第59話【VS影人①】
「ルゴールさん、どうしたんですか?」
これまでの表情とは違った表情をしているルゴールさん。
どこか恐ろしさを感じている、そんな気がした。
「まずい。また奴らが来たぞ」
「そ、それはどこなんだ!」
ルゴールさんの一言にクロノスさんが食いつく。
「第五箇区だ。早く行った方がいいかもしれない」
「あぁ、みんな行こう」
クロノスさんが走り出したあとを俺達もついていった。
***
「これは...影人が」
アイオスさんが立ち尽くす。
俺達の視線の先には荒れ果てた第五箇区があった。
あちこちで人が倒れ、所々建物が倒壊している。
「...アイオス様」
一人の兵がアイオスさんの足元で微かに声を出していた。
血が大量に流れている、傷も防ぐ事が出来ないほどに。
きっと彼に残された時間はあまりない。
「なんだ」
「気を付けてください。奴は他とは違う...。
弱い影人は討伐しましたが...奴だけは...」
「そうか。お前たち、よくやった。
あとは俺に全て任せろ。お前らに最高の新時代を見せてやる」
「お願いします...」
その言葉を最後に彼は何も言わなくなった。
「ルゴール、あの面をつけた剣士はどこにいる?」
「俺にそんな事を言ってくるとは」
「お前の力は何となく理解した」
「...あの剣士なのかは分からないが強大な力を感じる存在がひとつある。
それは第五箇区を抜け、第一箇区にいるようだ。
そして今は上に進み城がある方へ向かおうとしているところだ」
「協会...め」
アイオスさんは力強く歩き始めた。
「もしかして協会の目的は...」
「反協会派の勢力が拡大する中、この状況を打開したい協会にとってこの国に干渉してくる理由は何かを欲する思惑があることだけだろう」
クロノスさんの言葉に続けてセカリアさんがそう言った。
一体何のことについて言っているのかはわからなかった。
クロノスさんたちはアイオスさんのあとを追って走り始めた。
俺達は未だ詳しく状況を掴む事ができず、ただ彼らのあとを追う。
****
「うわぁあ!!!」
「ぎゃあああ!!」
俺達は第一箇区に来た。
多くの住民が騒ぎ逃げ惑っている。
建物の窓には逐一外の様子を見ている者までいる。
「大丈夫か!」
クロノスさんが道の真ん中で負傷して倒れている男性に声をかけた。
「クロノス様...どうか影人を止めて下さい」
「あぁ、任せてくれ。みんなの期待を裏切ったりはしない」
そう言ってクロノスさんが立ち上がった。
「すまないけど誰か彼を療室に連れて行ってあげてほしい」
「なら私が行くよ!!」
サユが手を挙げた。
「さすがに一人は危ないんじゃ...」
「な、なら私が付き添います」
ミーシアスがそう言った。
サユと一緒にミーシアスがついて行ってくれるなら十分安心出来る。
「わかった。ミーシアス、サユの事は任せた!」
「はい!! がんばります!」
サユとミーシアスは男性を支えて療室に急いで向かった。
「クロノス、分かるか」
「あぁ、分かるよ。今も凄く鼓動が高まるのを感じている」
城へと繋がる見通しの良い一本の街道。
そこはかつて見たことのないほどに人の気配はなかった。
「今日、オルグセイラの何百年にも渡る戦いが終わるかもしれねぇ」
「そうだね。失った皆の命は取り戻すことは出来ないけど皆が紡いだ時は今も歩み続けている。
僕らがその時の終点まで導き、新たな時を押し出すんだ」
「平和がこの国を覆う、そんな未来の為に私は全力を尽くすと約束する」
クロノスさんたちはこの道の先を見つめながらそう語らい合っている。
俺達はこの国の歴史のターニングポイントに立っているのかもしれない。
「お出ましのようだな」
ルゴールさんがそう言った。
その瞬間、身体全体を押しつぶすような重圧を感じた。
足が竦む。
恐怖とは違うなにかだ。
身体の深い底からあの存在に対して嫌悪感を抱いているのかもしれない。
「どこに居たかと思えば遅れて登場とは。十六、この数が何を意味するか分かるか」
謎の人物の発言に対して俺達は何も答えはしなかった。
「お前たちがこの場に来るまでに私がトドメを刺した人間の数だ。
人々を護ると口にしておきながら何も成し遂げられない。
後悔先に立たず、もっと最適な事を考え行動・発言するべきだ」
「....」
アイオスさんの手に炎が灯る。
魔法か!?
