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第54話【影人襲来】

「お兄ちゃん、あれ買って!!」

「仕方がないなぁ」

「あ、あれも美味しそう!」

「なら買うか!」

「あの串焼き、いい匂いだよ!」

「よし、買うか」


 何度も布袋から硬貨を取り出し、何度もサユの欲しそうなものを購入した。


「この短時間で兄妹じゃなくて金づるになったのね」

「いや、違う!」


 サユがこれ以上傷つかないようにする為にそして今回傷ついた分を償う為にやっているのだ。

 決して金づるというわけではない。


「じゃあ、私もあれが欲しい」

「友達として奢ってやるよ」

「あ、ありがと」


 欲しがったものをルナに渡した。

 

「ク、クライドさん、私も欲しいです!」

「いいぞ」


 ルナと同じものをミーシアスに渡した。


「なら俺はあのお面がほしいな」

「自分で買えよ」

「なんでだ! おかしいぞ、他の三人には買ったのに」

「それは、あれだ。あれ」

「ケチ」

「レインが言うとなんか嫌だな」


 まるでサユが言いそうなセリフを言ったレイン。

 なんとも不気味だ。


「そう言えば、クロノスさんアイオスさん、ルディアさんには会ったけど残りの二人には出会ってないよな」


 レインの言う通りだ。

 カイロネスさんは「研究に関係のない事には興味などない」と言って来ないだろうけどセカリアさんは来ていそうな雰囲気だ。

 しかしどこにもいない。

 姿も気配すらもいない。

 もしかして本当に来ていないのだろうか。


「まぁ、忙しいんじゃないか...」


 そう言葉を口にしたとき、どこからともなく爆音が鳴り響く。

 人々は地面にしゃがみ込み、叫び怯える。

 花火の誤爆音かと思ったが既に花火は上がっていない。

 となるとこの音の正体は。


「一体何が起こっているんだ!」

「わからないわよ。でも逃げた方が良さそうね」

「北東方面だ」


 ルゴールさんがこちらにやってきてそう言った。


「ルゴールさん、どうしてここに!」

「説明をしている暇はない」


 ルゴールさんは北東方面を見て、辺りを見渡している。


「やはり...三十五体以上がこっちに向かってきている。一人が交戦中だ」

「どういうことですか」

「行くぞ」

「あ、え、ちょ」


 ルゴールさんは走り出した。

 俺達は何の事なのかさっぱりしないままルゴールさんの跡を追う。


「あの植物みたいな枝は!」


 建物の屋根上に見える複数の枝のような何か。

 それは飛行する存在を貫いているようにも見える。


「もしかしてだけど影人が来たなんて事じゃないわよね」

「理解が早いな。まさにそういう事だ。

 今ここでお前らが剣を、杖を突きつけない限り第二箇区に侵入され多くの死者が出ることになる」


 北東方面。

 つまりは第三箇区の方ということだろう。

 俺達はまだ第二箇区にいる。

 あの植物のような枝は第一箇区から伸びている。

 影人がそこまで迫っているということなのだろう。

 アイオスの率いる団は第一箇区から離れている。

 状況の把握、そこから向かうまでには時間が必要なはずだ。

 第二箇区への侵入を防ぐ為には俺達が戦うしかない。


「お兄ちゃん、あれ見て!!」


 サユが指さす方向。

 見える範囲を狭めていた家々を抜けた先でひらけた場所で一人の緑髪の女性――セカリアさんが戦っていた。

 地面から芽を生やし、それは急速に成長して枝となり、その枝は迫る影人を次々と突き刺していた。


「セカリアさん!!」

「貴方達、何故ここに」

「こ、こっちに来ます!!」


 セカリアさんを通り抜けた影人がこちらに迫ってくる。

 当たり前の様に飛行している影人もいる。

 本当に何なんだこいつらは。


「魔力...クライ、あいつら魔力を保有しているわよ」

「あぁ、見える」


 影人は魔力を一般的な冒険者魔法士程度の魔力を保有している。

 だがそれなのにも関わらず奴らは魔法を使わない。

 使えないのかは分からないがまるで知力がないようだ。


「やるぞ、『大剣化(グレートソード)』」

「そうね」

「あぁ、ここから先には行かせない」

「土の精霊よ、我が敵を射る弾丸となれ。『土弾(アースバレット)』、絶対に通しません!」

「私は全力で皆をサポートするっ!」


 俺達はそれぞれ散開し、影人に立ち向かった。


「おらぁ!」


 馬鹿の様に突進してくる影人は一振りで落とせるが、飛行する影人が厄介だ。

 俺の剣では落とすことが出来ない。


「『大剣斬撃(グレートスラッシュ)』」


 レインが大剣を大きく振ると斬撃が飛び、それは飛行する影人を同時に何体も落とした。

 さすがレインだ。

 飛行する影人に対してならミーシアスも負けていない。

 幾度と無く魔法を発動し、サユを守りながら戦ってくれている。


「んっ!」


 ルナがこっちにズルズルと滑ってきた。

 

