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第9話『ダンジョン?』

 あれから何十分と歩いただろう。

 気づけば辺りの木の量も増え到底何かがあるとは思えないほどの環境になっていた。

 

「クライドさん! これって……」


 後ろからミーシアスの声が聞こえた。

 振り返るとミーシアスは地面を指さしていた。


 土だらけの地面にうっすらと足跡が見えた。

 その足跡はよく見るとこの先に続いていた

 

「これってルーアのか? レイン」

「足跡だけじゃ正直わからない……」

「そうか。でもこの先に何かあることは間違いない。行こう」


 俺達は足跡を追って進みだした。


***


 足跡を追って数分。

 視界に広がるはまるで別の世界。

 木々が生い茂るアズオーク大森林の中、広くひらけた場所があった。


 大きな石の柱が地面から突き出ている。

 いくつもだ。

 中心には白い建物、いや何かへの入口がある。

 

「どうしてこんなものがこんなところに……」

「お兄ちゃん、これは私達歴史に名を残すかもよ!!」

「そんなことはないだろ、さすがに」


 俺達はひとまず中心の建物に近づく。

 落ちている瓦礫や柱を見るにそれほど直近に建造されたものじゃないのは確か。

 相当古そうだ。

 それにしてもどうしてこんなところに建物があるんだ。


 短い階段を登る。

 中心の建物、その中には下へと繋がる階段があった。

 ダンジョンみたいだ。

 中はかなり暗い。

 陽の光も柱や建物に遮られ入口付近でさえ真っ暗。

 この中に入るというのか……。


「お兄ちゃん、もしかして怖いの??」

「うるさい。行くぞ」


 俺達は下へと繋がる階段を下った。


***


 ミーシアスの火の灯りが暗闇を照らす。

 やや狭い廊下。

 何度か分岐をあった。

 壁は外の建物と同じ白の石のような物で作られている。

 だが外よりも汚れて本来の色を失っていた。


「ルーアさんはこの中に一人で入ったのでしょうか……灯りもなしで」


 そう考えると恐ろしい。

 こんな真っ暗の中をたった一人で彷徨うなんて。

 魔物に襲われるよりも恐ろしいかもしれない。


「早く見つけてあげたい……どこかで絶対寂しがってるよ……」

「レイン、きっとあと少しだ。頑張ろう」

「あぁ……ありがとう」


***


 二階層。

 

 一階層では特になにもなかった。

 あるとすれば今いる二階層に繋がる階段くらいだった。

 魔物の気配すらない。

 一体何の建物なんだ。


「クライド、これを見てくれ」


 レインが壁際に落ちていた靴を指さした。


「これは……?」

「間違いない。俺が買ってあげた靴だ」


 やはりこの建物内にルーアがいる。

 それがわかっただけで少しほっとした。


「ルーアがさらに下に行く前に見つけ出そう」


 俺が言うと皆頷いた。

 そして歩きだした。


「!?」


 その瞬間、皆足を止めた。

 火の灯りでうっすらと見えるこの先。

 右から左へと人影が移動したように見えた。


「今の見えたか?」

「あぁ、見えた! ルーアかもしれない。ルーア!! ルーア!!!」


 レインは名を呼びながら走り出した。


「待て、レイン! 一人で行くな!」


 俺達もあとを追った。


 人影が移動した先に行ったが誰もいなかった。

 だがその先は目にし難い光景が広がっていた。

 

