第11話 傷跡のある少女
彼女の名は、日向。
年齢は18歳、蓮より少し若い。
同じコンビニで週4回シフトに入っているが、誰とも会話はしない。
無表情で、無口で、必要最低限しか話さない。
ただ、一度だけ怜音が見てしまった――
ユニフォームの袖から少しはだけた腕に、無数の古い切り傷と、比較的新しい赤い線が見えたのだ。
「それ……戦った傷じゃない」
「自分で……自分を傷つけた跡だ」
怜音の中で、何かが強く揺れた。
異世界でどんなに深く傷を負っても、人は“誰かのために戦って”いた。
だが日向の傷は、誰にも見られず、誰にも知られず、ただ消えていくためのものだった。
日向は黙々と作業をこなしていた。
売り場整理、補充、揚げ物、レジ。完璧。だが、無言。
怜音が「お疲れさま」と声をかけても、
「……はい」
とだけ、視線すら合わせずに返される。
数日後、怜音は意を決してもう一歩踏み込んだ。
「前に、腕の傷を……見た。あれ、たぶん……」
日向は即座に言葉を切った。
「見ないでください」
一瞬、冷たい空気が流れる。
「別に構ってほしいわけじゃないんで」
「“可哀想な人”って思うの、やめてもらえます?」
その目には、明確な“拒絶”があった。
「……ごめん。俺、何もわかってなかった」
怜音はそれ以上、何も言わなかった。
コンビニのドアのチャイムが鳴る。
誰かが入り、誰かが出ていく。
怜音は悟った。
「この世界では、“救いたい”と思っただけじゃ届かない」
「相手が“救われたい”と心から思わなければ、手は伸びない」
異世界では、剣で敵を倒せば村は平和になった。
だがこの世界では、“痛みを自分で抱え続けたい人間”もいる。
怜音は、初めて「どうすることもできない現実」にぶつかった。
名前 河合 日向
年齢18歳
状態同じコンビニで週4のシフトに入っているが、誰とも会話はしない。
好意や優しさすらも拒むほど、心を閉じている。




