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第9話 初めての雇用
家の近くのコンビニ。
いつも母が牛乳を買いに行っていた、あの場所。
「スタッフ募集 未経験可 週3日~OK」
怜音はふと、その貼り紙の前で立ち止まった。
「……ここなら、俺でも……」
ダメもとで面接に行ってみると、店長は驚くほどあっさりと頷いた。
「空白の期間? あー、気にしなくていいよ。動けるなら充分」
「うちは人手が足りてないからね」
「……ありがとうございます」
そのとき、怜音は心の奥底で“初めての現代のギルド依頼”を受けた気がした。
そして、勤務初日。
ユニフォームに袖を通す。レジの前に立つ。
おにぎりの補充。ゴミ出し。揚げ物のタイミング。
すべてが新鮮で、すべてが難しい。
けれど、
「ありがとうございましたー!」
と笑顔で言えるたびに、
**“誰かにちゃんと役に立っている”**という感覚が湧いてくる。
「……ギルドの依頼と同じだ。誰かの“日常”を守ってる」
少しずつ、社会の中に“レイ=怜音”という人間が根を張っていく。