい。
時計を見るとそろそろ家族が帰ってきてしまう時間だからだ。彼女にはもう、のんびり出来る余裕などない。
「どうしたんだ、門限でもあるのか?」
「まあ……そんなところです」
「まだ4時だろ。早過ぎないか?」
「あ、えっと……今日はあたしが食事当番なので……」
宵子はそれらしい言い訳を口にするが、こんな会話をしている時間も惜しいくらいだった。
(早く、早くしないと。特に兄に見つかってしまったらあたしは……)
「……あ?宵子か?」
そして、悪い予感というのは……無情にも当たってしまうものなのだ。