 床、壁、天井。

 すべてに赤い液体がこびりついていた。

 強烈な吐き気に襲われた。


「クライド、大丈夫か!」

「悪い……ちょっとな」

「なにこれ……ひどい」


 サユ、ミーシアスは顔を逸らしていた。

 その行動に間違いはない。

 こんな光景は直視するべきではない。


「行けるか?」


 レインが問いかけてきた。

 俺は静かに頷いた。


 そして赤い液体の上を歩く。

 液体は乾ききっていた。

 この液体がルーアのものではないことをただ願うばかりだ。


***


 あの悲惨な光景から少し経った。

 俺達は歩いたさきでかなり広い空間を見つけた。

 灯りの限界があるせいで全容は見えないがとにかく広い。


「皆さん……」


 灯りを照らすミーシアスがそう言った。


「何か聞こえませんか?」


 意識をすれば何かが聞こえる。

 さっきまで風の音かと思っていたがこんなところで風が吹くわけがない。

 となるとこの音は、この声は―。


「これ泣き声じゃない?」

「……!!!」


 レインが前にいきなり進みだした。


「ルーア……ルーア、ルーア!!!!!」

「……。……おにい!! おにい!!」


 レインの声に反応して女の子の声が聞こえてきた。

 しかし暗くてどこにいるか見えない。


「ミーシアス、灯りをもう少し大きくできるか?」

「わかりました!!」


 ミーシアスは杖から出す火の灯りを強くした。

 すると見える範囲が広くなった。

 俺達から離れたところにうろうろと動く人影が見えた。


「レイン! あそこだ!!」


 俺が指をさした。

 レインはその方向に走る。


「ルーア!! ルーア!!!」


 レインの目の前には左の横髪にリボンをつけた女の子が立っていた。

 レインは思わず泣きながら抱きついた。

 応えるようにルーアも抱きしめた。


「……ルーア! ごめんな、ごめんな……助けるのが遅れて……」

「おにい……おにい……」


 二人が抱き合うのを見て俺達は目を合わせ微笑んだ。


 ガチャ。

 何かが開くような音が聞こえた。


「ルーア……これからは離さない……ちゃんと守る……」

「……うん!!」


 感動的再会をしている間、俺達は妙な不安感に襲われていた。

 俺達は同じように辺りを見渡した。

 灯りの範囲内には何も見えない。

 影もない。

 

「レイン、邪魔して悪いがここを早く出た方が良さそうだ」

「確かにそうだな。こんな危なっかしいところに停滞しているのも危険かもしれないな」


 その時何かの気配を感じた。


「ミーシアス、灯りを持って先頭を走れ! 急いで外に出ろ!!!!」


 俺達は走りだした。

 同時に後ろから何かが来ている気がした。


 後ろから鋭い魔法? が飛んできた。

 それは壁にぶつかり壁が崩壊した。


「もっと急げ!!」


 魔法の様な攻撃は何度も飛んできては壁にぶつかった。

 その都度崩壊が進んでいた。


 広い空間を出てあの廊下を走る。

 天井から少量の土が落ちてきていた。

 同時に激しい音も聞こえた。


「一体どうなってるんだ!」

「わからない!」


 壁に亀裂が走る。

 亀裂は広がり新たな亀裂を生んだ。

 建物内は激しい音を響かせながら揺れている。


「も、もしかしたらこの建物崩れちゃうんじゃないんですか!」

「だったら尚更まずいぞ。ここはまだ2階層だ。このままだと生き埋めになってしまう!」


 とは言ってもどうすることも出来ない。

 ただ全力で走るしかない。


***


 一階層。

 

 二階層は完全に崩壊した。

 ただ一階層も既に崩壊がかなり進んでいた。

 地面には大量の瓦礫が落ちておりそれを避けて走った。

 だがそれのせいで進む速度は遅くなる。


「!!!?」


 ついには床までもが崩れだした。

 床の崩壊はもうすぐ後ろまで来ている。


「急げ!!! 急げ!! 出口をもうすぐなはずだ!!」


 俺達は必死に走る。

 こんなところで死ぬわけにはいかない。

 せっかくルーアを見つけられたのに。

 レインとルーアを再会させることができたのに。


「みんな、前!!!」


 前には俺達が降りてきた階段があった。

 もう少しだ。


「ガルルルッ!!!!!」


 上の方に魔物がいた。

 こんな時に現れやがって。

 こうなったら……。


加速(アクセラレーション)

