3-5
……そして、曲が終わった。
「……!はあ、はあっ……」
どうやら緊張で上手く息が出来ていなかったらしい宵子は歌い終わってから肩で息をする。
ぱちぱちぱち。零士と大河が拍手をしてくれる。鎌実は……ポテトをつまんでいたが、しっかり歌は聴いてくれていたようだった。
「あ、あの……」
「貴方、初めてって本当なのか?上手いじゃないか!」
「あ、あう……あの、そんなことないです。あたし、ただ夢中だっただけなので……!」
宵子は一緒に歌ってくれた店員に合わせるのに精一杯で、自分の歌声など聴けていなかった。しかし、店員の言葉や周りの反応を見るに、彼女は初めてにしては相当上手かったらしい。
「九条、普通に歌上手いじゃねえか。こりゃあ会長がほっとかねえぞ」
「あ〜……絶対また無茶振りしてきそうだなあ」
「……?どうかしましたか?」
「ん、大丈夫。こっちの話だぜ」
大河と零士の話の意味はよく分からなかったが、歌っている時に不思議な気持ちになったのは事実だった。
(あれが、高揚感ってやつなのかな。それに……)
「楽しかっただろ?」
「は、はい!すっごく楽しかったです!」
店員にそう問いかけられ、宵子は素直に頷いた。こんなに楽しい気分になったのは初めてで、気づけば緊張も殆ど無くなっていた。
「お、そのテンションでもう一曲いっちまえよ」
「……!良いんですか?」
「いいっていいって!これ宵子ちゃんのためのカラオケなんだからさ!」
歌い足りない、もっと歌ってみたいと思っていた。どうやらよろず部にはそんな宵子の気持ちは全てお見通しなようだった。
「じゃあ次は "すきだっつーの!" 歌います!」
「お、いいじゃないか!」
「……いや、お前はいつまでいるんだ」
「ははは!細かいことは気にせずに楽しもうじゃないか!」
「……!肩を組んでくるな!」
鎌実にだる絡みする店員を見てクスクス笑いながら、宵子はもう一度歌い始める。
……そこからは今までにないくらいテンションが上がり、シャウトする曲なんかも歌ったりなんかして。
「次!常磐先輩も歌いませんか!?」
「断る。つーか、お前テンション違い過ぎるだろ」
「だって、あたしすっごく楽しいです!常磐先輩も楽しくなりましょうよ!」
「嫌だね。一人で勝手に楽しくなってろ」
「あうう……!」
「冷たいじゃないか!何なら私と一緒に歌ってもいいんだぞ?」
「それはもっと断る」
ちなみに鎌実も歌ってみないかと宵子は誘ってみたが、見事に玉砕。でも次来た時は絶対に歌わせてやるという目標が出来たようだ。
(……まあ、次またカラオケに付き合ってくれる日が来るかどうかは分からないけども)
「……なんつーか、上手いこと殻破ってやった気がするな。流石れーちゃん」
「だろぉ?もっと褒めていいんだぜ、たーくん」
そんな宵子の様子を見て、まるで親かのようにうんうんと頷く零士と大河。
「……盛り上がってるところ悪いんだけどさ、うちの後輩連れて帰りたいんだけど」
そこへぬるっと現れた将吾。彼の視点からすると突然山盛りのポテトを持った後輩が厨房から出てきて、そこから30分ほど姿が見えなくなった訳だ。探しに来るのは当然だろう。
「あ、直樹先輩も遊びに来たのか?」
「んなわけないだろ!アンタを連れ戻しに来たんだよ!!」
ヘラヘラ笑う後輩店員を引きずって、将吾は部屋から出ていく。
宵子はそんな彼を見て、苦労してるなあと他人事のように思うのであった。