「大丈夫か!」

「ちょっと別の影人が来て反応が遅れただけよ」

「そうか、大丈夫なら良いんだけど」

「良い? 足引っ張らないでよ」

「最初は俺を稽古しようとしていた奴のセリフか?」


 俺達は同時に走りだし、迫ってくる何体もの影人に向かう。


「『加速(アクセラレーション)』。

 『穿破(せんぱ)』!」


 加速した俺は前に剣を突き出しそのまま何体も影人を突き刺していく。

 そして最後に穿破(せんぱ)で前方に残っている影人を狙った。


「『疾斬(ゲイルスラッシュ)』」


 ルナは何度も剣を振り風の斬撃を影人に打ち付けている。


「はぁ、ルゴールさん、三十五体以上って言ってたけど結局正確には何体なんだ」

「そんなの考えたって仕方がないわよ」


 横にやってきたルナ。

 後ろではレイン達が戦っている。

 特にセカリアさんは俺達の何倍もの量の影人と交戦している。


「ところでさっきの話だけど、成長したクライへの師匠からの有り難いお言葉だったんだけれど」

「そうなのか? 俺にはそんなのはいらないな」


 俺は次の影人のもとに走り出した。

 

「ちょっと待ちなさい」


 ルナもついてくる。


「最終が来るぞ!!!」


 ルゴールさんが大きな声で言った。

 最終? 恐らくこの影人の襲来の最後の部隊的なものなのだろう。

 あと少しで第二箇区を守れる。


 そんな事を思っていた。

 しかし実際の光景はそう甘くはなかった。 

 目の前に迫る影人。

 見ただけでも五十は優に超える。

 それら全ては飛行しているのだ。

 その高さもこれまでの影人よりもやや上を飛行している。

 レインの斬撃でもしかしたら当たるかもしれない、そんなレベルの高さ。


 俺はあれに対してもはや何も出来ない。

 あの影人をどうすれば。


「行かせない」


 セカリアさんが周囲に居た影人を突き刺し消し去った。

 そして上空を飛び影人を見た。


「手伝ってくれた事、感謝する。ここからは私があの影人を止める」


 そう言うとセカリアさんは手を広げた。

 すると手のひらに小さな球体、まるで種のようなものが複数個出現した。

 セカリアさんはその種の様なものを上空に向けて投げた。


「『穿枝瞬種(ゲルメナリア)』」


 すると空に放たれたいくつもの種がバンッと音を鳴らしたかと思えばそれは一瞬にして成長し、枝が密集して飛行する影人を次々に突き刺していく。

 気づけばあっという間にあの絶望的な状況は過ぎ去っていた。


「す、凄すぎる。一体今のは何だったんだ...」

「魔法であんなことができるなんてね」


 そんな会話をしながら俺達はみんなのもとへ歩いていく。


***


「ルゴールさん、これで影人はもういないですか?」

「あぁ、今のところはもう――ッ!」


 ルゴールさんは何かを言おうとしていたがやめた。

 どうしたのだろうか。


「まずいことになった」

「え?」

「第二箇区に、現れた――」


***

***


 第二箇区。

 

「はあ...はぁ...」


 体から血を流すルディアは激しく息がきれていた。


「邪魔をするのならばそこをどけ」

「それはこっちのセリフだよ、ルディアたちの人生に邪魔しないで!!」


 中心は白くその外側は黒い、特殊な剣を持った謎の人物。

 全身は黒で統一され、顔は隠されている。


「まぁ、良い。せいぜい護ってみせろ」

「もちろんそのつもり...今度は絶対に、好き勝手にはさせない!! 必ず皆を護ってみせる!!」

「貧弱な身体でどこまでやれるか、己自身でも理解出来ていないとは何とも愚かな子供だ」

「言っておくけどルディアは子供じゃないよ、これ五十回目だから。

 五十回目は絶対に許さない。ここからは絶対絶対本気だからっ」


 謎の人物はルディアの事を直視し続けていた。

 周りでは多くの子供達が逃げそびれて隠れている。

 この状況、派手なちからも使うことができないルディアにとって不利でしかなかった。


「はぁ...はぁ...」

「その調子では限界も近いようだな」

「まだだよ...」


 ルディアは深く呼吸をしてキリッと謎の人物を見つめた。


「この街は、この国はルディアが護る。だから、来い、影人っ!」


 謎の人物はその言葉を鼻で笑ったのだった。

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