第56話【俺達の敵】
あの影人の襲来から三日ほど経過した。
「ルディア...どうして...まだ早いよ...」
「ルディアは死んでないからっ!!」
サユの発言に怒るルディア。
ルディアは今ベッドに座っている状態だ。
「少し元気になってきたようで良かったです」
「心配してくれてありがとっ」
他の影人よりも明らかに異様な気配をしていた影人が去ったあと、俺達は急いで倒れたルディアさんのもとに集まった。
あの時のルディアさんの状態は非常にまずい状況だった。
影人の最後の一太刀はルディアさんがタイミング良く後方に倒れだしていたこと、相手も咄嗟に剣を振っていたことで傷は浅めだった。
それでも出血は酷かった。
さらに戦闘中に負ったであろう傷。
それは酷いもので足は折れ、あちこちに痣やら擦り傷が出来ていた。
その場はサユが治癒をしたが完全に治癒することは出来ず、出来ても擦り傷を消したり出血を止めるくらい。
折れてしまった骨をもとに戻すことは出来ない。
また頭にもダメージを喰らっていたようで、疲労と合わせて気絶状態だった。
そして今は第一箇区にある小さな治癒院でこうして安静にしている。
ここに在中している治癒士によると今後過度な戦闘は出来ないそうだ。
動く事自体は出来るみたいだが高速移動が得意なルディアさんが戦闘で力を使い過ぎてしまうと足に負担が掛かりより酷い状態になってしまうそうだ。
「あの時はすまなかった。アイオスと一緒に周辺の見回りをしていて駆けつけるのが遅れてしまった」
「こいつが連れ出したせいでもあるが、悪かった」
「私もすぐ伝えれば良かったが戦闘に集中しすぎてしまった。申し訳ない」
クロノスさん、アイオスさん、セカリアさんが揃って謝った。
三人のその姿を見て一瞬きょとんとした様子のルディアだったがその後すぐに反応した。
「ううん、皆は悪くない、誰も悪くないよ。
それぞれがオルグセイラの為に行動した、だから今日もこうして平和があるんだから。
だから気にしないで。
あ、でもルディアの分もこれから頑張って欲しい!!」
ルディアの言葉を聞いて三人とも頷いた。
「ネリア達やその他のみんなはいつもこの世を去ってしまったけど、こうしてルディアが無事で居てくれて僕は嬉しいよ」
「ふふーん、なんせルディアはネリアさんに認められた女の子だからねっ!」
クロノスの言葉にルディアが自慢げに反応した。
パンパン。
部屋全体に握手の音が鳴り響く。
音が鳴った方を見るとそこにはカイロネスさんが立っていた。
「感動的な話をしているところ邪魔をしますがこの状況を重く捉えた方が良い、と私は思うが」
「せっかくこうして無事だったのにどうしてそんな事が言えるんだ」
レインがカイロネスさんに強気に言った。
「ふっ、無事? どこがだ。
身体は治癒不可能な程疲弊し、さらには骨が折れたときた。
そのせいで今後の戦闘に参加出来ない。
時秩衆の実質的に戦闘が出来るのは三人だけ。
この状況で悠長に平和な会話をしている時間などないと言っているだ」
三人...?
ルディアさんは勿論戦闘が出来ない。
クロノスさんは剣を持っているから戦闘が出来る。
警護のアイオスさんは勿論のこと、セカリアさんもあの時の戦いっぷりを見たら分かる。
ということはカイロネスさんは自分の事を含めていないのか?
てっきり時秩衆は全員、戦えるものだと思っていたが違うようだ。
「カイロネスさんの言いたい事も分かるけど今はそんな話を言いに来た訳では無いんですよね。
そんな事を言う為にわざわざ反対側まで赴く事なんて一度もありませんでしたし」
クロノスさんが言うとカイロネスさんは笑った。
まるで全てお見通しなのかと言わんばかりに。
「あぁ、勿論。
あの戦いの後、私は第二箇区から第一箇区のありとあらゆる場所を調査した。
その結果、いくつか分かったことがある。
一つは、第一箇区での事だ」
カイロネスさんは近くの椅子に座った。
「影人の移動手段は主に二種。地面を走るもの、飛行するものだ。
そもそも奴らが影人と呼ばれだしたのは遥か昔の事。
初めて見た者達が奴らを人間のような見た目をしていた事から名付けられた。
しかし現代では人間とは似ておらず、もはや魔物の様な存在。
ま、あこの話はどうでもいいとして、私は歩行を移動手段とする影人に着目した。
一体どこからやってきたのかを知る為に。
セカリアが戦闘していた位置からさらに進み第三箇区に近い場所で影人らしき存在が力強く地面を踏み込んだあとを見つけた。
それ以降には存在せず、その場所を境に第二箇区に向けて点々と同様のものも見つけた。
つまり...奴らは外部から侵入しているのではなく突如としてこのオルグセイラに出現しているということだ」
突如として...?
そんな事が可能なのは転移魔法とかだろうか。
いや、転移魔法を使えば大規模な魔力放出が発生し周囲に光を発生させる。
それは目的地も同様。
つまり転移魔法を使ったのであれば誰かしら存在に気づくというわけだ。
「二つ目はこれだ」
カイロネスさんは服の中から千切れた布の様な物を見せてきた。
その布には尖った三角形の様なものがある。
それは黄色で塗られている。
「これは一体なんですか、カイロネスさん」
クロノスさんが聞くと再びカイロネスさんは立ち上がり、俺の方へと近づいてくる。
「私はクロノスが取り寄せている記事である程度の情報を知っている。
そんな私が言おう、この布の柄、貴様達が一番良く知っているものだ」
俺達がよく知っているもの?
