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「あー!楽しかったあ!」
「おい零士。お前が楽しかったのはいいけどよ、九条はあんなになってるぞ」
「えっ!?な、何で!?さっきまですっげーテンション高かったじゃん!?」
大河に促されて零士が振り返ると、宵子がその場に蹲っていた。
どうやらカラオケボックスから出た瞬間にテンションが元に戻り、恥ずかしさがどっと込み上げてきてしまったらしい。耳まで真っ赤である。
「うう……!あたしみたいな陰キャが調子に乗っちゃってすみません……!もう記憶から消してください……!」
どうしてあんなにテンションが上がってしまったのか、宵子は不思議だった。カラオケボックスでの宵子は、普段の彼女とはまるで別人になってしまったようだ。
だけどカラオケボックスから出た途端、キラキラした魔法が解けてしまったようで……。
(本来ならあたしみたいな陰キャで不細工は端っこに座って目立たないように存在を消さなきゃいけないのに……)
零士にも、大河にも、……鎌実にも。とても失礼なことをしてしまったような気がして、宵子は顔を上げることが出来なかった。
「……宵子ちゃん、楽しくなかった?」
零士が声をかけてきたが、しょぼんという擬音が似合いそうな程、彼は落ち込んでいた。
「そ、それは……!」
正直に言うと、とても楽しかったのだ。
(こんな自分でも変われるんだって思ったから……)
でも、ふと我に返ると頭の中に何度も言われ続けた兄の言葉が響いてきて。
「お前は不細工なんだから」
自分は生きてるだけで迷惑な存在だと言われ続け、宵子は外で遊ぶことすら許されていなかった。
だからこんなふうに兄との約束を破って、外で楽しむなんて、許されちゃいけない。そのことを思うと、さっきまでの楽しかった気持ちも消さなきゃいけないと、彼女はそう思い込んでしまっていたのだ。
(不細工なあたしは、楽しいなんて思っちゃいけないもの……)
「……楽しかったんだろ」
答えられない宵子の代わりに、鎌実が口に出してくれた。
「楽しかったです。でも……」
「ならそれで良いだろうが」
「でも、あたし」
「ああ、そういやさっき歌ってた時に変な顔してただろ。歌詞に感情入ったのか知らんが表情がコロコロ変わってて、なかなか愉快だったぜ」
そう言って、鼻で笑う鎌実。それと同時に先程のことを思い出してきて、宵子はどんどん恥ずかしくなってくる。
「……!?な、何見てるんですか!!忘れてください!!」
「あー、そっか!それを思い出して恥ずかしくなっちゃったんだな?」
「気にすんな。カラオケでは皆そんなもんだ」
零士と大河がケラケラと笑う。
彼女がしゃがみ込んだ理由はそういう訳ではなかったのだが、この空気を壊したくなかった。それにここでわざわざ兄のことなんて話さなくても良いだろう。
だから、宵子はそういうことにしておいた。




