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第53話【あなたのために】

 これが夜祭。

 あちこちに張り巡らされた火の灯り。

 様々な屋台が立ち並び、子どもから大人まで沢山の人々で賑わっている。

 その光景は前に来たときとは全く違うものだった。


「あ、皆も来ていたんだね」


 どこからか声が聞こえてきた。

 辺りを見渡すと人混みの中からこちらに向かってくるクロノスさん、そしてその隣にはアイオスさんがいた。


「ルバートさんに教えてもらったんです」

「あはは、ルバートはこの祭りが好きだからね。毎年欠かさず行っているんだよ」


 俺はアイオスさんの方に視線を移動した。


「なんだ?」


 前会った時のような気迫で言ってきた。


「あ、いや、その、アイオスさんもこういう祭りは来るんだと思いまして」

「俺はただの警備だ」

「アイオスは素直じゃないから、嘘だと思っていいよ」

「勝手な事をべらべらと喋るな。俺はもう行く」


 アイオスはどこかに歩き始めた。

 クロノスさんも追って離れていく。


「それじゃあ、夜祭を楽しんでくれ!」


***


 クロノスさん達と別れて数分。

 今度はルディアさんに出会った。


「やあやあ、きみたちも来てくれたんだ! ルディアは嬉しい!!」

「第二箇区がいつも以上に賑わっていて凄いですね」

「でしょ〜。前に見た子供達だってほら!」


 ルディアさんが指をさした。

 そこには子供達が協力して飲み物を販売している屋台があった。

 しかも長蛇の列。


「この祭りは子供達が皆で力をあわせて何かを成し遂げる、そういう場でもあるんだっ!」

「ルディアさん達は何か出店とかやらないんですか?」

「いやぁ...大変だからね!」


 絶対に面倒くさいからやりたくないだけだろ。

 そう思える様ななんとも言い難い表情をしていたルディアさん。


「まぁ、とにかく楽しんでよ。きみたちがいつここを出るか分からないけど、せっかくだし色々見て楽しんでっ! じゃあ、ルディアは子供達のことを見てくるね」


 そう言って大行列の誘導のサポートに向かっていった。

 それにしてもルディアさんがあの中に入ってもぱっと見だと子どもしかいないように見えるな。


***


 第二箇区に向かっていた時はまだ少し明るかったが今はすっかり暗くなってしまった。

 提灯の灯りが街を照らしている。


「ちょっと何か買ってくるわ!」

「わ、私も何か買いたいです!」

「そうね。あなた達二人だと心配だから私もついていくわ」


 そう言って三人は屋台巡りに言ってしまった。

 残された俺とサユは近くのベンチに座り、灯りの中行き交う人々を静かに見つめていた。

 こうして二人でいるのはかなり久しぶりかもしれない。

 あのダンジョンに行ってからミーシアスと出会い、そしてレインとも出会った。

 そこから様々な出会いをしていく中でこうして俺達兄妹の時間も減った。

 でも兄妹と呼べる資格はもうないか。

 だって俺はそもそもこれ以上迷惑をかけたくなくて、サユが立派になってほしくて、離れてもいいと思っていた。

 今更、兄妹なんて...。


「お兄ちゃん、私怒ってるからね」

「え」

「前にお爺ちゃんから色々聞いた。私達が血が繋がってないこととか、お兄ちゃんが私の為に人生を費やしてくれたこととか。全部」

「あぁ、ごめんな。理想の兄になれなくて」

「いいんだよ、そんなの! 理想とか私の為とか、そんなの良いんだよ!!」


 サユが今までに聞いた事ない程に声を荒げていった。


「だってお兄ちゃんはお兄ちゃんじゃん...。どんな出会いであれ、どんな人生であれ、私にとってお兄ちゃんはクライド・アンサラーただ一人なんだよ。

 私はお兄ちゃんの妹としてずっと傍にいれて幸せだったんだよ...。

 それを簡単に否定しないでよ」

「サユには治癒士としての才能があるんだ。だけど無能の俺といつまでも一緒にいたらお前の将来がどうなるかわからないだろ! 俺はサユに幸せになって欲しいんだよ。わかってくれ」

「だからお兄ちゃんの傍にいることが幸せだって言ってるじゃん! なんでわかってくれないの!!