「あ、お花!!」
「違う」
黄色で尖った三角形の柄...?
一体何だ。
見当もつかない。
「...っ!?」
いきなりルナに指で突かれた。
「なんだよ」
「わからないの?
「ルナは分かったのか?」
「えぇ、何となくね」
「教えてくれよ」
「私も許せない相手、そしてクライ達を引く離した存在」
「まさか!? 協会??」
カイロネスさんは布を服の中にしまった。
「その通りだ。布の素材を高価なものを使っている、この時点で協会の人間である可能性が高いはずだ」
「でもどうして協会はルディア達の事を、この国を狙って来るの?」
「理由は明白だ。私達オルグセイラが協会のものにならないからだろう。
まぁ、他にも何やら深いしがらみもありそうだが、これに関しては憶測に過ぎない。
ただ分かることは協会が何百年にも渡って、この国、あるいはこの国にある何かを狙っているという事だ」
オルグセイラを狙っていないのだとするとやはり噂に聞く魔剣を狙っているのだろうか。
それにしても何百年も追っているとは...。
確か協会はかなり大昔、魔物が出現し始めた時代より存在していると聞いた事がある。
協会は何世代にも渡って崩壊、再生を繰り返し今の協会があるとか。
「よりよって何百年の間の敵が協会だなんて。それじゃあ僕達がサトゥールヌスの意志に従い協会の拒み続けてきた、それこそが多くの人々の命を奪った原因...」
「それは違うな」
アイオスが言った。
「ここで協会に賛同すれば俺もお前も、全員の命が助かるかわからねぇ。
少なくともこれまで最悪の事態を免れてきたんだ。
時秩衆が紡いだ時は無駄じゃねぇ」
「アイオス、君からそんな真面目な言葉を聞いたのは初めてだ。
でもその通りかもしれない。僕達はこれからも同じ様に時を紡ぐんだ。
決して僕達はリクシアに負けはしない...!」
リクシア...?
「話は聞かせてもらった」
扉を開けていきなり入ってきたのはルゴールさんだった。
「協会の話をする上で俺は欠かせないよな。
率直に言う、反協会派に協力し、協会を倒して欲しい」
「だけど僕達に影人が」
「それも協会の人間かもしれないんだろ? 遅かれ早かれ協会がしようとしている事を阻止する必要がある。その為に戦いは避けて通れない。
俺達反協会派は出来るだけ多くの人材を集め来る時に備えたいんだ」
阻止。
協会は何か企んでいるのか?
「それに協会はオルグセイラやその他の協会を拒絶する国に対して嫌がらせの様なこともしている。
現にこの国には国外からの来訪者が少ないだろ? それは全て協会だ。
現状を変えない限りいずれこの国は滅ぶ。それは君達が最も望まない事なはずだ」
五人は黙り考え込んでいる。
「クライド達もそうだ。時代が何度も変わる程の間、支配してきた協会。
しかし時代はもう変革を求めている。支配されるだけではだめだ。
彼らが長い時間を掛け企んでいる出来事を明るみにだし、終焉を迎えさせる。
どうだ、協力してはくれないだろうか」
あの強大な協会を滅ぼす。
それはきっとどんなことよりも無謀なことなのかもしれない。
でもやらなければまたヘルベティオスの時のように奴らは襲ってきて俺達はバラバラにする。
もう二度と皆と離れるなんて御免だ。
その為にはやるしかない...。
「「「「「やります!!」」」」」
俺達五人は同時にそう言った。
正直他の皆もそれほどまでにやる気だなんて思ってもいなかった。
「まずは影人だね、お兄ちゃん。勝つよ!」
「あぁ!!」
俺達はすぐに答えをだしたが時秩衆は中々口を開かない。
彼らも正体を知り内申穏やかではないのだろう。
そんな中、ルディアが口を開いた。
「ルディアに何が出来るんだって話だけど協力したい。
この国を本当に平和にさせる方法がそれなら、ルディアは全力で協力したい!」
その言葉を聞いた他の四人は深呼吸をした。
「私も手伝おう。全ての恨みを晴らせるのなら」
「強い奴と戦えるのなら構わねぇ」
「私は研究職なので戦闘面では役に立てはしないが真実を導き出すのが研究者の役目。
協会の陰謀でも解き明かそう」
全員の視線がクロノスさんに向く。
「時秩衆の僕ではない僕の意見からすると正直、協力する気にはなれない...。
でも時秩衆として僕は使命を全うしなければならない。
そこに私情なんてものは関係ない。だから最低限は協力しよう。
この国を救うため。サトゥールヌスが歩んだ時の続きが途絶えないためにも」
きっと今もどこかで協会の犠牲になっている人がいるのかもしれない。
そんなんじゃ、この世界はいつになっても平和になりはしない。
だから俺達が、立ち上がり変革を齎す。
「まずは影人の根絶だな!!!」
サトゥールヌスの歩んだ時の続きとは違うところで俺達だけの新たな時が紡がれる、そんな予感がした。
それが新時代なのだと信じ俺達は互いに見つめ合った。