「お兄ちゃん!」


 俺は剣を抜き一瞬で魔物のところまで移動した。

 中型の狼の魔物。

 その魔物は抵抗してきたので剣で押さえつけた。


「みんな先に行け!!!!」


 皆が俺の横を通る。

 崩壊はすぐそこまで来ている。

 早く全員通れ。


「クライド!!!」


 最後にレインとルーアが横を通った。

 その瞬間に振り払い魔物を斬った。


「お兄ちゃん! 早く!!!!!」


 ガタンッ。

 片足が瓦礫とともに下に沈みかけた。

 反射で片足を戻した。


 そして走りだす。

 まずい。

 間に合わない。


 崩壊が速度を上げて俺を襲ってくる。

 

「クライド、飛べ!!!!!!」


 レインの声で俺はハッとなった。

 足に力を入れ、全力で走り全力で飛んだ。


 既に足元には床はない。

 届け、届け!!!!


「くっ!」


 レインが俺の腕を掴んだ。

 壁に足を当てなんとか上に上がることができた。


「はぁ……、ありがとう、レイン」

「いや、こちらこそ」


 俺達は建物から少し離れた。


 数十秒後には地上に出ていた建物も崩れ何もなくなってしまった。

 それにしてもあの魔法を撃ってきたのは一体……。


「クライド、ミーシアス、サユ、本当にありがとう。こうしてルーアを見つけ出せたのもあんたらが手伝ってくれたおかげだ。本当にありがとう……」

「私からも……ありがとうございます!」


 ルーアとレインが頭を下げて礼を言ってきた。


「そんな、頭を上げてよ。

 言っただろ、レインが俺に似てたから助けただけだって。

 だからそんな感謝なんかしなくていいよ」

「いや、感謝はさせてくれ。本当にありがとう……」


 俺は幸せな気持ちになった。

 きっとこれは俺だけじゃないはず。


「それにしてもルーア、かっわいい!!! なにこのリボン! 私とお揃いじゃん!!」

「あ、これはおにいに買ってもらったんです!」

「えぇ!! 私もお兄ちゃんに買ってもらったんだよ! 何だか私達似てるね!!!」

「これはもう運命ですね!」


 早速仲良くなるサユとルーア。

 そんな二人の姿を見て俺とレインは目を合わせた。


「それじゃあ、帰ろっか」

「お兄ちゃん〜お腹空いた! 外食外食!!!」

「そんな無駄遣いは出来ない!」

「えぇ〜」


 一方レイン達の方では。


「おにい! ご飯が食べたい!」

「あぁ! 良いぜ。なんでも食べさせてやる」


 それを見ていたサユが俺のことを見つめてきた。


「あっちとこっちじゃ事情が違うだろ」

「ケチにい」

「何だよ、その呼び方」


 歩いていると後ろにいたミーシアスが横に来た。


「クライドさん、今日、頑張ったので……あの、その……外食したいです……」

「確かにそうだな。今日は頑張ったし外食にするか」

「だぁかぁらぁ!! なんでお兄ちゃんはミーシアには甘いの!!!」


 あーだこーだ言うサユを無視しているとレインが声をかけてきた。


「クライド、よければ奢らせてくれないか?」

「でも、良いのか?」

「あぁ、礼はいらないって言われたけどやっぱり形にして返したい。だから奢らせてくれ」

「……ありがとう、レイン」

「それにしてもサユとクライドは仲がかなり良いな!」

「そーんなことはない!!! このケチにいとは犬猿の仲だよ!」

「クライドはこんなにいい人なのに仲が悪いなんて勿体ないぞ?」


 髪の毛を触り何故か嬉しそうにしているサユ。


「そ、それは……お兄ちゃんだし……当たり前……だもん」

「やっぱ兄想いなんだな!」

「ち、ち、違う!!!!」

「あははは!」


 レインが笑った。

 それにつられてミーシアスとルーアも笑う。


 サユは頬を膨らませて前髪をいじりながら先に進みだした。 


「……お兄ちゃんのバカ」

「なんで俺……?」


 通りすがりに唐突に言われた暴言。

 なぜレインとの会話の結果が俺のところに帰ってきたんだ。


「サユ、待てよ!」


 俺は先を進むサユのもとへ歩いたのだった。


 

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