3-1
……将吾に服を選んで貰った次の日。
「ここ、かな」
宵子は無事、彼に指定された通りの場所に着いた。そして言われた通り、髪は上げている。
しかし周りの人々が全員自分のことを見て嘲笑ってるように見えてしまう。
──不細工な面見せるんじゃねえよ。
まるでそんなふうに言われているように聞こえて、身体の震えが止まらない。
「……ジイシキカジョー」
「ふえっ!?」
突然背後から声を掛けられて、宵子は思わず飛び上がった。
「ビビり過ぎだろ」
「と、常磐先輩……」
「お前、自分を有名人だと勘違いしてるんじゃないか?これだけ人が居て、何でお前一人に注目するんだよ」
……確かに。宵子は有名人でも何でもない。ただの普通の平凡な女子高生だ。
(そっか……そんなあたしが意味も無く注目されるなんて有り得ないのか……)
「……あ、何か落ち着きました」
そう思うと、自然と怖いという感情は無くなっていて、身体の震えも止まっていた。
「ん、そうかよ」
「えっと、ありがとうございます」
「別にお前の為じゃない。あまりにも滑稽で見ていられなかっただけだ、自意識過剰女」
「……あの、あたし九条宵子です」
「……はあ?」
唐突に名乗られ、鎌実は訝しげな表情を浮かべる。彼は当然、宵子の名前は知っている。改めて名乗られる必要などない。しかし、宵子が名乗ったのは勿論理由があった。
(だってこの人、あたしのことをずっと変な呼び名で呼ぶんだもの……)
宵子はそれが嫌だったので思わず指摘してしまったのだ。というか、あまりにも名前を呼ばれないのでこの人は自分の名前を把握していないんじゃないかと不安になったのもある。それでわざわざ、改めて名乗った訳である。
「いちいち名乗らなくても知ってるが」
「じゃあ何で変な呼び名で呼ぶんですか。失礼ですよ、それ」
「お前に興味が無いからだ、以上」
「興味が無い人には失礼な態度取っていいって教わったんですか」
「チッ……面倒な女だな」
少し、場の雰囲気が悪くなったような気がする。まあ、この二人が一緒に居て雰囲気が良かったことなんて今のところ無い訳だが。
「そうそう!名前はちゃんと呼んであげた方が良いぜ!だってお前ら今日はカップルなんだからさ!」
「そうですよ。不本意とはいえそういうことになってしまったので……って、あなた誰ですか?」
あまりにも自然に会話に混ざって来るものだからスルーしそうになってしまったが、このオレンジ髪の男は誰だろうか。当然、宵子の知らない人物だ。
「やっぱりお前か……」
オレンジ髪の男の姿を視界にとらえた途端、鎌実が頭を抱える。
(……常磐先輩の知り合い?)
それにしてはあまり仲が宜しくなさそうに見える。
「あの……まさか、よろず部の……?」
「おう!俺は犬飼零士。《よいこちゃん改造計画》の第二段階の指導者って感じ?シクヨロ〜!」
「よ、よろしくお願いします……」
「緊張しちゃってるかな?まあ俺は何も厳しいこと言わないからリラックスリラックス!そういやすっごい顔可愛いね?MINE交換しようぜ?」
宵子の問いかけにオレンジ髪の男……零士はにいっと笑ってグイグイと詰め寄る。
(ち、近い……!この人苦手かも……!!)
世間的には "陽キャ" と呼ばれる部類の零士。勿論、他人と接したことなど殆どない宵子にとっては未知の遭遇で、困惑するのも当然のことだった。




