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「……っ!きゃあああああ!!」
一瞬遅れて、鎌実に前髪を捲られたのだと気づくと宵子は悲鳴にも似た叫び声を上げる。
「煩い、いちいち叫ぶな」
「か、髪、髪嫌だったのに……!」
「知るか。何が嫌だってんだ」
まさか彼がこんなにズケズケと人の事情に入り込んでくるような人だとは宵子は思わなかったのだ。
いや、そういえば出会った時からデリカシー皆無の人だったような気もする。
(だけど、普通蹲ってパニックになってる人にこんなこと、する……!?)
「だ、だって……あたし、不細工だから、不快だからその顔ずっと隠してろって言われたんだもの……!」
「はあ?誰にだよ」
……それは、言えないのだ。
兄は外面は良いから、兄の悪口なんか言おうものならたちまち宵子が孤立してしまう。それを分かっていたから、今まで誰にも助けを求めることが出来なかったのだから。
「どうでもいいが、俺からすれば今のままの方が不快だ。人が喋っているのに目も合わせようとしない、急に泣き喚く、だいたいお前が不細工なのはその髪のせいだろうが。手入れもしていないで伸ばしっぱなしのせいで不潔にしか見えないが?」
……鎌実から放たれたあまりの辛辣な言葉に、沈黙が流れた。
将吾までもがドン引きし、「え、そこまで言う……?」と小さく呟いたのが宵子の耳に届く。だが、鎌実の言うことは正直……正論だ。言い方が大問題だが。
「それでも……ずっと不細工だって言われてきたんですよ……。だから顔出すなって……」
「だから知るかよそんなの。俺は今のお前の方が不快だから前髪上げろって言ってるんだ。その方が幾分かマシだろ」
自分だって前髪長くして片目隠してる癖に……とは流石に突っ込める雰囲気ではなかった。
「顔見せても、不細工じゃないですか……あたし。周りに引かれませんか」
「知るかよそんなこと。自分で考えろ」
「だって、怖いんです。ずっとずっと不快な顔って言われ続けて、今更顔出すなんて、周りの反応気にしちゃうじゃないですか」
「少なくとも俺は不快には思わないって言ってるだろうが」
「そうですけど……」
正直、それだけでは宵子は安心出来ない。彼女は安心したいのだ。……我儘なのは彼女自身も分かってはいるが。でも、ずっとずっとそう言われ続けて、洗脳され続けた心はすぐには変われない。
「あーもう!グダグダし過ぎ!」
さっきから蚊帳の外になっていた将吾が叫ぶ。
「もういいから僕にも顔見せてよ!常磐先輩に見られてんだから、僕にだっていいよね!ほら!」
「えっ……」
イエスもノーも言う暇も無く、再度彼女の髪が上げられる。また視界が開けて、その視界に映った将吾は一瞬驚いた顔をした後、にやりと笑った。
「へえ、美人じゃん」
「ふえっ!?び、美人!?あ、あたしが!?」
「これは化けるよ。つーか常磐先輩もさっさと美人って言えば良いのにさ。あんな回りくどい言い方でグダグダ言って伝わる訳ないじゃん」
「はあ?俺はそんなこと思ってな……」
「はいはい。とりあえず髪は切らないからヘアクリップで留めとこっか。……ふふふ、これは選びがいがあるなあ……!」
そう言って将吾は宵子の前髪をヘアクリップで留める。そしてそのまま手を引かれ、連れて行かれてしまうのであった。