格闘士だと思っていたから意外だ。
「あの子供にも言ったが大口は叩くべきではない。
私がこの国に降り立った今、お前たちの選択肢は降伏の一つのみ」
「んな選択肢選ぶわけねぇだろ!! 『燃衝撃』ッ!」
駆け、拳を突き放つアイオスさん。
同時に炎が一直線に謎の人物に接近していた。
「見た目にしては意外にも知力的な戦闘スタイルのようだ」
謎の人物は剣先を炎に向けた。
すると炎は剣を中心に二分され謎の人物に当たることはなく後方に流れていった。
「俺の技を剣で流しただと?」
「あの影人の剣...」
ルナがぼそっと言った。
「どうしたんだ?」
「いえ、ただあの影人の持っている剣に魔力が纏っていたから少し気になって」
剣に魔力が纏う。
そうすることで魔力量・技量にもよるが魔法の魔力と対抗する事ができる。
剣士の弱点を消失させるような力である。
剣に魔力を纏わせる方法は確かいくつかあった。
ひとつはルナの様に精霊を使うこと。
もうひとつは一定量の魔力と、魔力維持の高精度・卓越した剣技を会得すること。
もうひとつは魔剣だ。
精霊ならばルナが既に見る事ができているし、俺も感じとって見る事ができる。
でも見れないということは精霊ではないということだ。
となると残された選択肢は二つ。
技術か魔剣だろう。
「オラァ!!」
アイオスさんが何度も謎の人物に殴りかかる。
だが謎の人物はその行動を読み、剣で防ぎ、躱している。
しかし反撃はしようとはしない。
まるで何か様子を伺っているかのようだ。
「!?」
ルゴールさんがいきなりビクッとした。
「また何か来るぞ。場所まではわかんないが。理由のわからないところから力を感じる」
「くっ...」
アイオスさんが飛ばされたが地面に対して力をいれてなんとか止まった。
「後悔が好きなようだ。ならばとことん後悔させてやろう」
謎の人物はそう言うと一瞬で剣を振る。
俺達は状況が理解できなかった。
剣を振った瞬間に見えたモヤ。
わずか一秒にも満たない速度で現れ消えたほどに一瞬だった。
「ッ!!!!?」
瞬きで目が閉じようとしていた時、瞼の隙間から見えたアイオスさんの目の前に立つ謎の人物の姿。
いつの間に移動したのかもわからない。
「グッ....」
ブシャッ。
そんな嫌な音が目を閉じている一瞬で聞こえた。
次に目を開くと近くに謎の人物の姿は無く、距離を取っていた。
ポタポタと垂れる何かに気がついた。
あれは血だ。
「アイオスさん、大丈夫ですか!!」
「チッ、これくらい」
アイオスさんは目を抑えていた。
その抑える指から血が滴っていた。
「アイオス、まさか目をやられたのか」
「だから大したことはねぇ。まだ右目なら機能している」
謎の人物は二回剣を振った。
「私はそろそろ目的を達しなければならない。だからこの戦いはここまでだ」
謎の人物の左右に黒い大きなモヤが現れた。
その中からは続々と影人が現れだした。
「お前だったのか...影人を出していたのは!!」
「ふっ。だから何だ。嫌なのなら私を倒して止めてみると良い。
ただ後悔はないようにな」
クロノスさんが強く剣を握る。
「さぁ、オルグセイラの終焉を見届けよう。
最後まで後悔が残らぬように徹底的に、壊滅的に、全てを消し滅ぼそう」
謎の人物はその禍々しい剣を鞘にしまいこんでそう言ったのだった。




