第55話【後悔との闘い】
「今宵、この国は戦火に包まれる。それはどれだけの時間が過ぎようとも抗う事の出来ない未来だ」
「抗える! ルディア達が諦めない限り!!」
「あまり大口を叩くべきでない。後々後悔の重みが増すだけだ」
「実現出来るからルディア達は語るの。そこに嘘偽りなんて無い」
ルディアは右手の手のひらを地面に向けた。
すると一瞬光り輝き、ルディアは手を握った。
「魔力の流動から魔賦者かと思っていたが思い過ごしか?
それにしても双刃槍とは珍しい武器を使う人間だ」
「...ッ!!」
ルディアは地面を強く蹴った。
残像が見える程の速さで謎の人物に近づいていく。
「...」
謎の人物はルディアの双刃槍を剣で受け止めた。
だが謎の人物は受け止めたあとズルズルと後方にズレ動き、最終的には飛ばされた。
すぐに立ち上がり、ルディアを見つめた。
「異常な速さ、驚異的な力。お前の魔賦者の能力は身体強化の類か。
それにしてもこの力強さ...いや、それならば勝てる話か」
「もういっちょ!」
高速で移動したルディア。
一撃、謎の人物は受け止める。
しかし今回は一撃だけではなかった。
双刃槍を回転させ突いた。
「...っ」
ドンッと後ろに謎の人物を退ける。
「槍も特殊とは。片方の刃は剣の様に斬り裂けることが出来、もう一方の刃は本来の槍の様に突き刺す事が出来る...」
「そうだよ。ルディアは背が他の時秩衆よりも小さいからこうしないと影人を屠れない。
だけどこの形状にする事でルディアのスピードがより活かせる。こんな風にね」
再び謎の人物に近づく。
剣を構えた謎の人物は『こちらを向く刃は突き』とルディアの行動を先読みした。
だが振る直前でルディアは双刃槍を回転させ剣の刃に変え、謎の人物に攻撃した。
突きの守りの体勢を取っていた謎の人物はそれを防ぐ術はなかったが片手に拳を作り、それをルディアの腹部めがけて打ち付けた。
「うぐっ」
勢いが落ちたルディア。
謎の人物はそこに蹴りを入れようとした。
ルディアは間一髪のところで双刃槍で受け止め直撃する事なく吹き飛んだ。
「槍の刃、剣の刃、対応が異なる攻撃。攻撃される寸前までどちらか分からない。
たとえどちらかの守りの構えをしていようとも寸前で攻撃を変えられたら防ぐのはそう容易ではない」
謎の人物は一人で呟いた。
「ならば――」
「ハっ...!?」
一歩足を進めた謎の人物、剣を下から上に振り上げた瞬間、ルディアの目の間に立っていた。
「こちらから迫るまでだ」
「くっ...」
振り下ろされた剣をなんとか受け止めているルディア。
だが徐々に押され限界が迫っていた。
「もう....」
力の限界によりルディアの腕はプルプルと震えだした。
その支えが折れるのはもはや時間の問題であった。
そんな時、ルディアの瞳に祈りを捧げる人、怯える人、子供も護る大人達の姿が映った。
(こんな所で諦めてはいけない。
ルディアの後ろには未来に進むべき人達がいる。
押し返せ、時秩衆のルディア・ディレイア)
彼女の心の中で新たな火が灯る。
「『旋嵐双牙』っ!!」
双刃槍は嵐の如く高速に回転し、幾度となく謎の人物の剣を打ち付ける。
「ルディアは絶対に勝つ!」
「また後悔を増やす気か」
押し返したルディア。
二人は双刃槍、剣の激しいぶつかり合いを始めた。
双刃槍で突き、剣で守られる。
剣で振り掛かり、双刃槍で受け止める。
「忠告を無視するのは愚かな行為だ。
私の言葉を理解し行動にする事が出来ればお前は二度苦痛を味わう事はないというのに」
「ルディアは聞かないよ。その言葉でルディアを揺さぶろうとしている事だって分かってるから!」
バッと動きを変えるルディア。
