8/23
第8話 ギルドの記憶と、今の俺
「勇者様、ありがとう! 村を救ってくれて……」
「いえ、自分はただ依頼を受けただけです」
ギルドの受付嬢が苦笑いしながら言ったっけ。
「またそれ言う! でもね、そういう“誰かのために動ける人”のことを、私たちは勇者って呼ぶんですよ?」
怜音は、ベンチに座りながら空を見上げた。
現代の空は高く、どこまでも冷たい。
けれどその奥には、確かに“あの世界”とつながる何かがあるような気がしていた。
「ギルドじゃ、履歴書なんてなかった」
「実績なんて、依頼をこなせば後からついてきた」
「……そうだよな。あの頃の俺は、“まず動いてたんだ」
魔物退治、薬草採取、荷運び、迷子探し――
どれも地味で報われない仕事だった。
でも、全部“誰かの困ってる声”から始まった。
「今の世界でも、そんな“困ってる人の声”って……あるんじゃないか?」
怜音はゆっくりと立ち上がった。
経験がなくても、学歴がなくても。
まず“自分にできること”を探してみよう。
それがきっと、この世界での“最初の依頼”になるはずだ。