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「ロスト・ミレニアム」(『キディ・グレイド』二次創作)③


          *   *   *


 第二次限定戦争の終結後、旧勢力の残党に対して宇宙惑星連合はその鎮圧作戦に多くの兵力を割く事を余儀なくされた。しかし、未だに各地では余燼が燻り、各々(おのおの)が妥協を許さぬ折衝の果てに成立した新政権の脆い土壌は引き続き揺るがされる事となった。

 戦後経済の混乱と変動に際し、新生した銀河通商関税機構──通称GOTTは銀河系の市場監視を大義に実動部隊のCフォース、時にはESメンバーをも動員してこれに介入。新政権内部で戦闘行為に携わる者たちが総力を挙げた「テロとの戦い」は過渡期を迎えていた。

「……こんな事なら、傭兵に戻った方が良かった」

 高速巡航宇宙船アルビオンで目的の星まで移動しながら、ゴグが独りごちた。

 物思いに耽っていたマゴグは、その声で我に返る。

「そう言わないの、ゴグ。要人警護だって特務のうちよ」

「分かってるよ、現地に着いたら俺たちはハフナーって野郎……じゃない、領主様の依頼に絶対服従だ。けど、元々俺たちはサイレンさんと共和国連合の元に集まったはずだ。何で昨日の今日で仲良しごっこを始めた連中から、こんな命令を受けなきゃならない?」

「それは、そうだけど……」

 惑星の衛星軌道上にリング状に形成された港から、警告と所属の開示を求める音声が届く。マゴグはパートナーに応じる台詞を切り、応答する。

「こちらGOTT所属、ESメンバーです。グニタヘイズ領主、エギル・ハフナー氏の依頼を受け、アイネイアースより参りました」

『……確認しました。着艦を許可します』

「ありがとうございます」

 通信を終え、アルビオンを着艦態勢に移行する。

 GOTT所属ESメンバー。マゴグもゴグと同様、この名乗り方には未だに違和感を覚えてしまう。

 宇宙惑星連合の成立は、戦後に双方とも疲弊した惑星共和国連合、国家惑星連邦の合併によるものだった。汎基準法たる銀河標準律法は定められたものの、それもあくまで連合憲章に基づいた”準”憲章のような扱いであって法的拘束力は低く、各独立惑星は未だに高度に自治体制が継続されている。

 そして、連合加盟国家の代表によって構成された新たな連合評議会もまた、必然的に戦前同様構成員の皆がノーヴルズだった。彼らが国家代表である以上、地球至上主義者たちによる体制は銀河系のあちこちで続いた。

 ──昨日の今日で仲良しごっこを始めた連中。

 ゴグがそう言うのは、共和国連合から自動的に新体制に組み込まれた自分たちESメンバーが、それまで敵対していた惑星連邦出身のノーヴルズの意思をも、GOTTという中継点(ターミナル)を通じて遂行せねばならないという不条理に対するものだった。実際に折衝を進めたのも旧評議会の枢軸委員会であり、ESメンバーはシステムの一環として次の体制に引き継がれた訳だ。

「……その新体制の中に、マンフレディ議員もサイレンさんも居るのよ」

 パートナーの台詞からやや(しば)し遅れて、マゴグはそう言った。

 新造されたらしい、ぴかぴかの大型宇宙船が並ぶ港に、大型戦闘機と言っても通用するサイズのアルビオンが停泊する。Gが完全に収まるのを待ち、ゴグ、マゴグは席を立つ。

 以前のAIを引き継がれた新たなガードロボット、ソリッドシェルのヴォーティガンも自分たちの後に続いて来た。

「分かってるって。公私混同って程、あの人たちが『()』でもないしな」

 ゴグは感情の込もらない声で言うと、肩を竦めた。


          *   *   *


 惑星グニタヘイズ、領主ハフナー邸。

「ここか……」

 目的地に到着すると、小型端末のメモパッドを見ながらゴグが言った。

「宇宙港から似たような豪邸がもう一つ見えたから、そっちかと思った」

「あっちはリジル財閥CEOの邸宅ね」

「さっき通って来たスラム街の連中が見たら、確かに怒り出しそうな規模だな。だけど、そんな中でずば抜けた権力者が二人も居たら、普通競い合う事になるものじゃないのかね」

「戦う舞台がそもそも違うからじゃない? リジルが、高額納税者として領主に認知されている。領主も、それ故にリジル財閥が各方面で優遇されるように便宜を図っている。ビジネスライクな関係としては理想的ね」

「戦う……か」

 ゴグは、マゴグの言葉に引っ掛かりを覚えたようだった。

「本当に戦っているのは、俺たちだ」

「ゴグ──」

 しかし、マゴグがそれ以上”雑談”を継続する(いとま)はなかった。ゴグが門柱に掛けられたインターホンを押し、カメラのレンズを覗き込む。何やらクラシックめいた電子音のメロディが流れ出したが、マゴグには何の曲かは分からなかった。

