第7話 初めての挫折
「――はい、今回は希望に添えずに申し訳ございません。機会がありましたら、また……」
何度目だろう、この言葉を聞いたのは。
怜音は街の裏通りに出ると、ゆっくりと深呼吸した。
チラシに書いてあった条件に期待を抱いたのは間違いだった。
面接官は、彼の履歴書を開いた瞬間に眉を寄せた。
「学歴、空白、資格なし、病歴――これではちょっと……」
「いえ、やる気は人一倍あります。掃除も、料理も、できます」
「……そう言われても、ね」
やんわりと、しかし確実に“拒絶”だけが伝わってくる言葉たち。
「……俺は“戦って”きた。でもこの世界は、“証明”がないと信じてもらえないんだな」
街路樹の陰に座り込み、うつむいた。
剣も魔法も使えない。戦果もない。
ただの“空白の20年を持つ青年”に、仕事はなかった。
――魔王を倒した俺が、面接で落とされ続けている。
なんて滑稽な話だろう。
怜音はコンビニの裏で、使い捨ての履歴書を握りつぶしていた。
ハローワーク、派遣会社、バイト情報サイト。
「未経験歓迎」「誰でもできる簡単なお仕事」
書いてあることと、現実は違っていた。
「20年以上の空白……?」
「高卒ですらないの?」
面接官たちは皆、優しく微笑みながら“断る”技術だけはプロだった。
「やる気はあるんです。力仕事でも、なんでも……!」
「その気持ちは嬉しいですけどね……。ごめんなさい」
怜音は何度も頭を下げた。
でもこの世界では、「魔法が使える」も、「世界を救った」も通用しない。
求められているのは、証明できる経歴と、安定した常識。
「俺が誰だったかなんて、どうでもいいのか……」