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「なら、俺の前でだけ上げればいい。そうやって慣れろ」
「えっ……」
これは……鎌実なりの妥協案を出してくれたのだろう。
「成程ねえ。自分の前でだけその可愛い顔を出して欲しいってことか。常磐先輩、なかなかムッツリじゃん?」
しかし彼なりの優しさは将吾の言葉によって割と酷い解釈をされてしまった。鎌実の眉間の皺が増え、言い返す。
「違う。何でそうなるんだよ。俺はただ、その辛気臭い姿を見たくないだけだ」
「えー、でもでも結局は顔見たいってことでしょ?」
「っ、だから、前髪が鬱陶しいのがイライラするだけで、だったら上げてる方がマシって言ってるだけだろ」
「前髪が鬱陶しいって……それアンタが言う?」
「煩い、話を逸らすな」
……二人が揉め始めてしまった。
(ど、どうしよう……)
宵子は何とか止めようと試みるがお互い言い合うのに夢中になって、全くこちらの話を聞こうともしない。
「はあ……もう、仕方ないです……」
宵子は溜息をつき、先程将吾に貰ったヘアクリップをもう一度付けた。途端に視界がひらける。
(うう、やっぱり眩しいし怖い。……でも)
「あ、あの!あたし、前髪上げます!」
宵子の言葉に、二人の視線が一斉にこちらへと向く。
(う、うう……!やっぱり怖い……!)
しかし彼女は勇気を振り絞り、言葉を続ける。
「え、えっと……とりあえず、常磐先輩の前では……ですけど」
一応、逃げられる要素は残しておくことにした。いきなり全員に見られるのは彼女にとってはハードルが高過ぎたようだ。
「……!やっぱり似合ってた〜!九条ちゃん、元がいいからメイクしないでそのままでも全然大丈夫そうだね」
(また、褒められた……)
しかし何故か宵子は安心出来なかった。家族に植え付けられた恐怖と洗脳のせいで、自分の見た目が整っていることを認められないのだ。
(で、でも変わるって決めたし……よし、とりあえず前向こう。うん……!)
だけど、変わる。少しずつでも。そう思っていつも曲げていた背筋をぴしっと伸ばし、まっすぐ前を向くことにすると、何故か鎌実が動揺し出した。
「お前……そんなに……」
「ん?ああ、姿勢悪かったしそもそも前着てた服が体型隠しちゃう系だったもんね。今回のは結構強調される服装だし。……ムッツリ」
「なっ……違う!!」
「……?何の話ですか?」
……やはり、この男はムッツリなのかもしれない。宵子には伝わっていなさそうなのが幸いか。
「何でもないよ。常磐先輩が九条ちゃん可愛いねって」
「言ってない」
「えっ?じゃあ大きいねって?」
「殺すぞ」
男子の話はよく分からないし、置いてけぼりにしないで欲しいな、と宵子は思った。