右足で強く地面を踏み込み、左に大きく動く。
先についた左足で再び強く地面を踏み込み、謎の人物の横から狙った。
「どうした。がら空きな攻撃だな」
「『残影穿』」
ルディアの槍の刃の突き。
同時に謎の人物の剣が振り下ろされた。
しかし謎の人物の振り下ろした先にはルディアは既に立っていなかった。
「それは本当のルディアじゃないから!」
「...!」
謎の人物の左側に移動していたルディア。
謎の人物の腹部を狙った。
『行ける。
奴は隙だらけ、おまけに剣は右側。
突き刺せ、この槍の刃で』
「ふ」
謎の人物は鼻で笑った。
剣を一振り、その瞬間、謎の人物の姿は消えた。
ルディアの力強い槍の刃は対象を失い、威力が下がり体勢が崩れた。
「今何が...」
「不意の攻撃、それどころかお前の全ての攻撃には意味がない」
謎の人物はルディアの背後に立っていた。
『まずい、このままだと。
早く体勢を立て直さないと』
ルディアはそう思ったが遅かった。
謎の人物は足でルディアの背中を下に蹴り落とした。
「ウハッ」
ドンッと鈍い音が響く。
(呼吸がしづらい。
心拍も早まってる。
足も手も背中もあちこちに痛みが制限なく広がるのを感じる。
頭も痛い。
何かを考えるだけで痛みが走る。
骨が折れた)
ルディアは涙を流す。
(もうルディアじゃ、勝てない。
こんな状態で勝ち目なんてないよ)
「だから言ったのだ。大口を叩くべきではないと。
後悔は最小限にするべきだ。人生とは後悔の数を減らす旅。
世を去る時、ひとつの悔いも残さず散る為に生きるのだ」
「...っ」
(そうだ、この男の言う通りなのかもしれない。
これ以上後悔を増やして死んだって何の意味もないよ。
でも...ルディアがここで本当に諦めたらどうなっちゃうの。
ルディアが、時秩衆達が紡いできた今までが無駄になっちゃう。
そんなことになったらルディアは人生最大の後悔ができちゃう。
人生最大の後悔を生み出して死ぬなんて絶対に嫌だ。
ルディアは...)
「止めてください!! 殺すなら私を!!」
「お前達は護るものが多くて大変だな。同情しよう。
それと私は優しいからな、後悔が無いよう二人ともあの世に向けて散らそう」
「え...。嫌だ、止めてください!!」
謎の人物は子供の首を握り持ち上げている。
その足元で懇願する母親。
その時、ルディアがゆっくりと立ち上がる。
額から血を流し、呼吸するのもやっとでゼェゼェと荒い呼吸をしている。
(ルディアは、後悔を残さず死ぬためにお前を倒す)
そう心の中で叫んだ。
「ああああああ!!!」
ドンッと踏み込み走り出したルディア。
「その我慢強さは認めよう。
だがこうも冷静さを欠くような感情的な行動は認めたが残念に思う」
「うるさいんだよッ!!」
全ての勢いが双刃槍に乗りかかる。
空気を切る音が鳴り、ルディアが一歩次に足を進めた時には謎の人物の目の前に立っていた。
「惜しいな。速度は申し分ないが鍛錬が足りない」
「あぁぁぁあああ!!!」
謎の人物はルディアの攻撃を剣で受け止めようとしていた。
そしてついにルディアの槍の刃が謎の人物の身体の寸前まで迫った。
槍の刃の先端の先には剣の刃があった。
だが次の瞬間、槍の刃は謎の人物の剣の刃の隣にズレた。
「なっ...?!」
『剣の刃と掠る程の距離感だった槍の刃が移動した。
いやまるでもとからそこに刃が無かったかのように』
「グハッ」
謎の人物の腹部に槍の刃が突き刺さる。
「ルディアの..勝ちだよ」
「己ッ!! 離れろ!!」
槍を突き刺された状態の謎の人物。
これ以上の負傷を避けるためにいち早く槍を刺すルディアをどかしたそうにしていた。
