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「おいコラ零士ィ!!テメェ部活サボって女口説くたァ、随分ナメた真似してくれるじゃねえか」
すると突然怒号が響き渡り、宵子は恐る恐る声のした方を振り返る。
(ひえっ……!!)
……そこに居たのはどう見てもカタギではなさそうなガラの悪そうな男だった。そしてその男は、零士の名前を呼んだ訳で。
宵子は本能的に感じた。これから喧嘩が起きると。そして、自分はその喧嘩に巻き込まれると。
「と、常磐先輩っ!!」
宵子はすぐに零士から離れ、鎌実の後ろに隠れる。彼女は鎌実のことも苦手だが、ヤバそうな喧嘩に巻き込まれるよりはこっちを選ぶ方がマシだと思ったのだ。
そして、結果的に宵子のその判断は正しかった。彼女が離れた直後に怖そうな男は零士に掴みかかる。あのままあそこにいたら、間違いなく巻き込まれていたに違いない。それくらいの勢いだ。
「け、喧嘩ですよ!どうしましょう!?」
「真っ先に逃げ出しといて気になるのかよ。俺に頼るな」
うぐ、と宵子の喉が鳴る。だが宵子は世間一般的な女子なのだ。カタギでなさそうな男の喧嘩に巻き込まれたらただではすまない。だから逃げるのも当然の反応である。
「だ、だって怖かったんだもの……!でもこれ、ほんとにヤバくないですか!?」
「いつものことだ。放っておけばいい」
「え?いつも……?」
いつも、とはどういうことだろうか。
宵子が鎌実に問おうとした、その時であった。
「たーいがっ!会いたかったあ!」
何と、零士が相手に思いっきり抱きついたのである。というか、もうこれは抱きついたっていうよりは飛びついていると言った方が正しいかもしれない。まるで、飼い犬が飼い主にじゃれついているように。
「……っ、お前なあ……」
飛びつかれた瞬間、男の表情が少し緩んだように見えた。……本当に飼い主なのかもしれない、宵子は失礼ながらそう思った。
「ごめんね?でも浮気じゃねえからな?この子だよ、九条宵子ちゃん」
「ああ、コイツか」
男の視線が宵子に移る。
(こ、怖い。失礼なこと考えたの、ばれちゃった……?)
鎌実とはまた違った目付きの悪さだ。あまりの怖さに宵子の背筋がピンと伸びる。
しかし、男はふっと表情を和らげ、改めて宵子に向き直った。
「悪い、ビビらせたか。俺は鮫島大河。これでもよろず部の部員だ」
「ぶ、部員さんだったんですね……」
「……だから放っておけばいいと言ったんだ」
どうやら男……大河も同じく部員だったようだ。つまり、二人にとってこのやり取りは日常茶飯事であって喧嘩ですらないと、鎌実は把握していたらしかった。宵子はほっと胸を撫で下ろす。
「じゃあさっそく行こーぜ!で、え、と♪」
「ったく、俺らのデートって訳じゃねえんだぞ」
「似たようなもんじゃーん」
言いながら零士は大河と指を絡ませるように手を繋ぐ。所謂、恋人繋ぎというやつだ。……将吾が言っていた先輩カップルとはこの二人のことらしい。
「こ、これはあたしたちも二人の真似しろってことですか……?」
「……っ!?あ、アホか。そんな訳ないだろ……!……ああクソ、とっとと着いてくぞ」
「あ、はあい」
二人の世界に入ってしまって宵子と鎌実が居ることを忘れているのか零士と大河はどんどん先へと行ってしまう。宵子たちは置いていかれないように慌てて後に続くのだった。