 私が本当の血の繋がってない妹だから一緒にいちゃだめなの?」

「それは...違う。でも俺はサユが俺のせいで人生の足枷になることが嫌なんだ」

「何も分かってないよ。お兄ちゃん。

 私が最初から治癒魔法を使いこなせるわけないじゃん...私は、私はっ!」


 何を言っても俺の話を聞こうとしないサユ。


「俺から離れてくれ」

「....っ。そんなの無責任だよ。

 お兄ちゃんが私を助けたんだよ。お兄ちゃんが私の人生に入ったんだよ。

 なのにどうして突き放すの」

「サユ、お前はもっと上を目指せるんだよ。

 未来を見ろよ」


 サユは立ち上がって涙を拭った。


「私は今が良いの! お兄ちゃんと一秒一分と時間を共にする今が。

 私、お兄ちゃんの為に治癒魔法頑張ったんだよ」

「...っ」


 今思えばいつからサユは治癒魔法を使いこなしていたっけ。

 気づいた時にはいつもサユが治癒してくれていた気がする。


「毎日、私とお母さんの為に瓦礫が崩れた街を歩き食べ物を持って帰ってきてはどこかしら怪我をしていた。

 そんなお兄ちゃんを見て、私もお兄ちゃんの役に立ちたくて、疲れや傷を治してあげたくて...。

 お兄ちゃんがいない間に毎日何時間も欠かさず練習してたんだよ。

 治癒した時に喜んでくれたことが嬉しかった。

 これからも私がお兄ちゃんの為に生きようと思った。

 だから、だから! 私は離れたくない」


 そうだったのか。

 俺はいつも揉め事で怪我をしたり、瓦礫に躓いて怪我をしたりしていた。

 家から離れた食料所に何時間もかけて歩いていき帰り。

 疲労で限界だった。

 そんな俺を毎日癒やしてくれたのがサユだ。


「ごめん」

「だからお兄ちゃん、離れろなんて言わないで...私を置いて行かないで。一人にしないで」


 俺は馬鹿だ。

 結局の所弱いことを理由に逃げていただけなんだ。

 サユを立派にさせるなら俺が強くなって、サユを輝かせる。

 それくらいやって当然だろ。

 だって俺はサユの兄なんだから。


「私は戦えない、でもお兄ちゃんは戦える。

 お兄ちゃんは怪我を癒せない、でも私は癒せる。

 互いの得意不得意を補ってプラマイゼロにするの!」

「...あぁ!」


 なんでそれを忘れていたんだろう。

 いつからか俺は無能さとサユの有能さでどうにかマイナスを消せているなんて思っていた。

 でもそんなんじゃない。

 俺達がもっと前から、あの時からやってきた事は互いを支え合うこと。

 俺にはサユが必要なんだ。


「やっと私の重要性に気づいた?」

「まぁな。酷い事言って悪かった」

「ううん、お兄ちゃんの言いたい事も理解るよ。でもね、私が一番輝けるのってお兄ちゃんの隣しか無いんだから!」

「流石にずっと隣はなぁ..。自立はしないとな」

「え〜嫌だ! ずっと暮らそっ!」

「...なんかその言葉は――」


 足音が聞こえてきた。


「はいはい。兄妹喧嘩は終わった?」


 そこに立っていたのはルナだった。

 後ろにはレインとミーシアスも立っていた。


「まさか聞いてたのか!?

「はい、仲直りのハグをしなさい」

「??」


 俺がきょとんとしているとサユが後ろで手を組んで近づいてきた。


「それじゃあ、言うよ...」

「な、何をする気何だ?」


 サユは手を大きく広げた。


「改めまして――」


 サユは俺に飛びつき抱きついてきた。


「お兄ちゃん、おかえりっ!!」


 ドカンッと打ち上がる一発の花火。

 サユのその一言で、ドクンと俺の鼓動が速くなるのを感じた。


「あぁ、ただいま」

「えへへ、やっとお兄ちゃんと心を割って話せたぁ!」

「くっつきすぎだぞ。ほら、花火だ、花火が沢山上がってるぞ」

「今はこうするの。それが私の幸せだって、言ったでしょ」

「ったく」


 俺はサユを抱きしめ、空に打ち上がる花火を見た。


「心拍早いよ、お兄ちゃん。もしかして久しぶりに甘えたから照れてる??」

「ち、違う。ただ花火の音に驚いただけだ」


 あの日、サユを拾った事。

 サユを人生を費やして育てた事。

 どれだけの苦労や苦難があったかも覚えられないほどの人生だった。

 それでも俺は自信を持ってサユと出会って良かったと思える。

 そしてこれからもそうであると思う。

 きっと遠い未来でもサユは俺の隣にいるんだろうな、なんてそんな事を思い浮かべながら俺はサユの頭に手を置いたのだった。

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