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第4話 退院
退院当日、曇り空の下で風がそっと頬を撫でた。
「――寒いな」
病院の外へ出たのは、一年ぶりだった。いや、“この身体”にとっては、生まれて初めてだったかもしれない。
コートのポケットに指を差し込む。冷たさはあるが、もう震えることはない。
怜音は、歩道の縁に小さく咲いていた雑草を見つめながら、自分の歩幅で歩いてみた。
一歩ずつ。
魔力で風を起こすことも、空を飛ぶこともできない。
だが、それでも――
今の自分には、“自分の足で歩く”という魔法がある。
「よく頑張ったね、怜音」
背後から、母の志穂が優しく声をかけた。
怜音は少しだけ微笑む。そして、小さく頷いた。
心の奥で、自分の名前をそっとつぶやく。
「レイでも怜音でもいい……。俺は、“俺”として生きる」
状況まとめ(1年後)
身体機能一般的な生活には問題なし。ただし走る、重いものを持つ、などには制限あり。
魔法魔力は微弱に感知できるが、この世界では異世界のようには使えないかもしれない
社会的立場戸籍上は生存扱い、ただし20年間の空白ゆえに学校や仕事には特殊措置が必要