しかし剣を持つ腕が隠れていた人々に抑えられ、子供を掴んでいた腕は子供ががっちりと力強く掴み離そうとしない。
その間にも少しずつ、ルディアが槍を刺している。
「この国の責任を全て時秩衆だけに押し付けるわけにはいかない。
私達だって、これまで護られてきた分を返さないと!!」
「僕はこのおねぇちゃんに何度も助けられた。だから今度は僕が助けるんだ」
(この人間共。
知りもしないただの少女を庇うと言うのか。
もしかしたら自分が死ぬかもしれないというのに、そうなれば後悔しか残らないというのに。
こいつらは何故だ)
謎の人物は必死に足掻く。
「ルディア!」
「あいつはっ!!」
「ルディア!!!」
その場にクライド、ミーシアス、サユ、レイン、ルナシーラ、ルゴール、セカリアがやってきた。
そして道中で会ったクロノス、アイオスもやってきた。
(時秩衆が来た。
赤いリボン...黒い鞘...。
そんな事はどうでもいい。早くこの場を離れなければならない)
謎の人物はさらなる敵が来た事で焦りだした。
「この子供がッ!!」
「うっ...」
謎の人物は子供の首を更に力強く握る。
だがそれでも子供は離そうとしない。
次第に子供の握る力は弱まり、謎の人物から離した。
「これで...」
子供を投げ捨てた謎の人物、剣を持つ腕にしがみつく人間をどかそうと動き出したその時、迫るクライド達に気づく。
「離せッ!!」
謎の人物はルディアの顔を殴った。
意識が飛かけるルディア。
ルディアは夢を見ていた。
***
「ネリアさん!」
『どうしたの?』
ネリアににじり寄り、立っているネリアの顔を見るために見上げた。
「ルディアは皆を護れたの...?」
『えぇ、貴方はあの場に居た三十二人の人々を救ったのよ』
「良かった...託されたものを護れたよ...」
『良くやったわ。私の誇りよ』
ネリアは優しくルディアの頭に手を置いた。
『でも貴方はここで死んではだめ。まだ闘いは終わっていないわ。
たとえこれから戦えなくなったとしても次に繋げる為に全力を出すのよ!!』
「それは後悔しない? もし戦えなくなって..未来で皆が救いを求めている時に救えなかったとしても?」
『えぇ、貴方が時を絶やす事なく繋げ託すことが出来れば、きっといつの日か影人を根絶する事が出来るわ。いつの時代も同じ様にそして私が貴方に託したように、紡いだ時が無駄になる事はないのよ』
「...わかった。ルディア、頑張るよ」
『ずっと見ているわ。きっと貴方の両親も喜んでいるはずよ』
「うん...!」
***
「離せェ!!!!」
「私は時を紡ぎ護る時秩衆のルディア・ディレイア! ルディアの人生は今次の為に繋げる! ルディアと戦った事を後悔しろ!」
「己、まさか!!」
ルディアは最後の力を振り絞り双刃槍を握る。
「『穿孔連破』!!」
既に突き刺さった状態で更に槍が一度、二度とズンズンと突き進んでいく。
最終的には身体を突き抜けた。
「もっともっと...」
だがルディアは既に力の限界だった。
そして謎の人物は人間をどかし剣を振った。
剣は槍を握っているルディアの小さな身体を一直線に斬った。
ルディアは後ろに倒れた。
謎の人物は槍を勢いよく抜き投げ捨てた。
「くそ...良くも」
腹部からは大量の血が流れ、口に溜まった血を吐いた。
謎の人物は迫ってくるクライド達から距離を取った。
「ルディア!!」
「お前ェ!!! 『加速』!!」
剣を抜き加速するクライド。
「次は殺す。絶対に後悔させてやるからな」
謎の人物は剣を振った。
すると何も無い空間に円形の黒いモヤが現れた。
「次に殺されるのはお前だ!! この影人がッ!!」
謎の人物は黒いモヤへと消えていったのだった。