「GOTTです。依頼の件で参りました」

『ESメンバーの方々ですね。お待ちしておりました、只今迎えに上がります』

 ゴグの呼び掛けに、お手伝いと思しき女性の声が応じた。


「リジル財閥傘下、リジル鉱業についてはご存知ですかな?」

 挨拶を済ませ、具体的な依頼内容について話が及ぶと、グニタヘイズの領主ハフナーは紅茶を一口啜って言った。

「ええ」

 マゴグたちは首肯する。特務拝命前に与えられていた基本情報だった。

 地下に大規模な鉱脈が発見され、レアメタルの産出が惑星の重要な資金源となっているグニタヘイズ。その採石場を有し、採掘業務を一手に担うリジル鉱業は、同財閥の中枢を成す企業であり、ここから輸出された鉱産資源はGOTTの各種軍事技術開発にも使用されている。

 とはいえ、それも所詮は銀河系の一惑星での事業である事には違いない。レアメタルの発掘、輸出に力を入れる惑星企業は他にも存在し、その貿易網はグニタヘイズのものより安価な形で各地のネットワークを形成している。価格競争には必ず限界が存在し、特に戦後の復興ブームにより資源の価格が高騰している現在、インフレの中でどれだけ安価に出来るかは下限が定まっていた。極端な価格操作を行えば、売れれば売れる分だけ赤字というジレンマに突入してしまう。

 そのような中、リジル財閥は癒着を強めているハフナーに直訴し、グニタヘイズへの輸入品、特にリジル鉱業の守備範囲である鉱産資源系の品目に高い関税を掛け、国内から締め出す施策──いわゆるブロック経済──を実行させた。その中に火力発電に使用される石炭なども含まれた為、グニタヘイズ内のエネルギー価格は高騰という事態が発生し、それを基盤とする各種産業にも影響が生じた。

 ハフナーの経済政策によって利益を得たのは、レアメタル産業に特化したリジルのみだった、という話だ。

「そのリジルが所有する金鉱山に、先日私どもが視察に向かった時の事です。私の乗る車が、突如として出現した暴徒に襲われ、運転手と付き添いの者が工具のようなもので殴られ重傷を負いました。私は(から)くも難を逃れたのですがね、もしも間に合わなかったと思えば恐ろしい、死んでいたかもしれません」

「それはお気の毒に……その暴徒たちに、ハフナー様が襲われた理由についてお心当たりは?」

 ゴグは、あからさまな棒読み調で問うた。

「暴徒というのが、リジルの労働者だったのです。そうした一部の運動は今や鉱山の雇用者全体に波及し、先週から大規模なストライキが実施されています。それも、労働組合を主体としていないものです。団体行動は労働者の権利ですが、これでは無断欠勤と言わざるを得ないでしょう。

 彼らの行動は、数日の間に次第にエスカレートしています。昨夜も現場監督が帰宅途中、街の住人に襲われました。その上、駐在中のSOメンバーの方々の調べによると、特に治安の悪化している市郊外──そうです、スラム街に、密入国したテロリストが潜伏しているという疑いも浮上したといいます」

「確かに現在、銀河系のあちこちで反体制運動が起こり、ゲリラ化した民衆によってノーヴルズの方々が襲われる事件も多発していますね」

 ゴグの相槌を聞きながら、マゴグは思索を巡らせる。

 ハフナー氏は民衆の反発を招いた原因が自身にある事を棚に上げたような話し方をしているものの、起こった事というのは真実のようだった。事実、ゴグとマゴグや共同戦線を張ったCフォースも、ここ最近相手にしてきた勢力は皆新体制を主導するノーヴルズを狙ったテロリストたちだった。

 しかし、ハフナー氏の経済政策と、それを実施させたリジルに反発した労働者たちというのは、あくまで自分たちの生活維持が第一であるからこそ行動を起こしたのだろう。手順が現行法に則っていなかったとしても、ストライキ自体は彼らに認められた権利の範疇を逸脱していない。

 そんな彼らが、テロリストを匿ったりなどするだろうか? グニタヘイズは先の大戦で、戦場となる事はなかったはずだ。現在では銃など火器の調達も困難になっているだろうし、SOメンバーがそう報告したというのなら、彼らは何を以てそう判断するに至ったのだろう──。

「経済政策の件につきましては、GOTTから説明が求められている事は分かっています! けれど、その陳弁を行う為には私が直接、リジル鉱業の現状を報告書にまとめ上げて提出せねばならないのです。その為には何としても、前回中止となってしまった視察を完了する必要があります」

 ハフナー氏はハンカチで額の汗を拭いながら、含めるように強く言った。

 テロリスト化しているかもしれない者たちにより、命が狙われる危険に満ちた現場を訪れねばならない為、ESメンバーの派遣を要請した。それも、GOTTに対する説明責任の為。なるほど、筋は通っている。

 ──それにSOメンバーの報告にも、解せない点はある。自分たちの目で真相を確かめなければならない。

「承知しました」

 マゴグは、右(てのひら)を胸に当てて(いら)えた。

「SクラスESメンバー、マゴグ──」

「並びにゴグ」

 二人で声を揃え、

「あなたの身の安全は、我々が保証します」

 GOTT所属となってから初めてとなる、要人警護の口上を述べた。

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